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第2話 石像の鳥

3 遠い昔に君は

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 るりなみは石像の鳥を、眠るときはベッドの上に、勉強するときは机のはしに、という具合に、いつも近くにながめて過ごした。
 そしてときどき、がんばって目を合わせ、鳥をおどらせるのだった。

 そんなふうにして数日がたったころ

 勉強部屋の窓ぎわの机に並べられたままになっていた鳥たちに、異変いへんがあった。

 半数以上が、いたましくひび割れてこわれてしまっていたのだ。

「……そんな……!」
「どうしましたか」

 遅れて入ってきたゆいりは、青ざめたるりなみを見て声をかけた。

 壊れた鳥たちをみとめると、ゆいりはけわしい表情でひとつひとつを調べはじめた。

「だれかが、壊してしまったの?」

 おそるおそるたずねるるりなみに、わかりません、とゆいりは静かに首を左右にふる。



 だが、翌日になると、無事だった石像のうちの半分ほどが、また壊れていた。

 ゆいりはあごに手をやりながら、うーん、と首をひねっている。

「るりなみ様、これは石像がひとりでに壊れてしまったのかもしれません」
「ひとりでに? どうして?」
鉱山こうざんから見つかった古いものですし、もともと長くはもたない作りなのかも」

「そんな……僕の鳥も、壊れちゃうのかな」

 持ち歩いていた自分の鳥を、るりなみはきゅっと大事ににぎりなおした。

 るりなみは鳥に踊らせることをやめ、授業中も、食事の間ですらも握りしめていた。

 壊れないように、壊れないように。

 つらい気持ちで悲しい祈りを胸にだきながら、ときどき鳥をそっとなでて過ごした。

*   *   *

 その晩もるりなみは、王宮の真ん中のガラスの塔の部屋で、慎重しんちょうに鳥をにぎりしめながら大きなベッドに入った。

 るりなみは鳥に話しかける。

「ねぇ、君は、遠い昔、ひょっとして本物の鳥だったのかな。それとも、誰か魔法の職人しょくにんさんに、たましいをこめられたのかな。どっちにしても、君は、生きているんだよね」

 鳥は答えないが、声は届いているはずだ、とるりなみは信じていた。

 だが、大事な宝物を握って眠った次の朝……。

 目を覚ましてすぐに、ベッドの中で手を開くと、鳥は壊れていた。

 ばらばらになった破片はへんが、るりなみの手からぽろりと布団の上に落ちる。

「あ……!」

 しかし、るりなみは目を見はった。

 壊れ落ちた鳥のぼろぼろの体から、光りかがや透明とうめいな鳥があらわれ、羽ばたいたのだ。

 それはまるで、石像から光の鳥が生まれ出るようだった。

 光の鳥はるりなみの周りを何度かまわると、ガラスをつきぬけて窓の外へと羽ばたいていった。

   *   *   *
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