永遠の瑠衣

箱枝ゆづき

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永遠の決心と瑠衣の涙とヒナタの捨てた心②

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 この数ヶ月間、人間の姿の瑠衣ちゃんと暮らして幸せだったのだ。
 そりゃあ欲望との格闘もあり、完全に慣れてくるまで少し疲れたりなどもあったけど、間違いなく言えるのは、瑠衣ちゃんと暮らした日々は充実していた。
 幸せだった。
 その幸せが消えてなくなる。
 これが悲しくないわけないじゃないか。
 まるで永遠の時のような間だったが、瑠衣ちゃんはいきなり笑顔になった。


「ヒナタが泣き止んでくれて、幸せに生きられるのなら、わらわはその薬を飲む」


 僕はその笑顔を見て、その言葉を聞いて、胸が張り裂けそうになった。
 胸が痛くて痛くて、どうにかなりそうだった。
 僕のために、瑠衣ちゃんはただの猫になる選択をしてくれているのだ。

「これを飲んだら、もう二度と人間の姿で僕に抱きつけなくなるんだよ……?」

 と僕が涙声で言うと、笑顔のままの瑠衣ちゃんの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「それでもいいのじゃ! ヒナタが幸せに生きられるのなら、わらわはただの猫になってもよい!」


 僕に悲しい顔を見せないように、ずっと笑顔のまま泣いている瑠衣ちゃん。
 こんな健気な姿を見てしまったら、この瑠衣ちゃんと一緒に居ることを諦めることができなくなる。

 もう諦められない。

 僕には無理だ。

 無理だ……。

「……ダメだ」

 僕も瑠衣ちゃんも涙を止められない。

「ダメだ!」

 もう一度僕は拒否する。


「ヒナタ、わらわはヒナタが泣いている姿を見ていると、つらいのじゃ。ヒナタが泣き止んでくれるのなら、笑顔で幸せになってくれるのなら、わらわはなんでもするのじゃ。ヒナタが大好きだから」


 なんで、

 なんでこの子はこんなことを言うんだ。

 なんで僕のために自分の幸せまで削ろうと、ここまでしようとしてくれるんだ。

 これじゃまるで矛盾しているじゃないか。

 そんなことしてくれなくていいんだ。

 僕は瑠衣ちゃんがそばに居るだけでいいんだ。

「……っ」

 僕は瑠衣ちゃんを強く抱きしめて泣いた。

 こんな健気で純真無垢な子を失いたくない。

 離したくない。

 やっぱり嫌だ。

 嫌だ……。

「やっぱりダメだ! 僕は人間の姿の瑠衣ちゃんが好きなんだ……!」


「……」


 瑠衣ちゃんは無言で僕の手から薬のアンプルを掠め取って、止める間も無く自分の口に流し込む。
 そしてごくりと飲み込んだ。


「!!」


 その光景に戦慄が走った。

 嘘だと、

 こんなの何かの間違いだと。


「瑠衣ちゃん!!」


 もうすぐ人間の瑠衣ちゃんとはお別れになる。

 もうあの温かさや柔らかさ、匂いを全身で感じられなくなってしまう。

 愛する彼女が消えてしまう。

 存在が消えてしまう。

 永遠に会えなくなる。


「ヒナタ、短い間じゃったが、わらわはヒナタと一緒に人間として暮らせて、幸せじゃったぞ。わらわがただの猫になっても、わらわはヒナタのことは忘れん。ありがとう……」


 と微笑む彼女の瞳からは次から次へと涙がこぼれ落ちて、床を濡らしていく。
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