5 / 56
第1章 止まった世界の生き方
4話 ヤツ
しおりを挟む
秘密基地の場所へと走る。今どき東京にそんな場所があるのか?冬馬はそんなことを考えながらもその足を止めることなく走り続ける。
「もうすぐだ!あそこにある大きなあれ!」
万夏は周りを気にせずその場所へと向かう。その場所は数年前、知らない人間はいないというほどの大ニュースができていた事件の場所であった。
「ここ、多分冬馬たちも知ってるよね。何年か前にUFOが降ってきたーってニュースで大騒ぎされた場所。」
「これデマじゃなかったんだ…」
二人は立ち止まり、ただ“それ”を無心で眺めていた。
─東京都江戸川区未確認飛行物体墜落事件、通称江戸川区UFO事件。それは誰もが知っている世界をざわつかせた大事件。概要としては突如空から民家に大きな乗り物が墜落してきた事件だ。当時事件現場付近に飛行機やヘリコプターは飛んでおらず、なにより落ちてきたものが大きな貨物列車の箱によく似た鉄製のものに小さな窓が2つついただけのものだったためなぜ、どうやって降ってきたのか不明であった。その後国から派遣された調査員数名が調査に来るもそれに乗っていたと思われる『何者か』に襲われ、対抗すべく自衛隊を派遣したが力及ばず、墜落物に指一つ触れさせなかったという。結局世界各国から調査員や軍隊が来るものの住宅街で周りの民間人に被害が出る可能性を憂慮し、墜落物を調べることは困難となり、調査・撤去は断念。付近へ近づくことを禁止とされ、この事件は幕を閉じた─
当時は「宇宙人の人類調査だ」「神が人類の天敵を生んだ」などコメンテーターやタレントがニュースや特番で適当なことを言っていたが今となってはオブジェとなり、たまに海外や地方から来る観光客が観光目的で来るようになった。その謎の飛行物体は人々の生活に馴染んでいったのだった。
そんな場所に三人は立っていた。その場所を『秘密基地』として。
「……このUFOが万夏と日菜乃さんの秘密基地?」
「そう。…って言っても中学入ってからは来なくなってたから汚いしホコリまみれの人形とかしかないだろうけど」
万夏は少し照れたようにしていった。しかしこれは本来ありえないことなのだ。
「でも『何か』がここを守ってるんじゃないの?」
すずの疑問は真っ当なものであった。『何か』は確かにそれを守っていたはずだった。相手は小学生、気付かないことや仕留め損ねましてや返り討ちにされたとは考えにくい。ではなぜそこを秘密基地にできたのか。
「あぁ、ゲニウスのこと?ニュースでは『何か』って言われるけどあれのことを守護神の名前から取ってゲニウスって呼ばれてるらしいよ。質問の答えを言うとしたら僕たちは会ったことないね。今思うと不思議な話だけど」
ゲニウス、そう呼ばれる存在と出会っていなかった。そんな馬鹿な話があるのかと冬馬は思ってしまった。自衛隊ですら敵わなかった存在が子供二人を見落とすとは思えない。秘密基地にされている地点でそんな事はありえてはならないのだ。
「とりあえず中に入ろう。またさっきのヤツが来たら大変だ」
二人が秘密基地に入ることに躊躇はなかった。それは身を守ることもそうだが純粋に世界が何もしても事ができなかった“それ”に足を踏み入れることができることに興味が湧いていたというところも強い。
その空間に足を踏み入れようと、近寄ろうとした瞬間─
「…………」
爆発するような、重たいものが地面に衝突するような音が鳴り響き目の前にはヤツがいた。
「ゲニウス……?」
「いや、確かに似ているけどそれよりかは小さい。多分さっき見た『ヤツ』だ」
ゲニウスに似た何かは無言で、でも確実に敵意を示していた。
「どうもこれはただじゃすまないって言ったところだね」
冬馬は焦りながらもこの状況を打開する策をひたすらに練っていた。今すぐ逃げる、追われて捕まるのも時間の問題だろう。戦う?そんなのは論外だ。勝てる保証どころか同じ土台に立てるわけがない。そこで浮かぶ最低限で苦し紛れの策とは
「すず、逃げろ!僕が囮になるからこの隙に!」
「…!?」
大前提としてすずを逃がすことだ。一人で走らせるのは危険だが今ここで死なれてしまうよりかはかなりましといったところだ。
「無理だよ!二人をおいてなんて行けない!!だったら私も…」
「後でまた落ち合おう!日菜乃さんの家で!」
その言葉を聞くとすずは踵を返し全力で走り去っていった。涙を見られるのを恐れてなのか、はたまたもう一度会えることを信じてなのか、振り返ることなく。前だけを見て。
「さてと…。すずが無事に逃げられるまでここを通す訳にはいかないな」
ヤツはすずの方を少し眺めるが追う素振りは見せず冬馬たちを眺めていた。
「そっちからこないのか?じゃあこちらから…っ!」
そういうと冬馬はヤツの脇にするりと入り拳を握った。
「……ォラッ!」
その拳を横っ腹に打ち込むもまるで霧を殴るかの如く感覚がなく、物理攻撃が効いている様子でもなかった。
「チッ…」
冬馬は思わず舌打ちをしてしまう。しかし諦めることはない。すずにまた会うために…
「あれは……!」
敵を前にしてすずのことを考えていた冬馬の目に入ったものはそれまで考えていたものを超えるほどのものであった。唯一問題があるとすれば
「冬馬っ!」
その瞬間は完全な隙だったわけで、ヤツからしたらそれは確実に捉えた瞬間であった。凄まじい勢いでヤツの腕のようなものが冬馬の頭めがけて飛んでくる。
あぁ、これは死ぬやつだ─
「これなら…!」
万夏は思い切り近くにあったホコリまみれの人形を投げる。
「………!」
ボフッという濁った音と辺り一帯を小さなホコリがキラキラと舞う。
「今だ!冬馬っ!逃げるぞ!」
輝くホコリが舞うその時、ヤツに一瞬の隙が生じた。そのタイミングを逃さなかった万夏は冬馬の名を叫び走った。
すぐに冬馬も続き、それぞれで走る。振り返ることなく、少しの減速も許さず。ただひたすら約束の場所へと向かっていった。
無我夢中で走り、「秘密基地」へと向かった時の記憶を頼りに約束の場所へと、日菜乃の家へと走る。
やがて向かっていた場所へと近づくすずが待っているその場所へ
「ついた……ってあれ?すずさん…?」
しかしその場所にすずの姿はなかったのだった。
「もうすぐだ!あそこにある大きなあれ!」
万夏は周りを気にせずその場所へと向かう。その場所は数年前、知らない人間はいないというほどの大ニュースができていた事件の場所であった。
「ここ、多分冬馬たちも知ってるよね。何年か前にUFOが降ってきたーってニュースで大騒ぎされた場所。」
「これデマじゃなかったんだ…」
二人は立ち止まり、ただ“それ”を無心で眺めていた。
─東京都江戸川区未確認飛行物体墜落事件、通称江戸川区UFO事件。それは誰もが知っている世界をざわつかせた大事件。概要としては突如空から民家に大きな乗り物が墜落してきた事件だ。当時事件現場付近に飛行機やヘリコプターは飛んでおらず、なにより落ちてきたものが大きな貨物列車の箱によく似た鉄製のものに小さな窓が2つついただけのものだったためなぜ、どうやって降ってきたのか不明であった。その後国から派遣された調査員数名が調査に来るもそれに乗っていたと思われる『何者か』に襲われ、対抗すべく自衛隊を派遣したが力及ばず、墜落物に指一つ触れさせなかったという。結局世界各国から調査員や軍隊が来るものの住宅街で周りの民間人に被害が出る可能性を憂慮し、墜落物を調べることは困難となり、調査・撤去は断念。付近へ近づくことを禁止とされ、この事件は幕を閉じた─
当時は「宇宙人の人類調査だ」「神が人類の天敵を生んだ」などコメンテーターやタレントがニュースや特番で適当なことを言っていたが今となってはオブジェとなり、たまに海外や地方から来る観光客が観光目的で来るようになった。その謎の飛行物体は人々の生活に馴染んでいったのだった。
そんな場所に三人は立っていた。その場所を『秘密基地』として。
「……このUFOが万夏と日菜乃さんの秘密基地?」
「そう。…って言っても中学入ってからは来なくなってたから汚いしホコリまみれの人形とかしかないだろうけど」
万夏は少し照れたようにしていった。しかしこれは本来ありえないことなのだ。
「でも『何か』がここを守ってるんじゃないの?」
すずの疑問は真っ当なものであった。『何か』は確かにそれを守っていたはずだった。相手は小学生、気付かないことや仕留め損ねましてや返り討ちにされたとは考えにくい。ではなぜそこを秘密基地にできたのか。
「あぁ、ゲニウスのこと?ニュースでは『何か』って言われるけどあれのことを守護神の名前から取ってゲニウスって呼ばれてるらしいよ。質問の答えを言うとしたら僕たちは会ったことないね。今思うと不思議な話だけど」
ゲニウス、そう呼ばれる存在と出会っていなかった。そんな馬鹿な話があるのかと冬馬は思ってしまった。自衛隊ですら敵わなかった存在が子供二人を見落とすとは思えない。秘密基地にされている地点でそんな事はありえてはならないのだ。
「とりあえず中に入ろう。またさっきのヤツが来たら大変だ」
二人が秘密基地に入ることに躊躇はなかった。それは身を守ることもそうだが純粋に世界が何もしても事ができなかった“それ”に足を踏み入れることができることに興味が湧いていたというところも強い。
その空間に足を踏み入れようと、近寄ろうとした瞬間─
「…………」
爆発するような、重たいものが地面に衝突するような音が鳴り響き目の前にはヤツがいた。
「ゲニウス……?」
「いや、確かに似ているけどそれよりかは小さい。多分さっき見た『ヤツ』だ」
ゲニウスに似た何かは無言で、でも確実に敵意を示していた。
「どうもこれはただじゃすまないって言ったところだね」
冬馬は焦りながらもこの状況を打開する策をひたすらに練っていた。今すぐ逃げる、追われて捕まるのも時間の問題だろう。戦う?そんなのは論外だ。勝てる保証どころか同じ土台に立てるわけがない。そこで浮かぶ最低限で苦し紛れの策とは
「すず、逃げろ!僕が囮になるからこの隙に!」
「…!?」
大前提としてすずを逃がすことだ。一人で走らせるのは危険だが今ここで死なれてしまうよりかはかなりましといったところだ。
「無理だよ!二人をおいてなんて行けない!!だったら私も…」
「後でまた落ち合おう!日菜乃さんの家で!」
その言葉を聞くとすずは踵を返し全力で走り去っていった。涙を見られるのを恐れてなのか、はたまたもう一度会えることを信じてなのか、振り返ることなく。前だけを見て。
「さてと…。すずが無事に逃げられるまでここを通す訳にはいかないな」
ヤツはすずの方を少し眺めるが追う素振りは見せず冬馬たちを眺めていた。
「そっちからこないのか?じゃあこちらから…っ!」
そういうと冬馬はヤツの脇にするりと入り拳を握った。
「……ォラッ!」
その拳を横っ腹に打ち込むもまるで霧を殴るかの如く感覚がなく、物理攻撃が効いている様子でもなかった。
「チッ…」
冬馬は思わず舌打ちをしてしまう。しかし諦めることはない。すずにまた会うために…
「あれは……!」
敵を前にしてすずのことを考えていた冬馬の目に入ったものはそれまで考えていたものを超えるほどのものであった。唯一問題があるとすれば
「冬馬っ!」
その瞬間は完全な隙だったわけで、ヤツからしたらそれは確実に捉えた瞬間であった。凄まじい勢いでヤツの腕のようなものが冬馬の頭めがけて飛んでくる。
あぁ、これは死ぬやつだ─
「これなら…!」
万夏は思い切り近くにあったホコリまみれの人形を投げる。
「………!」
ボフッという濁った音と辺り一帯を小さなホコリがキラキラと舞う。
「今だ!冬馬っ!逃げるぞ!」
輝くホコリが舞うその時、ヤツに一瞬の隙が生じた。そのタイミングを逃さなかった万夏は冬馬の名を叫び走った。
すぐに冬馬も続き、それぞれで走る。振り返ることなく、少しの減速も許さず。ただひたすら約束の場所へと向かっていった。
無我夢中で走り、「秘密基地」へと向かった時の記憶を頼りに約束の場所へと、日菜乃の家へと走る。
やがて向かっていた場所へと近づくすずが待っているその場所へ
「ついた……ってあれ?すずさん…?」
しかしその場所にすずの姿はなかったのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


『俺だけが知っている「隠しクラス」で無双した結果、女神に愛され続けた!』
ソコニ
ファンタジー
勇者パーティから「役立たず」として追放された冒険者レオン・グレイ。彼のクラスは「一般職」――この世界で最も弱く、平凡なクラスだった。
絶望の淵で彼が出会ったのは、青い髪を持つ美しき女神アステリア。彼女は驚くべき事実を告げる。
かつて「役立たず」と蔑まれた青年が、隠されたクラスの力で世界を救う英雄へと成長する物語。そして彼を導く女神の心には、ある特別な感情が芽生え始めていた……。
爽快バトル、秘められた世界の真実、そして禁断の恋。すべてが詰まった本格ファンタジー小説、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる