止まった世界であなたと

遠藤まめ

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第2章 時の使者

4話 周辺探索はRPGの基本

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十二使を生み出してから翌日、夕日に照らされ赤色に染まっている不自然ないつも通りの体育館内で招集された十二人はステージに向かって並んでいた。ステージ上に立つ冬馬は十二人を見下ろしてそっと口を開く。

「十二使が出来てから一日、早くもなにか気付きがあった者、能力や得意分野を発見した者などが出てきてる。そこでなにか欲しいものとか気付いたことを定期的に話し合うことにしようと思うんだ。ここにいる全員が共通して知っておいたほうがいいと思ってさ」

歩院がピクリと耳を動かし腰に携えた刀に手を据える。

「はいはーい!オイラ城がほしい!主様ぁ、どデカい城をくださいッス~」

一同の沈黙を秒で破壊したのは木之伸きのしんであった。
短髪で整いのないその髪の毛は赤にも見える茶髪でぱっちりとしたつり目を持ち、自信満々といった様子の少女は脳天気とも取れる明るい表情を崩すことなくその内容もサーカス団員のような奇抜な服装とは相反するもの、木之伸以外のこの場に居る者全員に衝撃を与えた。

「……り、理由は?」

冬馬は戸惑いながらもその理由を問う。

「理由?そりゃあカッコいいからッスよ。なんかオヒメサマ?みたいで憧れるし」

「き、木之伸!!冬馬殿に何たる無礼…!だいたい城なんて貴様が持っても…」

歩院が顔を赤くして怒鳴る。真面目で武士気質な歩院からしたら木之伸の態度は頭にくるらしく肩を震わせて叫ぶ。対して木之伸は両手を耳に当て塞ぐようにして口を尖らせながら適当にしている。当然ながら態度を改める素振りもない。

「えー…いーじゃんか木之伸城、本で読んだときビビっと来たんスよね~」

「ま、まぁお城に憧れを持つのは分からんでもないけど…」

「ほらぁ~!やーっぱ主様もそういうの分かっちゃう人なんスね」

「でももし城ほどの大きな建物を建てるとしたらそれなりに広い土地を見つけるのに苦労するんじゃない?それに一度建てちゃったらここから離れられないし」

「そんなのここら辺の建物ぶっ潰して無理やり建てちゃえば…」

「そんなの許されるわけねぇだろーが!!救いようのねぇバカだなテメーは!」

破天荒にして無茶な提案を乱暴な口調で遮ったのは塀述へいじゅつであった。
中学生ほどの身長で少年的な童顔を持ち、短すぎず長すぎない山吹色の髪で柔らかい目を吊り上げて威圧的なオーラを放っていた。半袖半ズボンと夏休みの小学生のような服装でどことなくかませ犬にも見えてしまう。

「んぁ!?っるせぇなぁ!バカはテメーだアホ!」

塀述の罵倒にブチギレて低レベルな怒鳴り返しをしている木之伸を見てなのか、はたまた突然始まった口喧嘩を止める隙もなくどうしようもない状態になのか冬馬は自身の顔が引きつっていくのを感じた。

「だいたいお前はいつもいつも訳の分かんないことばっかり言って聞いてるこっちの頭が痛くなるんだよ!!」

「『いつもいつも』って昨日生まれたばっかですぅ~!いつもじゃありませぇぇん!」

「てめぇ…屁理屈ばっか言いやがって!」

「文句あんのか噛ませ犬!」

次第にヒートアップしていく罵声が体育館中を響かせて終わりの見えない争いが話の流れを停滞させていく。

「止めろ。冬馬様の御前だぞみっともない」

「冬馬様にとんだ醜態を…!申し訳ございませんっ!」

「主様、ごめんなさいッス」

青年の一言で二人の勢いは突然止まることとなり、一転して己の非礼を詫びたのだった。まるで保護者に言いくるめられるかのように落ち着いた二人はまた元の位置に戻り、黙っていた。その後も睨みをきかせ合っていたままではあるが。

「失礼いたしました。ワタクシの方から注意させていただきます故、どうかお許しください」

「う、うん…べつにいいよ」

落ち着いた丁寧で上品な声音と口調で話すのはほのかに赤く、長髪ながらに整った髪でモノクルが目立つ細目をした衣都遊いつゆうだった。
しっかりとしたスーツ、この場合執事服とでも言うべきか真っすぐ伸びた背筋は身長の高さを強調していておおよそ百八十センチはあるであろうといったところだ。

「それと城の件、万が一建てられたとしても我々を殺しにかかる“敵”に居場所がバレてしまう。ここはむやみに建てないことをおすすめいたします」

「たしかにそうだね。今あっちにここが知られたらかなりまずい」

「えぇー。じゃあ城はなしッスかぁ?やだやだやだ!オイラの城がほしいー!」

「う~ん…じゃあ、あっちにバレなそうで城一つ置けるような広い土地があれば…ね」

「マジッスか!?やったぁ!」

「まぁ周辺の地理を理解するのも重要だからね、それも兼ねて見てみようか」

本音を言ってしまえば十二使の力の理解を早めにしておきたいというのもある。なにより戦闘経験が身体能力に見合わず浅すぎることが不安要素として大きいのだ。帝中の戦闘を見たときにそれなりの強さが初めからあることは分かったがそれにも限度がある。もし十二使を超える力の持ち主が立ちはだかった時に壊滅しては意味がない。

「まぁまずはこの学校周辺を見てみようか。グループを分けてそれぞれで探索してみよう」

「でしたら、ワタクシと輝宝きぼう亢進こうしん進紫しんしはここで待機を」

「えっと…理由を聞いても?」

「ワタクシは戦闘はからっきしですので。輝宝も同じく戦闘よりもサポートに強いためここで待機が一番かと。亢進と進紫がいれば万が一敵襲があっても対応は出来ます」

「うーんなるほどねぇ…。まぁそれならいいのかな?」

全員の能力を知らない冬馬にはよく分からないが衣都遊の提案内容からして皆の能力を理解していることははっきりわかる。

「んーじゃああとは平治、帝中、程愾の三人は正門から抜けてすぐの住宅街周辺を。仁悟じんご氣琵きびと塀述は教員用の入口を出た先の住宅街周辺を、残りの歩院と木之伸と僕が裏門の周辺を調べてみようか」

「そんな!冬馬殿に足労をかけさせるわけには…」

「良いよ別に。ここだけ二人になっちゃうし」

歩院は「かたじけない」と頭を下げるが冬馬としても久しぶりに周辺を出かけてみたいというのが心の奥にあったのもある。

「先に言っておくけど人間を見つけても殺さずに捕まえてきて。特殊な理由が無い限り戦闘も避けて欲しい。今日はとりあえず同じグループの人同士で探索ルートなどの作戦を練っておこう。本格的な探索は明日からね?それじゃ定例会議おしまい!」

一同は息を合わせて乱れのない返事をするとあっという間に体育館から出ていき、冬馬だけが残った静かな部屋へと様変わりしていった。
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