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第3話 風の旅立ち
6 光の戦場で
しおりを挟むるりなみは闇の中に浮かんでいた。
目の前は真っ暗だ。
だが、だんだんとひとつの景色が映し出される。
それはるりなみが見たこともないような、大平原で繰り広げられる合戦の光景だった。
豆粒ほどに小さく見える兵士たちが、剣や槍をふりまわし、あちらこちらでなにものかと戦っている。
敵の姿は、兵士ではない。
黒い風。
そうとでも呼ぶべき、黒い渦巻きのようなものが、戦場のそこここに存在し、あるものは大きく吹き荒れ、あるものは兵士たちをおそっている。
迎え撃つ兵士たちの武器には、光がやどっていた。
あのときの……、とるりなみは、はっとする。その光は、るりなみが風の子を助けたときにあらわした心の灯のあたたかな光と、とてもよく似ていた。
そして、その兵士たちを見ているうちに、るりなみは直観していた。
この戦場は……るりなみの体の中なのだと。
小さな兵士たちは、るりなみの体の中で戦っている戦士たちなのだと。
そしてあの黒い風は……。
気づけば、上空に浮かんで戦場を見下ろしているるりなみのとなりに、伯爵と風の子の姿があった。二人とも、無言で戦場を見つめている。
るりなみは伯爵に声をかけた。
「あの黒い風は、あなたですね。僕の体の中の……」
「ええ、お察しのとおりです」
「あなたは……あの黒い風は、命を奪う力を持っているのですね」
「ええ、ある者は死に、ある者は生きます」
「それってなんだか……」
るりなみは、黒い風に今まさに倒されていく兵士の姿を見ながら言った。
「……神様の力みたいですね」
伯爵は戦場から目を転じ、るりなみをじっと見つめた。
「神ですか。ふむ、おもしろいことを言いなさる」
伯爵はひげをなでながら、戦場でもるりなみでもない遠くの空を見やるようにした。
「神ではありませんよ。ですが、自然のひとつの力です。それを、わたくしどもは担わせてもらっているのです」
戦いは続いていった。
だがだんだんに、兵士たちの武器がまとう光が、強くなってきた。
光は武器にやどるだけのものではなくなり、兵士たちすべてを包みこんでいく。
そのきらきらとした様子は、日差しを受けた水面を見ているかのようだった。
「わたくしと戦うことで、光を得る者もいるのです」
伯爵が静かにそう言った。
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