永遠の瑠衣

箱枝ゆづき

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回想 歪んだ境遇

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 お前なんか要らない。
 産むんじゃなかった。
 そんな傷つくことを年に数十回は僕に言っていた親。

 内心、だったら産まなきゃよかったんじゃないか、こちらは産んでくれと頼んだ記憶はないと僕は頭の中で反論する。
 決して口には出さない。
 口に出すとさらなるひどいお仕置きが待っているからだ。

 いつもお仕置きに怯えていて、僕はお仕置きをされないためにいつも親の顔色を伺い、親の愚痴を聞き、共感をしてあげることに徹した。
 そうすれば親は気分が良くなり、傷つく言葉を投げかけたり、お仕置きをしてこないからだ。

 ただ毎日愚痴を聞くのは本当に疲れて勉強をしても頭に入らなくなる。
 毎日精神的にいっぱいいっぱいなのだ。
 なので僕は勉強する時間がだんだん減っていき、徐々に成績が落ちていくが、それでも親から成績のことで怒られ、お仕置きをされる。
 お前のせいだろと心の中で呟くが、決して口には出さない。

 このような歪んだ家庭で育てられた影響か、僕は人を見ると相手の裏側を探るようになってしまっていて、常に顔色を伺う癖がついてしまっていた。

 こんな癖を持っていればほんの少しの感情の変化まで読み取れるようになってしまう。
 少しでも相手が嫌な顔をすると、ああこの人は僕に対して良い感情を抱いてないなとすぐに勘付くようになってしまい、どうせすぐにこの人も歪んだ僕のことが嫌になる、と、自分から距離を置くようになる。

 そうなれば人を心から信用できるはずもなく、人を信用できなければ信頼できる友達なんてできるはずもない。そもそも親すらも信用していないのだ。
 僕は、大半の人から必要とされず、いつも孤独だった。

 家には親という家族が居るはずなのに、度重なる傷つく言葉を投げかけられたからか、稀に「お前は大切な息子」などと言われても嘘にしか聞こえず、愛情すら感じることもできず、親は毎日僕に対して仕事や取り巻く環境、生活に対する愚痴しか言わない。

 僕の話を少しでもすると「甘えるな!」の一言で片付けられるのはわかっていたので僕は本心を出したいその気持ちを無理矢理抑え込む。
 自分の本心を出せない虚しさから疎外感を感じていて、家に居ながらも僕は孤独だった。

 そうやって僕を押さえつけて、命令して、僕の意思を踏み躙ってきていた親は、家族は、僕を家に置いて遊びに出掛けていた最中に交通事故という災難に襲われてあっさりとこの世を去り姿を消した。

 こんな突然に親が亡くなっても悲しさはなく、涙が流れることもなく、逆に僕を虐めていた罰が下ったんだ、と、どこか清々しさすら感じるような気分だった。

 葬儀や財産の相続など全てが終わると、実家は売却されて、僕はワンルームのアパートに住むこととなった。

 親の命令と虐待と束縛からの解放、一人暮らしという自由の身になったはずなのに、僕の周囲の人間関係はどんどん悪化の一途を辿るばかりだった。

 親が亡くなってから親戚とも疎遠となり、いつの間にか頼れる人も居なくなって、僕は完全に孤独となっていた。

 残りの学生生活は、親の遺産を切り崩しながら過ごして、社会人になるまで食い繋ぐ日々。
 親が早く亡くなってくれたおかげで、生活費のやりくりや家事は失敗を何回か繰り返しながらも自然と身に付いた。

 生きるためには必要だったからである。生きるためにはお金が必要なので、できる限り節約する術も身につけた。

 学校でも自宅でも誰と会話するわけでもなく一人で過ごす。
 孤独に慣れてしまったためか寂しさも感じない。
 しかし頭では『何故僕は産まれてきたのだろうか』などと哲学めいたことを考え、心にはいつも空虚という穴が空いていた。
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