3 / 126
第1話 海を呼ぶ
3 魔法の呼びかけ
しおりを挟む翌朝、地理の授業がはじまっても、るりなみはぼうっとしていた。
王子のるりなみは、他の子どもたちといっしょになって学校で学ぶわけではなかった。るりなみは教育係の何人かの先生から、一対一で、いくつもの科目を教わっていた。
その中でも一番親しい先生が、今、地理を教えてくれている「ゆいり」という青年だ。ゆいりは王宮に仕える魔法使いだった。
ゆいりはまっすぐに長い黒い髪に、ゆったりとした魔法使いの服装をして、女性のような柔らかな顔でるりなみをうかがった。
「るりなみ様、なにかとっておきの秘密に心を奪われておいでのようですね?」
るりなみはゆいりのことを深く信頼していたが、そう、あの手紙のことは秘密にしておきたかった。
それを言い当てられて、るりなみはおずおずとうなずいた。
「……海に行きたいんだ」
机の上のノートと本のあいまには、海の底を描いた絵が見えていた。
ゆいりは「ふむふむ」と微笑んだ。この絵は、るりなみが描いたのだろう、と。
「るりなみ様が行きたいのは、海は海でも、深い海の底ですね?」
るりなみは目を見開いた。
「そう! ねぇ、海の底に行く方法はない?」
「じゃあ、呼んでみましょうか」
「呼ぶってなにを?」
ゆいりは机のわきに立てかけてあった魔法使いの杖を手に取って、掲げてみせた。
「海を、です」
ゆいりはそう言うと、風に乗るかのようにして、バルコニーのカーテンと窓をさっと開け放った。
そして、眼下の街へ向けて長い杖を振って、歌うように言葉を唱えはじめた。
この世のすべてのいきものの、母なる星のふところよ、
くらき闇夜の光のかなた、とうとき灯りのさいはてに、
たゆたうものよ、今ここへ……。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
下出部町内漫遊記
月芝
児童書・童話
小学校の卒業式の前日に交通事故にあった鈴山海夕。
ケガはなかったものの、念のために検査入院をすることになるも、まさかのマシントラブルにて延長が確定してしまう。
「せめて卒業式には行かせて」と懇願するも、ダメだった。
そのせいで卒業式とお別れの会に参加できなかった。
あんなに練習したのに……。
意気消沈にて三日遅れで、学校に卒業証書を貰いに行ったら、そこでトンデモナイ事態に見舞われてしまう。
迷宮と化した校内に閉じ込められちゃった!
あらわれた座敷童みたいな女の子から、いきなり勝負を挑まれ困惑する海夕。
じつは地元にある咲耶神社の神座を巡り、祭神と七葉と名乗る七体の妖たちとの争いが勃発。
それに海夕は巻き込まれてしまったのだ。
ただのとばっちりかとおもいきや、さにあらず。
ばっちり因果関係があったもので、海夕は七番勝負に臨むことになっちゃったもので、さぁたいへん!
七変化する町を駆け回っては、摩訶不思議な大冒険を繰り広げる。
奇妙奇天烈なご町内漫遊記、ここに開幕です。
そばにいるよ
景綱
児童書・童話
お父さんをなくしたさとみは、さみしくて死んでしまいたい気持ち。そこへあやしくゆらめく黒いカゲが近づいて……。
空きカンの中に閉じ込められたさとみとさとみを守り続ける白いネコ。
ぐうぜんにさとみを知った翔太が、救いの手をのばそうとしたそのとき、またしても黒ずくめの男があらわれて――。
ひとりぼっちの君にもきっと、やさしいまなざしで見守る人が、そばにいる。
『たいせつな人を守りたい』
だれもが持つ心の光が、きらめく瞬間。
絵本・児童書大賞にエントリー。
クールな幼なじみと紡ぐロマン
緋村燐
児童書・童話
私の名前は莉緒。
恋愛小説が大好きな中学二年生!
いつも恋愛小説を読んでいたら自分でも書いてみたくなって初めて小説を書いてみたんだ。
けれどクラスメートに馬鹿にされちゃった……。
悲しくて、もう書くのは止めようって思ったんだけど――。
「確かに文章はメチャクチャかも。でも、面白いよ」
幼なじみのクールなメガネ男子・玲衣くんが励ましてくれたんだ。
玲衣くんに助けてもらいながら、書き続けることにした私。
そして、夏休み前に締め切りのある短編コンテストにエントリーしてみることにしたんだ。
*野いちごにも掲載しております。
ぼくらのごはん
1000
児童書・童話
ぼくは しろくて ちいさな とり
ぼくも ママも 空を飛べない
怪我をしたママと、ごはんをたべられない ぼくは、
これからも いきるために……?
最終話は2023-07-13 18:00に完結しました!宜しくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる