上 下
13 / 126
第3話 風の旅立ち

5 病の奥底へ

しおりを挟む

 るりなみはそれから何日も高熱こうねつにうなされた。
 天蓋てんがいつきの大きなベッドに横たわり、一歩も部屋の外に出ることはできなかった。

 そのベッドのかたわらにずっと、あの風の伯爵と風の子が、そろって立っていた。

 風の子は心配そうにるりなみをうかがっている。
 伯爵はそんな風の子をせいするように、けわしいおももちで杖をついていた。

 頭ががんがんとし、すべてがぼうっとする。
 だがその中でるりなみは、伯爵と風の子を見つめていた。

 風の子が時折ときおり「るりなみ……」と弱々しく呼びかけるほかは、言葉も交わさなかった。

 るりなみの様子を見に、教育係のゆいりが部屋にあらわれると、伯爵と風の子は、ひゅん、と風の姿に戻り、窓から出ていった。

 だがゆいりがいなくなると、彼らはまたやってくる。

 ゆいりはしかし、最初からこの来客らいきゃくたちに気づいていたようだった。

「るりなみ様……あの変わった者たちですが、お引き取り願いましょうか?」

 言葉こそ丁寧ていねいだが、ゆいりは強い調子でそう言った。
 るりなみは小さな声で、だがはっきりと答えた。

「いや、もうちょっとあの人たちといたいんだ。だから、そのままにしておいて」
「ですが、るりなみ様のそのお体の具合は……あの者たちが原因げんいんでは……」
「もうちょっとだから、お願い」

 ゆいりは小さく息をつくと、「わかりました」と言って出ていった。
 入れ替わるように、伯爵と風の子が入ってきて、人の姿になって現れた。

「変わってますね、あなたは」

 伯爵がはじめて、るりなみに声をかけた。
 るりなみはぼうっとしたまま「そうでしょうか」と答えた。

 風の子がなにか言おうとしたが、伯爵がさえぎった。

「そんなあなたには特別とくべつに……これを見せてしんぜましょう」

 その言葉を聞いたとたん、体がどくん、と波打ったかと思うと、闇に引きこまれるように視界しかいが暗くなった。


   *   *   *
しおりを挟む

処理中です...