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第1章
1話 半妖、高校生になる
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「新入生、入場」
そのアナウンスとともに大きな二枚扉が開かれる。拍手の音とともに大勢の人間がこちら側を見る。一直線のレッドカーペットを踏み前へと歩く。緊張と興奮でその後の記憶は殆どないが碌な表情をしていなかったことだけはよくわかった。
────────────
「それでは、これから一年間をともにするクラスメイトに自己紹介をしましょうか。まずは私から──」
担任の教師の指示で名前の順で自己紹介をされていく。自分の名前、趣味、チューガクの頃のブカツというものなど自分について一人ひとりが説明していった。奏人の前の人間の自己紹介が終わり、教卓の前に歩き出す。この自己紹介で自分を知ってもらいクラスの全員と友だちになる。そんなことを考えながら深呼吸をし興奮を抑える。
「えーと、俺は奏人って言います!趣味はカジさんと相撲とかやってるので相撲です!ブカツ?が何かわかんないのでパス。うーんと…あ、俺、半分妖怪で半分人間の半妖です!でも反人間派とかじゃないので安心してください!!」
言い切った。が、明らかにクラスの反応がおかしい。先程までの言い終わったあとの拍手もない。先生もクラスの一同もひとり残らず目が点になっており、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「……は、はい!なかなか個性的な自己紹介でしたねー…。き、きっとお話づくりが得意なのかなー?……は、拍手ー!」
あきらかに様子のおかしい先生のMCに思い出したかのようにまばらな拍手が起こる。たちまちヒソヒソ声がクラスで起こる。
「なにあれやばくね…中二病ってやつー?」
「イケメンだと思ったけどこれはなしかなー……」
クラスのあちこちで囁く声がする。そのどれもが自分のことだとわかる。これには流石の奏人も間違えたことに気づく。何が悪かったのだろうか、今どき相撲が趣味は渋かったのか?ブカツって人間の間じゃ常識的なものだったのか?様々なことが脳内で振り返られる。その後、クラスメイトの自己紹介など一つも頭に入ってこなかった。
「ねえねえカナトくん、ハンヨー?ってマジなの?妖術とか使える?」
数名のクラスメイトが奏人の机を囲む。好奇な目を向けられ、嘲笑的な笑みを浮かべた人間がからかうように話しかける。しかし奏人にとっては嬉しくてしょうがなかった。
「うん、本当!目立った妖術は使えないけど…」
「へー。おもしろいねえ」
ケラケラと嗤われる。幼い頃や今朝正門で見た笑みとは違い気味が悪いと感じながらも友達になろうとしてくれているのかもしれないと期待が消えずただひたすら話した。放課後まで一生懸命話し続けた。誰かといっしょに笑いながら帰れると信じて。
ついに来た下校時、奏人に「一緒に帰ろう」と誘うものが現れることはなかった。
帰宅時、夕日が作る影は一つ。その影を見ながら運の悪さを恨む。半妖であることを言うタイミングが早すぎたか、確かに初対面の妖怪と話すときも半妖というと殆どの場合驚かれるのだ。人間にも半妖というのが珍しかっただけなのだろうと自分を無理やり納得させる。
────────────
「おう!カナト!人間だらけの学校はどうだったんだ?」
山に戻ると川辺には酒の入ったひょうたん片手に顔が赤くしたカジが待っていた。
「…んー……なんだろう、ちょっと思ってたのと違ったかなあ?」
笑顔を無理やり作り今回の感想をオブラートに包み言葉を選びながら答える。
「……急に人間と生活しようとしたんだ。慣れないことも多いだろう」
「タジさん…」
川辺で酒を飲んでいたもう一人の妖怪、黒い翼に猛禽類のようなくちばし、修行僧のような山伏装束をした烏天狗は優しいまなざしで奏人を見つめていた。その目はなにか見抜きそうな鋭さがありいち早くこの場を立ち去りたかった。
「奏人、そういえば街でフクが待っていたぞ。余裕ができたら寄ってやりなさい」
「わかった、行ってみるよ。それじゃ。飲み過ぎには気をつけてよ」
「うっせ」
カジが一言返し。奏人が見えなくなるとまた二人で薄暗くなった川辺で酒を交わす。旧知の友人でもある二人にはある程度わかりあえている気がしていた。あくまで奏人の道であるとお互いに言い聞かせているようだった。
────────────
「フク、どうしたんだ?俺に用なんて」
「よ。学校?どうだったの?」
フク、と呼ばれた少女は見た目こそ人間だが妖怪である。おかっぱ頭に可憐な着物、和風な見た目にどこか幼い顔立ちの座敷わらしである。着物のコスプレをした人間と言われてもおかしくない見た目ではあるがそのいる場所が明らかな違いを見せていた。ちょうちんお化けが暗闇を照らし家屋の一つ一つににぎわいを見せる。その他にも普通の人間とは思えない形相をした妖怪たちがゲラゲラと笑い歩き回っていた。そんな妖怪だけの街に人間など入ってくるわけもない。
「んー、はっきり言って微妙」
「はぁ!?あんたが行きたいって駄々こねた結果微妙って…」
「うっさいなぁ。まだ初日だろ。人間慣れするのに時間いるんだよ」
「何その言い方!?幼馴染として心配してあげたってのに」
「んだとぉ!別に頼んでねーし!」
声を荒げるフクに怒鳴る奏人。いつものかと周りの妖怪も目にくれることなく通り過ぎていく。ただでさえ一人になりたいというのにやかましく怒鳴るやつと会話などしたくはない。幼馴染であるフクだからこそ正直に語れた気もして複雑な心境がモヤモヤと立ち込める。
「……とにかく今日は疲れたんだよ。帰る」
「ちょっと……!」
奏人の制服の裾を掴み動きを静止しようとするがそれを振り払い冷たくその場を去る。そのことにフクも止めることなく変わらず騒がしい夜の街に消えていく奏人を見送っていた。
そのアナウンスとともに大きな二枚扉が開かれる。拍手の音とともに大勢の人間がこちら側を見る。一直線のレッドカーペットを踏み前へと歩く。緊張と興奮でその後の記憶は殆どないが碌な表情をしていなかったことだけはよくわかった。
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「それでは、これから一年間をともにするクラスメイトに自己紹介をしましょうか。まずは私から──」
担任の教師の指示で名前の順で自己紹介をされていく。自分の名前、趣味、チューガクの頃のブカツというものなど自分について一人ひとりが説明していった。奏人の前の人間の自己紹介が終わり、教卓の前に歩き出す。この自己紹介で自分を知ってもらいクラスの全員と友だちになる。そんなことを考えながら深呼吸をし興奮を抑える。
「えーと、俺は奏人って言います!趣味はカジさんと相撲とかやってるので相撲です!ブカツ?が何かわかんないのでパス。うーんと…あ、俺、半分妖怪で半分人間の半妖です!でも反人間派とかじゃないので安心してください!!」
言い切った。が、明らかにクラスの反応がおかしい。先程までの言い終わったあとの拍手もない。先生もクラスの一同もひとり残らず目が点になっており、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「……は、はい!なかなか個性的な自己紹介でしたねー…。き、きっとお話づくりが得意なのかなー?……は、拍手ー!」
あきらかに様子のおかしい先生のMCに思い出したかのようにまばらな拍手が起こる。たちまちヒソヒソ声がクラスで起こる。
「なにあれやばくね…中二病ってやつー?」
「イケメンだと思ったけどこれはなしかなー……」
クラスのあちこちで囁く声がする。そのどれもが自分のことだとわかる。これには流石の奏人も間違えたことに気づく。何が悪かったのだろうか、今どき相撲が趣味は渋かったのか?ブカツって人間の間じゃ常識的なものだったのか?様々なことが脳内で振り返られる。その後、クラスメイトの自己紹介など一つも頭に入ってこなかった。
「ねえねえカナトくん、ハンヨー?ってマジなの?妖術とか使える?」
数名のクラスメイトが奏人の机を囲む。好奇な目を向けられ、嘲笑的な笑みを浮かべた人間がからかうように話しかける。しかし奏人にとっては嬉しくてしょうがなかった。
「うん、本当!目立った妖術は使えないけど…」
「へー。おもしろいねえ」
ケラケラと嗤われる。幼い頃や今朝正門で見た笑みとは違い気味が悪いと感じながらも友達になろうとしてくれているのかもしれないと期待が消えずただひたすら話した。放課後まで一生懸命話し続けた。誰かといっしょに笑いながら帰れると信じて。
ついに来た下校時、奏人に「一緒に帰ろう」と誘うものが現れることはなかった。
帰宅時、夕日が作る影は一つ。その影を見ながら運の悪さを恨む。半妖であることを言うタイミングが早すぎたか、確かに初対面の妖怪と話すときも半妖というと殆どの場合驚かれるのだ。人間にも半妖というのが珍しかっただけなのだろうと自分を無理やり納得させる。
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「おう!カナト!人間だらけの学校はどうだったんだ?」
山に戻ると川辺には酒の入ったひょうたん片手に顔が赤くしたカジが待っていた。
「…んー……なんだろう、ちょっと思ってたのと違ったかなあ?」
笑顔を無理やり作り今回の感想をオブラートに包み言葉を選びながら答える。
「……急に人間と生活しようとしたんだ。慣れないことも多いだろう」
「タジさん…」
川辺で酒を飲んでいたもう一人の妖怪、黒い翼に猛禽類のようなくちばし、修行僧のような山伏装束をした烏天狗は優しいまなざしで奏人を見つめていた。その目はなにか見抜きそうな鋭さがありいち早くこの場を立ち去りたかった。
「奏人、そういえば街でフクが待っていたぞ。余裕ができたら寄ってやりなさい」
「わかった、行ってみるよ。それじゃ。飲み過ぎには気をつけてよ」
「うっせ」
カジが一言返し。奏人が見えなくなるとまた二人で薄暗くなった川辺で酒を交わす。旧知の友人でもある二人にはある程度わかりあえている気がしていた。あくまで奏人の道であるとお互いに言い聞かせているようだった。
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「フク、どうしたんだ?俺に用なんて」
「よ。学校?どうだったの?」
フク、と呼ばれた少女は見た目こそ人間だが妖怪である。おかっぱ頭に可憐な着物、和風な見た目にどこか幼い顔立ちの座敷わらしである。着物のコスプレをした人間と言われてもおかしくない見た目ではあるがそのいる場所が明らかな違いを見せていた。ちょうちんお化けが暗闇を照らし家屋の一つ一つににぎわいを見せる。その他にも普通の人間とは思えない形相をした妖怪たちがゲラゲラと笑い歩き回っていた。そんな妖怪だけの街に人間など入ってくるわけもない。
「んー、はっきり言って微妙」
「はぁ!?あんたが行きたいって駄々こねた結果微妙って…」
「うっさいなぁ。まだ初日だろ。人間慣れするのに時間いるんだよ」
「何その言い方!?幼馴染として心配してあげたってのに」
「んだとぉ!別に頼んでねーし!」
声を荒げるフクに怒鳴る奏人。いつものかと周りの妖怪も目にくれることなく通り過ぎていく。ただでさえ一人になりたいというのにやかましく怒鳴るやつと会話などしたくはない。幼馴染であるフクだからこそ正直に語れた気もして複雑な心境がモヤモヤと立ち込める。
「……とにかく今日は疲れたんだよ。帰る」
「ちょっと……!」
奏人の制服の裾を掴み動きを静止しようとするがそれを振り払い冷たくその場を去る。そのことにフクも止めることなく変わらず騒がしい夜の街に消えていく奏人を見送っていた。
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