星天師〜星空の湊〜

下村美世

文字の大きさ
上 下
12 / 12
宇宙へやってきた

太陽の星天師現る②

しおりを挟む
「ええと、余暉さん。こちらこそ、よろしくお願いします」

私は深々と頭を下げた。
余暉さんは私のお辞儀を見ると、慌てて「やめて」と言った。

「俺は、そんな頭を下げられるような人じゃないカラ!」

「え?けれど最高位星天師なのでは?」

余暉さんは困ったように笑った。
その顔がアポロンのそれとよく似ていて、流石部下だなぁと微かに感じた。


「そうなんだケド、俺、言葉オカシイね」


そうなのだ。
先程から余暉さんのイントネーションが気になっていた。
どこかカタコトと言うか、敬語が使えてないと言うか、とにかく流暢に喋れていない。
突っ込んだら失礼かと思って避けてはいたけどね。

「まあ、確かにそうですね」

「俺、小さい時に教育を受けていなくて今は割と勉強したのだけど、それでも読み書きするのが精一杯なんだヨ」

「ええ…それでも書類整理などをお仕事にされているんですよね?」

「そうだヨ!だから時間かかっちゃうネ!」

シンプルに謎だった。
最高位星天師って言うからもっと厳しい人かと思えばおっとりした優しそうな人だし、まして読み書きで精一杯だとは。

こんな人が最高位星天師なのか…?

私の心情が顔に透けていたのだろうか。
余暉さんは申し訳なさそうに言う。

「ごめんネ。俺みたいな人が太陽の星天師でびっくりデショ?」

「まあ、はい」

あ、しまった。
また悪い癖。正直に言い過ぎてしまう。

でも余暉さんは怒るどころかむしろヘラヘラと笑った。

「その通り。俺は特に凄い能力も何もないんダ」

凄い能力どころか、おそらく一般人の方がこの人より優れているのではないか。
今のところこの人に関して凄い、と思えるところはスタイルとご尊顔と…あと、先程も感じた貫禄だ。

ヘラヘラしてるのに、馬鹿そうなのに(失礼)、どこか人を惹きつける魅力があるのだ。
カリスマ性と言ったらいいか?

これが、この人が最高位星天師になれた所以だろうか。


「まあでも太陽の星天師に相応しい素質があるんじゃないですか?」

「えーそうカナ?」

この人は優しくておっとりしているし、人としてはとても良いのだろう。
しかし、せっかちな私とは合わないようだ。

ヘラヘラ笑って温厚でぬるくって。

この人が上の立場の人間なら敬うよ?
けれどそれ以上の関わりは持ちたくない。
なんだかそう感じた。


「はい。挨拶はこんなもんでいいですかね?アポロン」

私の無愛想な話の切り方に、アポロンは少しだけ驚いていた。

「いや、まだいけない。星天師になるにはまずやってもらいたいことがある」

「やってもらいたいこと?試験とか?」

「いや、試験なんぞお前なら余裕なのだろうからな。
ガッツを見せろ、千鶴」

ガッツて…。神様がいきなりカタカナ文字を言うと動揺する。

「で、一体私は何を…?」

アポロンは得意げに鼻を鳴らした。
な、なんですかその悪戯っ子みたいな笑顔は。



「明日行われる神々の集まりに参加しなさい」





………………………………………………………………



カツン…カツン…。
進んでいる。
事故時の服装が制服のため、私はローファーをカツカツカツカツ鳴らしながら廊下を進んでいる。

音を鳴らしながら歩くのは下品かもしれないけれど、
そんなの構っていられない。
私の意識はある一点に注がれていた。

「コッチが水場であれが食堂…って、チヅル、大丈夫?」

「えっ?」

「やっぱり、ぼーっとしてた?」

いかんいかん。余暉さんに対して失礼だったね。

「あ、いえ!すみません」

余暉さんは相変わらず怒らない。
自分が例えば上司で、部下が自分の話を聞かないなんて状況なら、私は怒るな。口に出さなくとも、気分は悪くなるだろう。

だけど余暉さんはそんな顔色なんて少しもなくて。
なんだか悲しそうな顔をしていた。

「…それ、気になるよネ」

「…ですね」

それとは。
私の腕に黄色く光っている太陽の印だ。
デザインは至って単純で、丸の中に太陽の絵が描かれている。ぶっちゃけ、絵心皆無な私でも描けそう。

神様の印がこんなんでいいのか、デザイナー誰なんだろうと思ったがお口チャック。こういうこと言っちゃうから自分は嫌われるのだ。

先程のアポロンの顔が浮かんでくる。

『いいか?千鶴。その印は非常に重要なものだ。それは私の加護の印。取れてしまうとお前は私の力を失い、瀕死の体へと戻ってしまう。お前が明日の集まりで他の神に認められればお前は晴れて星天師に。認められなければその印が消え、お前も死ぬこととなる。あ、認められたあとは他の神々からも加護をもらえるから私の印は自動的に消えるが問題はないぞ』



問題はないぞ、じゃないわよ。
…ってこんなやりとり先ほどもした気がする。

明日、何をさせられるかわからない。
この印が消えないかヒヤヒヤして、私は余暉さんの声が何も入ってこない。


明日認められなければ、どうしよう。
私は死ぬのだろう。そしたら由梨とも会えない!

それだけは避けたかった。

「今日は取り敢えず太陽王宮のお部屋貸すカラ、ゆっくり休んでネ!」

先ほどの白い空間(太陽の宮というらしい。太陽王宮の外側に備えられている空間だそう)を出て、今は太陽王宮と呼ばれる太陽の宮殿へと来ている。
太陽は熱すぎて住めないカラ、太陽の近くに宮殿を建てて住んでるんダ!と余暉さんは言っていた。

太陽などもそうだが、木星や土星などのガス星の人々は何処に住んでいるのだろうか。
足を地表につけられないから当然星そのものに住んでいるわけではなかろう。
余暉さんの説明によると、惑星神や星天師、その民は惑星近くに宮殿や家々を作って住むのが一般的なんだそうで。
水星金星火星は惑星そのものに住んでいるのだそうだが、それは例外的とのこと。
ていうか水星とかものすごく暑そうだけど人住んでいるのだな。星天師は地球人と言っていたけれど大丈夫なのだろうか。


ま、例外的っていっても管轄下の惑星の数がそもそも8つしかないのだから決してマイノリティではなさそうだが。


「わぁ!すごい!」

薄暗い煤けた煉瓦でできた廊下からして心配はしていたが、部屋は相当綺麗だった。
白を基調とした壁や大理石の床、芸術を介さない私には価値のわからないが凄そうな絵、真っ赤なカーペットや天蓋付きの金色ベッド!白いフカフカしてそうなソファが2つ真ん中に置いてあって。


テレビでよくやってる一泊300万くらいしそうなホテルをイメージしてもらえれば良いと思われる。

広さはさほどはないけれど、私1人ならば十分に広い。


「本当は、もっと大きなお部屋に案内してあげたいんだケド…まだチヅルは正式な星天師じゃなあカラって
アポロン様が…」

「いえいえ!こんな素敵なお部屋全然十分ですよ!」

全然十分などと変な日本語を使用してしまったが、それほど興奮がすごかった。

これが太陽の権威というやつか!



余暉さんはクスッと微笑んで部屋のドアを閉めた。

「何かあったら呼び鈴すれバ人来るからネ!」

「はーい!」

ひねくれた私がここまで上機嫌になるのは久しぶりだ。
様々ことがあったのに豪華な部屋1つでこんなにリフレッシュできる自分がなんだか、単純な人間のように思える。


「さてト…」

ソファに余暉さんが座る。
彼はもう1つのソファを指差して、私に座るように催促した。

「さ、座ってチヅル。いろいろ疑問があるデショ?俺は全部は答えられないケド、1つくらいなら時間大丈夫ダカラ!」







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

もしもいつも通りの明日が来なかったとしても

春音優月
SF
やりたいことがあったわけでもないし、夢があったわけでもない。オリンピックに出れるくらい身体能力に優れているわけでもなく、特技があるわけでもない。 もちろん、特別な人間でも何でもない。 ごく普通に生きてきて、明日からもいつも通りの毎日が続いていくと思っていた。 そんなどこにでもいる女子大生が、ある日突然、「君にはいつも通りの明日が来ないかもしれない」という残酷な現実を突きつけられたとしたら……。 選択肢①諦めて、自分の運命を受け入れる。 選択肢②いつも通りの明日が来る方法を探す。 →選択肢③怪しいイケメンたちと共に命をかけて正体不明の敵と戦い、自分の未来を取り戻す。 2021.08.18〜 バトルファンタジー風味の現代SF 絵:子兎。さま

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

廃嫡された令嬢は宇宙を駆ける

盤坂万
SF
ゾフィー・ドロテーア・フォン・ランぺルツはれっきとした帝国貴族の令嬢である。同時に民間企業ランペルツ商会の会頭でもあり、銀河に名高い星間商船団”片翼の鷲獅子"を率いる女提督だ。 ※大変ライトなSFです。SFですらないかもしれません。

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

RAMPAGE!!!

Wolf cap
SF
5年前、突如空に姿を表した 正体不明の飛行物体『ファング』 ファングは出現と同時に人類を攻撃、甚大な被害を与えた。 それに対し国連は臨時国際法、 《人類存続国際法》を制定した。 目的はファングの殲滅とそのための各国の技術提供、及び特別国連空軍(UNSA) の設立だ。 これにより人類とファングの戦争が始まった。 それから5年、戦争はまだ続いていた。 ファングと人類の戦力差はほとんどないため、戦況は変わっていなかった。 ※本作は今後作成予定の小説の練習を兼ねてます。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

処理中です...