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第3話 風の旅立ち
7 黒き力を司る者
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戦場は輝き、兵士たちの興奮に湧いている。
「あなたは命の輝きを勝ち取ったようですな」
るりなみは伯爵の言葉にうなずき、それから風の子の様子をうかがった。
風の子は、戦いを見始めてからずっと、なにも言わずに唇をかみしめている。
るりなみからは隠れて見えなかったその奥の手に……黒い風を凝縮させたような、透明な刃が握られているのを見て、るりなみは息をのんだ。
伯爵が風の子の刃を見下ろした。
風の子はやっと伯爵を見た。
「一方であなたは、黒い風の力に魅入られたというわけですかな」
風の子はそれにはなにも答えず、るりなみのほうを向いた。
「るりなみ、俺はわかったんだ」
黒い刃をもう隠そうとはせず、じっと見つめながら、風の子は語る。
「俺は『悪しき風』になることにする。るりなみに助けてもらったあのときは、闇に染まるのが怖かったけれど……今は、その尊さもわかるんだ」
るりなみは静かに、風の子の告白を聞いていた。
「俺は、命を司る者をめざす。このおじさんについていくよ」
伯爵が「うむ」とうなずいた。
るりなみは小さくうなずき、微笑んだ。
「わかった。それが、君の道なら」
風の子は険しい顔で言った。
「俺、るりなみのもとにも、いつか行くかもしれないよ。るりなみの命を奪う力を持って」
「そのときは、そのときだよ。僕も、僕の道を進むから」
そのるりなみの言葉に、風の子はやっと表情をやわらげた。
「ありがとう、るりなみ。俺はおまえの友達だよ」
「僕も、君の友達だよ」
伯爵が、ひゅっ、と風の姿に戻った。続いて、風の子も……。
戦場の歓声を聞きながら、るりなみの意識も遠のいていった。
* * *
気づけば、ベッドの上で、ゆいりに顔をのぞきこまれていた。
「大丈夫ですか、るりなみ様。うなされていたようでしたから」
るりなみは目をぱちぱちとさせて、体を起こした。
大きなガラス窓の向こうに、暮れていく空が見えた。
体は、もう痛くもだるくもなかった。
「ゆいり、僕、よくなったかも」
「それはよかった。熱も下がったのでしょうかね」
「うん。僕の体の中にはね……」
るりなみは、あの戦場の光景を思い出そうとした。
だが、それはぼんやりとして、もうよくわからないのだった。
* * *
風の子はどうしているだろう……。
るりなみは時々その友達の、ひゅっ、という息吹を思い返す。
第3話 風の旅立ち * おわり *
「あなたは命の輝きを勝ち取ったようですな」
るりなみは伯爵の言葉にうなずき、それから風の子の様子をうかがった。
風の子は、戦いを見始めてからずっと、なにも言わずに唇をかみしめている。
るりなみからは隠れて見えなかったその奥の手に……黒い風を凝縮させたような、透明な刃が握られているのを見て、るりなみは息をのんだ。
伯爵が風の子の刃を見下ろした。
風の子はやっと伯爵を見た。
「一方であなたは、黒い風の力に魅入られたというわけですかな」
風の子はそれにはなにも答えず、るりなみのほうを向いた。
「るりなみ、俺はわかったんだ」
黒い刃をもう隠そうとはせず、じっと見つめながら、風の子は語る。
「俺は『悪しき風』になることにする。るりなみに助けてもらったあのときは、闇に染まるのが怖かったけれど……今は、その尊さもわかるんだ」
るりなみは静かに、風の子の告白を聞いていた。
「俺は、命を司る者をめざす。このおじさんについていくよ」
伯爵が「うむ」とうなずいた。
るりなみは小さくうなずき、微笑んだ。
「わかった。それが、君の道なら」
風の子は険しい顔で言った。
「俺、るりなみのもとにも、いつか行くかもしれないよ。るりなみの命を奪う力を持って」
「そのときは、そのときだよ。僕も、僕の道を進むから」
そのるりなみの言葉に、風の子はやっと表情をやわらげた。
「ありがとう、るりなみ。俺はおまえの友達だよ」
「僕も、君の友達だよ」
伯爵が、ひゅっ、と風の姿に戻った。続いて、風の子も……。
戦場の歓声を聞きながら、るりなみの意識も遠のいていった。
* * *
気づけば、ベッドの上で、ゆいりに顔をのぞきこまれていた。
「大丈夫ですか、るりなみ様。うなされていたようでしたから」
るりなみは目をぱちぱちとさせて、体を起こした。
大きなガラス窓の向こうに、暮れていく空が見えた。
体は、もう痛くもだるくもなかった。
「ゆいり、僕、よくなったかも」
「それはよかった。熱も下がったのでしょうかね」
「うん。僕の体の中にはね……」
るりなみは、あの戦場の光景を思い出そうとした。
だが、それはぼんやりとして、もうよくわからないのだった。
* * *
風の子はどうしているだろう……。
るりなみは時々その友達の、ひゅっ、という息吹を思い返す。
第3話 風の旅立ち * おわり *
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