Hotひと息

1章 出会いと疲れ

【7話】一人が好きな先輩と疲れ

「…………は？」
拓也は店長の言葉の意味が分からなかった。疲れを取る？なぜ？どうやって？
疑問しか残らない言い方に拓也は焦りを見せつつ理解しようと頭を働かせた、が根本的なところからわからないためどうしようもない。混乱する拓也のことを気にもとめず店長は続けた
「空ちゃんって最初っからあんな感じだったわけじゃないの。高校生くらいからかな？別にテンションが高くないことは悪いことじゃない。けどその奥に悩みや苦しみがあったならなんとかしてあげたい。まぁ拓也くんに任せようとしてる私が言えた口じゃないけど」
いつもとは違う繕った笑顔を見せながら店長は言った。
「空ちゃんはねぇ、私がこの町に暮らし始めたときに住んでた家のお隣さんだったの。別にだからといって毎日遊んだりするような関係ではなかったかどね。でも空ちゃんのご両親はお仕事で忙しくてねぇ、たまにだけどうちに泊めたりすることもあったの。その頃はまだ小学生で人懐っこかったなぁ」
店長は先とは違い温かい笑みを浮かべ空との関係を語った。
「中学生になったときにはもう全く。私がこのお店の二階に引っ越しちゃったのもあるけど思春期だったりお友達と遊んだりで忙しいのかなぁなんて思ってて気にしてなかったなぁ。」
「………」
拓也は店長の話を黙って聞いていた。店長も拓也の方を見ることなく空について静かに話した。
「でも中学3年生のときに偶然あってねぇ。その頃にはもう限界が近づいてたのかなぁ。挨拶しても苦笑いしかしてなかった。高校1年生でここに来てたけどその頃にはもう…」
その後の言葉はなくとも拓也は店長のどこか寂しそうな目を見て察していた。
「拓也くん、」
「………」
拓也は黙って店長を見ていた。逸らすことなくまっすぐと。
「お願い！あの子を、空ちゃんを助けてあげて…！きっと今も苦しんでる…疲れてる！その疲れを取れるのはあなただけなの！」
「はい。その疲れってのはなんだかわかりませんが何かあった人をほっとくなんてできないんで！」
そう拓也はいいエプロンを外しテーブルの上へ置き裏口から外へ出た。

　外へ出るなり拓也は宛もなく走り出した。空の家は疎か連絡先ですら知らないというのに空が行きそうなところ、景色のいいところ、物静かなところ、様々な方向へ走ったがそう簡単には見つからなかった。
「はぁ…はぁ……そもそも家にいたら詰みじゃねぇか…」
そう、空との会話以前に彼女が家で過ごしてた場合日本中の家を訪ねでもしない限り会うことはできないのだ。また、仮にどこかへ出かけていたとしても隣町だったり他県だった場合を考えると会うことはほとんど不可能に等しかった。
それでも拓也は諦めずひたすらに走った。どこかで道草でも食っているのではないか…
「……はっ！」
拓也は一つののぞみに賭けて商店街の方向へと向かった。向かう先はあの日会ったCDショップ。きっとそこにならいる。それに賭けて拓也は走り続けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……なんで…」
悲しいことにそこに空の姿はなかった。アニメや漫画の世界なら出会えたかもしれないが現実はそう甘くない。最後ののぞみですら叶わなかった拓也の頭に浮かぶ言葉は「諦め」だった。
これ以上探しても見つかることはない。店長に見つからなかったと言ってまた仕事に戻ろう。どうせ別の日になったら来るんだ。それでいいじゃないか。

　カフェの方へ進むにつれ拓也の頭には言い訳の言葉が生まれていった。
ダラダラと歩いていると黒猫がこちらを見て止まっていた。
じっと見つめる猫の目に拓哉は不思議と吸い込まれていった。
「……にゃぁん」
猫は小さく鳴き坂を歩き出した。拓也はその猫についていきその坂を登っていった。

「お、にゃんこ。にゃーにゃーげんきかにゃー？」

そう言ったのは拓也ではない。独特な雰囲気をもち地雷系と言わざるを得ない服装をした少女。空だった。