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第2話 石像の鳥
1 小さな像たち
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深い森と雲の海をこえた先、なだらかな山々と輝くような湖のそのあいま。
七角形に作られた、ユイユメ王国のかわいらしい都が、そこにそびえています。
石畳の街を、めぐらされた水路を、魔法に彩られたさまざまなものが行き来します。
王子るりなみのもとには、今日はどんなふしぎな風が吹くのでしょう──。
* * *
湖の底に揺れているような、深い青色。そんな色の髪と瞳を持つるりなみは、十歳になるこの国の王子だった。
るりなみの暮らす王宮は、真ん中にある大きな巻き貝のようなガラスの塔と、その四方にある、ろうそくのような石の塔とでできている。
るりなみの眠る部屋はガラスの塔の上のほうにあり、勉強をする部屋は、北側の石の塔にあった。
その晴れた朝も、るりなみは、中庭に面した渡り廊下を通り、北の塔に向かった。
勉強をする部屋には、空に向けてつくられた扉であるかのような大きな窓が、いくつも並ぶ。
その窓から朝の光がいっぱいにさしこむ中で、るりなみの大好きな先生が、机の上に見たこともないものを並べていた。
教育係の先生、ゆいり。
王宮に仕える魔法使いで、本当の年齢はるりなみも知らない。大人になったばかりの若者に見えることもあれば、歳とった賢者のように見えることもある。
流れるような黒い髪は腰ほどまでの長さがあり、ゆったりとした魔法使いのローブを着ているのもあって、女性のようにも見える温和な人物だった。
朝の挨拶をしようしたものの、るりなみはゆいりの並べるものに目を奪われ、吸いよせられるように机のほうに向かった。
ゆいりは大きな木箱から、くもり空のような灰色のかたまりを取り出し、丁寧にひとつずつ、黙々と机の上に並べていく。
近づいてみると、それは小さな石像だった。
「鳥……?」
そう、石像は、鳥の形をしている。
るりなみのつぶやきには答えずに、ゆいりは最後の石像を並べ終えると、今度はじっとひとつの石像をにらみはじめる。
ゆいりがあまりに真剣なので、るりなみは話しかけることもできず、見守っていた。
すると、ゆいりの目の前の石像から、ばちぃっ! という音がした。
「やった、動きました!」
ゆいりが珍しく子どものように無邪気な声をあげて、石像を持ちあげた。
自慢するみたいににっこりとしながら、ゆいりはそれを、るりなみの前にさしだす。
るりなみは石像をまじまじと見つめて、あっ、と声をあげた。
「今、動いた!」
石像の鳥が、身震いするかのように動いた気がする。
「動いたでしょう? よかった、持ってきてもらったかいがありました」
しばらく見ていると、ぎ、ぎ、という音がしたかと思うと、鳥の胴体から翼がはがれるように持ちあがり、ばたばたと動き出した。
石造りであるにもかかわらず、その羽の動きはとても柔らかかった。
るりなみは目を輝かせて、ゆいりの手の中の鳥に見入っていた。
「触ってもいい?」
どうぞ、とゆいりは鳥を渡してくれる。
七角形に作られた、ユイユメ王国のかわいらしい都が、そこにそびえています。
石畳の街を、めぐらされた水路を、魔法に彩られたさまざまなものが行き来します。
王子るりなみのもとには、今日はどんなふしぎな風が吹くのでしょう──。
* * *
湖の底に揺れているような、深い青色。そんな色の髪と瞳を持つるりなみは、十歳になるこの国の王子だった。
るりなみの暮らす王宮は、真ん中にある大きな巻き貝のようなガラスの塔と、その四方にある、ろうそくのような石の塔とでできている。
るりなみの眠る部屋はガラスの塔の上のほうにあり、勉強をする部屋は、北側の石の塔にあった。
その晴れた朝も、るりなみは、中庭に面した渡り廊下を通り、北の塔に向かった。
勉強をする部屋には、空に向けてつくられた扉であるかのような大きな窓が、いくつも並ぶ。
その窓から朝の光がいっぱいにさしこむ中で、るりなみの大好きな先生が、机の上に見たこともないものを並べていた。
教育係の先生、ゆいり。
王宮に仕える魔法使いで、本当の年齢はるりなみも知らない。大人になったばかりの若者に見えることもあれば、歳とった賢者のように見えることもある。
流れるような黒い髪は腰ほどまでの長さがあり、ゆったりとした魔法使いのローブを着ているのもあって、女性のようにも見える温和な人物だった。
朝の挨拶をしようしたものの、るりなみはゆいりの並べるものに目を奪われ、吸いよせられるように机のほうに向かった。
ゆいりは大きな木箱から、くもり空のような灰色のかたまりを取り出し、丁寧にひとつずつ、黙々と机の上に並べていく。
近づいてみると、それは小さな石像だった。
「鳥……?」
そう、石像は、鳥の形をしている。
るりなみのつぶやきには答えずに、ゆいりは最後の石像を並べ終えると、今度はじっとひとつの石像をにらみはじめる。
ゆいりがあまりに真剣なので、るりなみは話しかけることもできず、見守っていた。
すると、ゆいりの目の前の石像から、ばちぃっ! という音がした。
「やった、動きました!」
ゆいりが珍しく子どものように無邪気な声をあげて、石像を持ちあげた。
自慢するみたいににっこりとしながら、ゆいりはそれを、るりなみの前にさしだす。
るりなみは石像をまじまじと見つめて、あっ、と声をあげた。
「今、動いた!」
石像の鳥が、身震いするかのように動いた気がする。
「動いたでしょう? よかった、持ってきてもらったかいがありました」
しばらく見ていると、ぎ、ぎ、という音がしたかと思うと、鳥の胴体から翼がはがれるように持ちあがり、ばたばたと動き出した。
石造りであるにもかかわらず、その羽の動きはとても柔らかかった。
るりなみは目を輝かせて、ゆいりの手の中の鳥に見入っていた。
「触ってもいい?」
どうぞ、とゆいりは鳥を渡してくれる。
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