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第1話 海を呼ぶ

2 深海からの手紙

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 王宮おうきゅうのるりなみの部屋は、ガラスの天井てんじょうからしこむ光でいつも明るい。
 バルコニーに続く窓からはそよそよと春の風が入り、レースみのカーテンをらしていた。

 大きなベッドにこしかけると、るりなみは手紙をひらいた。

「はじめまして、それとも、どこかの夢で会っていたかしら……」

 るりなみは落ちついた声で、誰に聞かせるともなく、手紙を読みあげていった。



   *   *   *

 はじめまして、それとも、どこかの夢で会っていたかしら。
 おかのあなたへ、深い水の底のわたしのらしをおつたえします。

 水の底って、どんな世界か、想像そうぞうができますか?

 街があって、丘があって、森があります。海草かいそうの森です。

 街には真珠しんじゅ街灯がいとうがあって、夜でも昼でも、ぽうっと明るく光っています。

 街の真ん中にはそれはそれはまばゆい真珠のあかりがあります。その真珠は今も少しずつ大きくなっていて、星のように明るいんです。

 水の底ならではの、便利べんり機械きかいもあります。

 完璧かんぺきに美しい形にできたき貝は、波間なみまの光をぱっとつかまえて、遠くの人と通話つうわを結んでくれます。

 いきものたちも、おもしろいのです。

 イルカの歌い手は、竪琴たてごとをかきならしながら、旅の物語を歌ってくれます。大きな魚たちはいつもけっこしているし、小さな魚たちはれになって踊ります。

 そしてわたしは……、わたしは、だれでしょう?

 わたしはもうすぐ大人になって、旅に出ます。

 この街をはなれるのはさびしいけれど、旅の先で、あなたに会えますように。

 いのりをこめて。

   *   *   *



 ……るりなみは、ほう、と息をついて手紙から顔をあげた。

 あざやかな水底みなそこの国の景色が、手紙を読みながら、目の前にあらわれては消えていくかのようだった。

 それにしても、この「わたし」というのは、どんなひとなんだろう。
 少女だろうか。水のいきものだろうか。
 僕と同い年くらいだったら……、とるりなみは想像をめぐらせた。

 そしてるりなみは、しばらくしてから、最後の紙の裏側うらがわ追伸ついしんに気づいた。



* 追伸 *

 あなたのいるおかの上は、どんな暮らしなのでしょう?
 あなたの好きなものは? 旅をしたことはある?



「返事を書かなくちゃ」

 るりなみはあわただしく立ち上がると、机に向かった。
 引き出しから便箋びんせんを取り出して広げ、鳥の尾羽おばねでつくられたペンを取る。

「はじめまして」

 一言ひとこと、るりなみは声に出しながら、なめらかな文字を書いていく。

「ここはユイユメ王国という魔法の国です」

 夢中になって、書いていく。
 やがて……。

「書けた……!」

 書き上がった手紙をじっと読み返すと、ふふ、と笑いがもれてきた。

 とどくといいな。
 よろこんでもらえるといいな。

 るりなみは丁寧ていねいに、自分の手紙を丸めてびんにしまった。

   *   *   *
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