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第2章 時の使者
26話 侮るべきでなかった相手
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「見つかったか?」
「いや、見つかる気配すらしねぇ」
男たちは廊下から室内の隅々まで武器を探していた。徐々に見つからないことへの苛立ちが見てとれ、捜索ががさつになっているのがわかった。
「おい、そっちはもう探したぞ」
「もしかしたら見落としてるかもしれねえだろ」
「んだとぉ!」
「仲間割れは良くないと思うなぁ。特に今の場合」
コンコンと壁を二回ノックしながら氣琵は男たちへと話しかける。聞こえるはずのない声の方へと顔を向ける。見たことのない透き通った銀髪にエメラルドグリーンの瞳。見とれてしまいそうな美少女の存在に息を呑む。
「なんだコイツ…浮いてやがる…」
何よりその少女は現代の技術ではありえない物体に座り込んでいるのだ。誰もが感じる異変を前に男たちの額には大量の脂汗が吹き出し息がしにくくなる。
「この場でだんまりぃ?まあいいや、そのまま大人しくねぇ」
その発言を皮切りに動き始めた氣琵を前に男たちは大幅に引き下がる。それに気づいた氣琵はいつにも増したジト目を向け、気だるげに雲のような物体の上に寝転がる。
「はぁ。めんどくさいなぁ。黙って捕まってくれればいいのに」
「捕まるって言ったってお嬢ちゃん、そうはいかねぇよ。あんたここらへんの子かい?歳は?その乗り物は何だ?」
「質問多すぎ。だいたいそれを聞くのは私たちの方だしねぇ」
「何訳わかんねえこと言ってんの。まあ、そのなんだ。ちょっと痛いかもだけど我慢してね?やれ」
「わかってらァ!!!!」
探るような傷の男に氣琵がまた近寄り始める。その完全に傷の男に集中した隙を付き無精髭の男が背後から持った椅子を氣琵の後頭部めがけて振り下ろす。
「殴るときに大きな声を出したらだめでしょお」
が、氣琵にその攻撃が届くことはなかった。後頭部に分厚い雲のような物体を出現させ椅子の衝撃を完全に吸収していたのだ。
「なっ…!」
「私さ、あんま暴力ごとは得意じゃないんだぁ。手荒な真似させないでほしいんだけど」
氣琵の声音からでもわかる威圧に無精髭の男は素早く離れる。未だに現状に理解ができず視覚からの情報すら信用できない。
「お前…キョウヤが言ってたバケモンかよ。人間の見た目して人間じゃできねぇことをしちまうっていう…」
「可愛い少女に向かってバケモンなんて失礼しちゃうね」
「バケモンにバケモンって言って何がわりぃんだよ」
傷の男は未知数の力を持つ相手に必死の軽口でこの状態をできる限り維持しようと努力する。いつ殺されるかわからない張り詰めた空気感の中震える手で椅子の背もたれを握る。
「クソがァ!!」
手汗で湿り滑る手で必死に握った椅子を氣琵めがけて投げ飛ばす。氣琵は驚くこともなく雲のような物体を前方に出現させる。その時を待っていたと言わんばかりに男の表情が緩む。
「今だ!やれ!」
「っ!!」
その掛け声を聞くなり背後で様子をうかがっていた無精髭の男は手にした花瓶を氣琵の後頭部めがけて投げつける。狙いは完璧、勢いも角度も十分。あとは当てるだけ。そう思いながら後ろへ距離を取る。
「それさっきもやったじゃん。なんなら失敗してたよねぇ」
そう言い氣琵は自身の身の回りを球体型の雲で覆いすべての攻撃を防いでしまう。傷の男の表情は緩んでいたためかあんぐりと口を開けて閉めるのを忘れているようだった。
「一部分しか守れねえんじゃねえのかよ…そんじゃあ勝ち目なんて無かったんじゃねえか…」
「誰も一部しか守れないなんて言ってないしぃ。そもそも勝つ気でいた事に驚きなんだけどぉ」
「諦めてどうすんだよ!こんなガキ相手に負け認めて悔しくねぇのか!?」
「悔しい悔しくない以前の問題なんだよ!!完全に詰んじまってんだ」
「…諦めねぇ。俺は諦めねえぞ!死ねクソガキィ!!」
傷の男の目から打開という希望の光は完全に消え絶望で埋め尽くされていた。バケモノとはいえ見た目は少女、ゴリ押せばギリギリでも勝てる可能性があると思っていた自分の甘さと滑稽さに嘲る気力すら起きなかった。それに対し無精髭の男は最期の最期まで足掻こうと必死に周囲の物を投げ続けていた。氣琵は雲のような物体に覆われその姿が見えていない中でも最初の余裕を忘れ無様な姿を晒す男たちを哀れみいっそ殺して楽にしてやろうかとも思ってしまっていた。
「トウマの命令もあるし、殺してはあげられないけどせめて楽に拘束してあげる」
そう言うと氣琵は目をそっと閉じ空気を切り替える。両手をそっと胸に当て青白い光が周囲に散漫していく。傷の男はそんなことに驚くことはなくただただうつむいているだけであり無精髭の男もまた物を投げるのをやめることはなかった。
「水術、霧夢」
そっと優しくつぶやき周囲の青白い光は霧のように細かくなりやがて消えていく。それと同時に男たちの意識も遠のきしばらくしないうちに深い眠りにつくのだった。
「…終わったよぉ」
「ん。ありがとう…ってこれ」
「死んでないよ。寝てるだけ」
「そ、そっか。じゃあ起きないうちに拘束するね」
終わったという氣琵の声を聞くと廊下から冬馬が入る。氣琵からは先程の憂いた目などとうに消えいつものような眠たげな目をしていた。
「いや、見つかる気配すらしねぇ」
男たちは廊下から室内の隅々まで武器を探していた。徐々に見つからないことへの苛立ちが見てとれ、捜索ががさつになっているのがわかった。
「おい、そっちはもう探したぞ」
「もしかしたら見落としてるかもしれねえだろ」
「んだとぉ!」
「仲間割れは良くないと思うなぁ。特に今の場合」
コンコンと壁を二回ノックしながら氣琵は男たちへと話しかける。聞こえるはずのない声の方へと顔を向ける。見たことのない透き通った銀髪にエメラルドグリーンの瞳。見とれてしまいそうな美少女の存在に息を呑む。
「なんだコイツ…浮いてやがる…」
何よりその少女は現代の技術ではありえない物体に座り込んでいるのだ。誰もが感じる異変を前に男たちの額には大量の脂汗が吹き出し息がしにくくなる。
「この場でだんまりぃ?まあいいや、そのまま大人しくねぇ」
その発言を皮切りに動き始めた氣琵を前に男たちは大幅に引き下がる。それに気づいた氣琵はいつにも増したジト目を向け、気だるげに雲のような物体の上に寝転がる。
「はぁ。めんどくさいなぁ。黙って捕まってくれればいいのに」
「捕まるって言ったってお嬢ちゃん、そうはいかねぇよ。あんたここらへんの子かい?歳は?その乗り物は何だ?」
「質問多すぎ。だいたいそれを聞くのは私たちの方だしねぇ」
「何訳わかんねえこと言ってんの。まあ、そのなんだ。ちょっと痛いかもだけど我慢してね?やれ」
「わかってらァ!!!!」
探るような傷の男に氣琵がまた近寄り始める。その完全に傷の男に集中した隙を付き無精髭の男が背後から持った椅子を氣琵の後頭部めがけて振り下ろす。
「殴るときに大きな声を出したらだめでしょお」
が、氣琵にその攻撃が届くことはなかった。後頭部に分厚い雲のような物体を出現させ椅子の衝撃を完全に吸収していたのだ。
「なっ…!」
「私さ、あんま暴力ごとは得意じゃないんだぁ。手荒な真似させないでほしいんだけど」
氣琵の声音からでもわかる威圧に無精髭の男は素早く離れる。未だに現状に理解ができず視覚からの情報すら信用できない。
「お前…キョウヤが言ってたバケモンかよ。人間の見た目して人間じゃできねぇことをしちまうっていう…」
「可愛い少女に向かってバケモンなんて失礼しちゃうね」
「バケモンにバケモンって言って何がわりぃんだよ」
傷の男は未知数の力を持つ相手に必死の軽口でこの状態をできる限り維持しようと努力する。いつ殺されるかわからない張り詰めた空気感の中震える手で椅子の背もたれを握る。
「クソがァ!!」
手汗で湿り滑る手で必死に握った椅子を氣琵めがけて投げ飛ばす。氣琵は驚くこともなく雲のような物体を前方に出現させる。その時を待っていたと言わんばかりに男の表情が緩む。
「今だ!やれ!」
「っ!!」
その掛け声を聞くなり背後で様子をうかがっていた無精髭の男は手にした花瓶を氣琵の後頭部めがけて投げつける。狙いは完璧、勢いも角度も十分。あとは当てるだけ。そう思いながら後ろへ距離を取る。
「それさっきもやったじゃん。なんなら失敗してたよねぇ」
そう言い氣琵は自身の身の回りを球体型の雲で覆いすべての攻撃を防いでしまう。傷の男の表情は緩んでいたためかあんぐりと口を開けて閉めるのを忘れているようだった。
「一部分しか守れねえんじゃねえのかよ…そんじゃあ勝ち目なんて無かったんじゃねえか…」
「誰も一部しか守れないなんて言ってないしぃ。そもそも勝つ気でいた事に驚きなんだけどぉ」
「諦めてどうすんだよ!こんなガキ相手に負け認めて悔しくねぇのか!?」
「悔しい悔しくない以前の問題なんだよ!!完全に詰んじまってんだ」
「…諦めねぇ。俺は諦めねえぞ!死ねクソガキィ!!」
傷の男の目から打開という希望の光は完全に消え絶望で埋め尽くされていた。バケモノとはいえ見た目は少女、ゴリ押せばギリギリでも勝てる可能性があると思っていた自分の甘さと滑稽さに嘲る気力すら起きなかった。それに対し無精髭の男は最期の最期まで足掻こうと必死に周囲の物を投げ続けていた。氣琵は雲のような物体に覆われその姿が見えていない中でも最初の余裕を忘れ無様な姿を晒す男たちを哀れみいっそ殺して楽にしてやろうかとも思ってしまっていた。
「トウマの命令もあるし、殺してはあげられないけどせめて楽に拘束してあげる」
そう言うと氣琵は目をそっと閉じ空気を切り替える。両手をそっと胸に当て青白い光が周囲に散漫していく。傷の男はそんなことに驚くことはなくただただうつむいているだけであり無精髭の男もまた物を投げるのをやめることはなかった。
「水術、霧夢」
そっと優しくつぶやき周囲の青白い光は霧のように細かくなりやがて消えていく。それと同時に男たちの意識も遠のきしばらくしないうちに深い眠りにつくのだった。
「…終わったよぉ」
「ん。ありがとう…ってこれ」
「死んでないよ。寝てるだけ」
「そ、そっか。じゃあ起きないうちに拘束するね」
終わったという氣琵の声を聞くと廊下から冬馬が入る。氣琵からは先程の憂いた目などとうに消えいつものような眠たげな目をしていた。
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