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第2章 時の使者
35話 緊急手術
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「見た感じ万夏の効果が適用された範囲はスカイツリーだけみたいだ」
益田との死闘を終え、アドレナリンがほとんど切れた冬馬の全身に激痛が走っていた。歩くために使う筋肉ですらまともに動かせないほどであり、痛みを堪え周囲の状況を確認しながらいつもの何倍も遅くなっているがコンテナを生成させる。学校ですずが使者と人間との争いに巻き込まれているかもしれないと思うと心臓の鼓動が早まり脂汗が吹き出ていた。
底面から始まり囲うようにコンテナが出来上がるのを確認し乗り込む。平常時よりも安定しておらず一回り小さくなってしまったが乗れないことはないと妥協する。
「もう始まっちゃってるかな……すず…」
冬馬を乗せた飛行物体はいつもより低速で学校の元へと移動していく。学校に近づくにつれ緊張感は高まっていく。学校の周りは意外にも静かであり変化を感じる部分はなかった。益田の嘘かと本気で錯覚するほどに動く人の影すらなかったのだ。冬馬はすずの無事を切に願い校庭へと荒々しく着地させていくのだった。
体力のなくなった冬馬がその着地に対応できず倒れ込むことなど想像に難くない。限界を迎え消失したコンテナの中から死にかけた冬馬だけが校庭に野ざらしにされる。今人間に襲撃されたらなんて考えたくもないなどと見た目に反して余裕そうな事を考えていると何かが近づいていることに気づく。人間でないことを祈りながら動けない体を無理やり動かすしかない。
「主様~…ってボロッボロじゃないっスか!!氣琵といい何があったんスか!?」
「あ、あはは……ちょっとね…とりあえず輝宝のもとに運んでもらってもいいかな?」
「かしこまりっス!それまで死んじゃダメっスよ」
冬馬のもとに近づきあまりの怪我の酷さに慌ててていたのは道化師のような格好をした少女、木之伸であった。木之伸は冬馬を肩に背負い込み輝宝のいる保健室へと早足で向かっていた。さすがの脚力というか怪我だらけの冬馬が本当に人に抱えられているのかを疑うような安定感と人ではありえないような速度で保健室へと運ばれていったのだった。
「輝宝!主様が!!」
「うるっさいねぇ……ってえぇ!?酷い大怪我じゃない!!早くこっちに!」
「了解っス!!」
薄紫の髪を揺らし振り向くのは長いまつげを持ち、艶やかで大人な雰囲気を漂わせ白衣を着こなしている輝宝であった。
あまりの怪我の酷さに輝宝ですら大声を出しベッドの上へ運ぶよう指示をする。乗せられた瞬間から輝宝の手術は開始され冬馬の傷元で何かを入れ込んでいるのがわかった。糸を通されているかのような感覚はあるものの不思議と痛みはなく骨まで響くような苦痛をもたらしていた箇所が徐々に減っていくのがわかる。
「き、木之伸…」
「喋らないで!ズレちゃうから!」
「……」
この学校への襲撃のこと、すずの安否など今すぐに聞きたいことが冬馬の頭をいっぱいにし冬馬を心配そうに見つめる木之伸に知らせようと口を開くも輝宝の怒号により断ち切られる。
「…っはい!終わり!」
「ありがとう輝宝。助かったよ」
「つっかれたぁ~!!」
数十分間の施術を経て冬馬の体から痛みを感じる場所は一つもなくなっていた。手術を終えた輝宝は椅子に倒れるように座り込み額から流れた汗をようやく拭き上げていたのだった。そんな輝宝の姿に自身がどこまで大変な状態だったのか察する。
「それでなんだけど木之伸、さっきの続きを言わせてほしいんだけどさ」
「は、はいっス!」
「詳しい話は割愛するんだけどさ、このあたりに数百人程度の人間がここを襲撃するらしいんだ!それで……」
「ああ、そのことっスか。それなら大丈夫っスよ」
「え…?」
「主様が出かけてからちょっとしてからかな、人間が集まってきたのがよーくわかったっス。まあ人間風情、何匹集まっても雑魚は雑魚。使者たちだけで十分でしたっスよ」
「じゃあ…」
「今頃使者たちと戦ってるんじゃないっスかね。少なくともここに来れた人間なんて一人もいなかったっス」
「よかったぁ……じゃあすずたちも…」
「もちろん無事っス!まあ氣琵だけは少し怪我してたっスけど」
「ああ…よかっ…た」
「ちょっ…!」
その回答に安堵したからか、深い溜め息と同時に冬馬の気力は完全になくなり眠るように意識を失っていったのだった。突然の出来事に木之伸と輝宝は目を丸くしていたのだった。
「聞きたいことが山ほどあったんスけどねえ」
「まあいいんじゃない?今は寝かせといても」
「にしても主様があんな大怪我を負うなんてびっくりっスよ」
「ほんと、人間であんな大怪我、なんで生きてるのかわからないくらいのものなんだけど」
「そりゃあ主様はそこらの人間なんかとじゃひと味もふた味も違いまスから」
「あんたが自慢げになる理由が全くもってわからないんだけどね」
安らかな寝息を立てる冬馬を横に小声で二人は人間離れした主をからかうように話す。
実際半分死体のような状態でここまで一人で戻ってきたと考えたとき本当に人間かどうかは疑わしいほどのものであった。我々を生み出した主だと改めて感じさせられたと同時にそんな主をここまで追い詰めた人間がいるという事実に震撼する。ここら付近にいた人間たちとは格が違うのだと確信し、キョウヤのことも踏まえて人間への警戒心をもう少し高める必要があるのではと二人の背筋を伸ばすこととなった。
「…ってかあんた、見張りなんじゃないの?こんなところにいつまでもいちゃダメでしょ」
「っとそうだった…。主様のことはオイラから衣都遊たちに伝えとくっス。もし目が覚めたときは…」
「わかってる」
意思を疎通したかのように木之伸はその場を飛ぶように去る。相変わらずの調子に輝宝もまた落ち着いた様子で微笑むのであった。
「にしても疲れたぁ」
そう言いながら輝宝は机の引き出しから一冊の本を取り出し先程まで読んでいたページに開き直す。暇な時が多い輝宝にとって暇つぶしとなるものこそ読書であった。
「やっぱ仕事終わりの癒やしは体に染みるわぁ」
その中でも一番のお気に入りは恋愛系であり今読んでいるのも恋愛系であった。正直恋愛というのがなにかわからないがこれを読んでいるときに起こる胸の奥で心臓が高鳴るような感覚が癖になりやめられないのだ。偶然見つけた本だったが初めて読んだ時の衝撃はものすごくそれ以来図書室から持ち出すほどに恋愛小説というものを愛読しているのだ。
「しあわせ~」
先程まで大忙しだった手術のことなどもう忘れてしまうほどに静かで穏やかな時間を過ごしていたのだった。
益田との死闘を終え、アドレナリンがほとんど切れた冬馬の全身に激痛が走っていた。歩くために使う筋肉ですらまともに動かせないほどであり、痛みを堪え周囲の状況を確認しながらいつもの何倍も遅くなっているがコンテナを生成させる。学校ですずが使者と人間との争いに巻き込まれているかもしれないと思うと心臓の鼓動が早まり脂汗が吹き出ていた。
底面から始まり囲うようにコンテナが出来上がるのを確認し乗り込む。平常時よりも安定しておらず一回り小さくなってしまったが乗れないことはないと妥協する。
「もう始まっちゃってるかな……すず…」
冬馬を乗せた飛行物体はいつもより低速で学校の元へと移動していく。学校に近づくにつれ緊張感は高まっていく。学校の周りは意外にも静かであり変化を感じる部分はなかった。益田の嘘かと本気で錯覚するほどに動く人の影すらなかったのだ。冬馬はすずの無事を切に願い校庭へと荒々しく着地させていくのだった。
体力のなくなった冬馬がその着地に対応できず倒れ込むことなど想像に難くない。限界を迎え消失したコンテナの中から死にかけた冬馬だけが校庭に野ざらしにされる。今人間に襲撃されたらなんて考えたくもないなどと見た目に反して余裕そうな事を考えていると何かが近づいていることに気づく。人間でないことを祈りながら動けない体を無理やり動かすしかない。
「主様~…ってボロッボロじゃないっスか!!氣琵といい何があったんスか!?」
「あ、あはは……ちょっとね…とりあえず輝宝のもとに運んでもらってもいいかな?」
「かしこまりっス!それまで死んじゃダメっスよ」
冬馬のもとに近づきあまりの怪我の酷さに慌ててていたのは道化師のような格好をした少女、木之伸であった。木之伸は冬馬を肩に背負い込み輝宝のいる保健室へと早足で向かっていた。さすがの脚力というか怪我だらけの冬馬が本当に人に抱えられているのかを疑うような安定感と人ではありえないような速度で保健室へと運ばれていったのだった。
「輝宝!主様が!!」
「うるっさいねぇ……ってえぇ!?酷い大怪我じゃない!!早くこっちに!」
「了解っス!!」
薄紫の髪を揺らし振り向くのは長いまつげを持ち、艶やかで大人な雰囲気を漂わせ白衣を着こなしている輝宝であった。
あまりの怪我の酷さに輝宝ですら大声を出しベッドの上へ運ぶよう指示をする。乗せられた瞬間から輝宝の手術は開始され冬馬の傷元で何かを入れ込んでいるのがわかった。糸を通されているかのような感覚はあるものの不思議と痛みはなく骨まで響くような苦痛をもたらしていた箇所が徐々に減っていくのがわかる。
「き、木之伸…」
「喋らないで!ズレちゃうから!」
「……」
この学校への襲撃のこと、すずの安否など今すぐに聞きたいことが冬馬の頭をいっぱいにし冬馬を心配そうに見つめる木之伸に知らせようと口を開くも輝宝の怒号により断ち切られる。
「…っはい!終わり!」
「ありがとう輝宝。助かったよ」
「つっかれたぁ~!!」
数十分間の施術を経て冬馬の体から痛みを感じる場所は一つもなくなっていた。手術を終えた輝宝は椅子に倒れるように座り込み額から流れた汗をようやく拭き上げていたのだった。そんな輝宝の姿に自身がどこまで大変な状態だったのか察する。
「それでなんだけど木之伸、さっきの続きを言わせてほしいんだけどさ」
「は、はいっス!」
「詳しい話は割愛するんだけどさ、このあたりに数百人程度の人間がここを襲撃するらしいんだ!それで……」
「ああ、そのことっスか。それなら大丈夫っスよ」
「え…?」
「主様が出かけてからちょっとしてからかな、人間が集まってきたのがよーくわかったっス。まあ人間風情、何匹集まっても雑魚は雑魚。使者たちだけで十分でしたっスよ」
「じゃあ…」
「今頃使者たちと戦ってるんじゃないっスかね。少なくともここに来れた人間なんて一人もいなかったっス」
「よかったぁ……じゃあすずたちも…」
「もちろん無事っス!まあ氣琵だけは少し怪我してたっスけど」
「ああ…よかっ…た」
「ちょっ…!」
その回答に安堵したからか、深い溜め息と同時に冬馬の気力は完全になくなり眠るように意識を失っていったのだった。突然の出来事に木之伸と輝宝は目を丸くしていたのだった。
「聞きたいことが山ほどあったんスけどねえ」
「まあいいんじゃない?今は寝かせといても」
「にしても主様があんな大怪我を負うなんてびっくりっスよ」
「ほんと、人間であんな大怪我、なんで生きてるのかわからないくらいのものなんだけど」
「そりゃあ主様はそこらの人間なんかとじゃひと味もふた味も違いまスから」
「あんたが自慢げになる理由が全くもってわからないんだけどね」
安らかな寝息を立てる冬馬を横に小声で二人は人間離れした主をからかうように話す。
実際半分死体のような状態でここまで一人で戻ってきたと考えたとき本当に人間かどうかは疑わしいほどのものであった。我々を生み出した主だと改めて感じさせられたと同時にそんな主をここまで追い詰めた人間がいるという事実に震撼する。ここら付近にいた人間たちとは格が違うのだと確信し、キョウヤのことも踏まえて人間への警戒心をもう少し高める必要があるのではと二人の背筋を伸ばすこととなった。
「…ってかあんた、見張りなんじゃないの?こんなところにいつまでもいちゃダメでしょ」
「っとそうだった…。主様のことはオイラから衣都遊たちに伝えとくっス。もし目が覚めたときは…」
「わかってる」
意思を疎通したかのように木之伸はその場を飛ぶように去る。相変わらずの調子に輝宝もまた落ち着いた様子で微笑むのであった。
「にしても疲れたぁ」
そう言いながら輝宝は机の引き出しから一冊の本を取り出し先程まで読んでいたページに開き直す。暇な時が多い輝宝にとって暇つぶしとなるものこそ読書であった。
「やっぱ仕事終わりの癒やしは体に染みるわぁ」
その中でも一番のお気に入りは恋愛系であり今読んでいるのも恋愛系であった。正直恋愛というのがなにかわからないがこれを読んでいるときに起こる胸の奥で心臓が高鳴るような感覚が癖になりやめられないのだ。偶然見つけた本だったが初めて読んだ時の衝撃はものすごくそれ以来図書室から持ち出すほどに恋愛小説というものを愛読しているのだ。
「しあわせ~」
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