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ふたりのあれこれ
しおりを挟むしばらくして、少女は息を整え終わるとこう続けた。
「ありがとう。いつも、くるみの踊り、見ててくれて。」
気づかれていた、とナユタは思った。
決してよこしまな目で見ていたわけではないが、本人からの突然の告白にどきりとした。
ベンチから一人の少女をずっと見つめる自分を想像すると、何かいけないことをしてしまったようで申し訳なさがこみあげてきた。
「いやなんか、ごめん」
少女は首をかしげ、本当に申し訳なさそうな顔のナユタを見て、くすりと笑った。
「君、名前はなんていうの?学校はどこ?」
少女はナユタに興味津々な様子で、どんどん質問していった。
はじめは緊張していたナユタだったが、彼女の明るい調子もあって気づけば不思議となんでも話せていた。
少女の名前は月島くるみ。
県下では誰もが知る女子高に通う高校1年生だった。
間近に見るくるみは改めて美少女だった。
アーモンド形のきりっとした瞳に筋の通った鼻筋
小顔で細い首筋、手足はすらりと長く、腰の位置も高い。
いわゆる「バレエ体型」だった。
端正な顔立ちとは対照的に声は明るく高かったが、それがかえって彼女の魅力を引き立たせていた。
「あ、わたしばっかり質問しちゃってごめんね?うれしくってつい。へへ」
くるみは本当に嬉しさを隠し切れないようすだった。
とはいえなぜ自分なんかに声をかけたのかナユタはまだわからないでいた。
密かに踊りを見られるなんて、なんとなく恥ずかしい行為のように思えたからだ。
しかも見られた相手に声をかけるなんて…
「くるみさん、は、なんであそこで踊ってたんすか?」
ナユタは緊張を悟られないよう、目線をわざと離してくるみに聞いた。
「私ね。"選ばれなかった"んだ。」
くるみは先ほどとは少しトーンを落として、話し始めた。
「夏にバレエ団のオーディションがあってさ、そこの選考で落ちちゃったんだよね。だけどくやしくて。ほらあの噴水って幻想的じゃない?どうせ舞台で踊れないなら、せめて素敵な場所で踊りたいじゃん?だから踊ってたんだ。あそこで。」
あけすけに話してはいたが、言葉の端端では言いようのない悔しさが伝わってきた。
「だけどさ、たくさん練習して怒られて、泣いて痛い思いして磨いた踊りが、誰にも見られないってなんか虚しいよね。だから君が、誰かが見てくれたのが嬉しかった。」
くるみはわかっていた。自分は"魅せる側の人間"なのだ、と。
親や先生のためではなく、誰かのために踊るのがくるみにとってのバレエだった。
ナユタはそれを聞いて一層もうしわけない気持ちになってしまった。
くるみの思いに胸を打たれたが、その相手はバレエに敬意こそあれど、ある面では劣情を抱いている張本人である。
話を聞けば聞くほどくるみのバレエに対する真摯な気持ちに胸が痛くなっていく。
「いや、なんかすみません!俺、おれ…」
ナユタの良心はズタズタになっていた。
くるみの優美な踊りに魅了された一方で白いタイツへの劣情も否定できない気持ち。
14歳の少年は当人を前にして、それを飲み込めない純真さを残していた。
「おれ、全然まっすぐな気持ちで見てなかったっす!綺麗だけどタイツエロいなって思ってた変態やろうなんです!」
一期一会という言葉を使う機会があるなら、まさにこの時だろうとナユタは思った。
洗練された生のバレエをみることなどもう訪れないかもれない。
もしかしたらこれからも彼女はあの場所で踊るのを見れたかもしれない。
ただよこしまな感情をもって彼女と対峙することは、罪深い行為に他ならない。
”好きだからこそ、離れる”
それはナユタの持っているフェチズムを抱えてるがゆえの正義でもあった。
ただ、くるみの思いはナユタが抱えているほど深刻ではないようだった。
「ウケるw 大丈夫、わたしそんなのわかってて踊ってるから!」
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