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第3話 風の旅立ち
1 心のともし灯
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深い森と澄んだ湖のあいまに、ユイユメ王国の町々が見えています。
そのひとつの町は、小さいながらとても古い歴史を持っておりました。
町の裏山には、山の神様をまつった、こぢんまりとしたお堂がたたずんでいます。
このお堂で、王子るりなみのふしぎな冒険がはじまろうとしていました──。
* * *
「心の灯?」
昼間でもうす暗く、冷んやりとしたお堂の中。
山の神様をまつった祭壇のとなりで、るりなみは祭司の青年から話を聞いていた。
るりなみの青い瞳をまっすぐに見つめながら、祭司の青年はかしこまって話をしていた。るりなみは十歳であるとはいえ、この国の王子だったからだ。
「そう、心の灯。そういう言い伝えがございましてね」
祭司の青年は、決まりどおりの三つ編みの髪に、ゆったりとした白い服をまとっている。その手に、ガラスの器に入れられたろうそくを持っていた。
太く短いろうそくは真っ赤な色をしている。
そのろうそくに、祭司の青年はマッチで火を灯した。
「さぁ、火がつきました」
るりなみはこのろうそくを持って、お堂の裏山へ行くことになっていた。
それは、このお堂に伝わる小さな試練だった。
火の灯されたろうそくを持って、裏山の祠にお参りをする。ろうそくの火を消さずに帰ってこられたら、願いが叶うと言われていた。
「このろうそくの灯りは『心の灯』をあらわしたものと言われていましてね。でも、本物の『心の灯』が、あなたに宿ることもあるかもしれません」
るりなみは首をかしげる。
「本物の心の灯って、なんですか?」
祭司は朗らかに、だが重々しい顔で言った。
「山の神様は、真の勇気と優しさを持つ者に、『心の灯』を宿してくださるのだ、と言われています」
「勇気と……優しさ……」
るりなみはそうつぶやくと、微笑みを浮かべた。
「わかりました。確かめてみたいです、その心の灯を宿すことができるかどうかを」
「そうなるよう、願っておりますよ」
祭司はそう言って、るりなみにろうそくの入った器を渡した。
「ありがとうございます。では行ってきます」
ゆらゆらと揺れる炎が消えないように。
るりなみは慎重にお堂を出ようとした。
「あ、るりなみ様! そうだ、そういえば!」
祭司が、追いすがるように声をかけてきた。
るりなみは振り返る。
「裏山には、ちょっとしたいたずら者がおりまして……試練を受ける者がいると、ちょっかいを出そうとしてくるかもしれませんから、お気をつけて」
「いたずら者……ですか?」
「なんといいますか、変わった子どもなんですが……なんというのかな……」
祭司が言いにくそうにしているので、るりなみはこくりとうなずいた。
「わかりました、気をつけます」
そうしてるりなみは、裏山の祠へと出発した。
* * *
そのひとつの町は、小さいながらとても古い歴史を持っておりました。
町の裏山には、山の神様をまつった、こぢんまりとしたお堂がたたずんでいます。
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* * *
「心の灯?」
昼間でもうす暗く、冷んやりとしたお堂の中。
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太く短いろうそくは真っ赤な色をしている。
そのろうそくに、祭司の青年はマッチで火を灯した。
「さぁ、火がつきました」
るりなみはこのろうそくを持って、お堂の裏山へ行くことになっていた。
それは、このお堂に伝わる小さな試練だった。
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「このろうそくの灯りは『心の灯』をあらわしたものと言われていましてね。でも、本物の『心の灯』が、あなたに宿ることもあるかもしれません」
るりなみは首をかしげる。
「本物の心の灯って、なんですか?」
祭司は朗らかに、だが重々しい顔で言った。
「山の神様は、真の勇気と優しさを持つ者に、『心の灯』を宿してくださるのだ、と言われています」
「勇気と……優しさ……」
るりなみはそうつぶやくと、微笑みを浮かべた。
「わかりました。確かめてみたいです、その心の灯を宿すことができるかどうかを」
「そうなるよう、願っておりますよ」
祭司はそう言って、るりなみにろうそくの入った器を渡した。
「ありがとうございます。では行ってきます」
ゆらゆらと揺れる炎が消えないように。
るりなみは慎重にお堂を出ようとした。
「あ、るりなみ様! そうだ、そういえば!」
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るりなみは振り返る。
「裏山には、ちょっとしたいたずら者がおりまして……試練を受ける者がいると、ちょっかいを出そうとしてくるかもしれませんから、お気をつけて」
「いたずら者……ですか?」
「なんといいますか、変わった子どもなんですが……なんというのかな……」
祭司が言いにくそうにしているので、るりなみはこくりとうなずいた。
「わかりました、気をつけます」
そうしてるりなみは、裏山の祠へと出発した。
* * *
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