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第三章 影に踊る者たち
#2
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ルーサー卿がやって来るのを待とうと思ったが、待てど暮らせど彼が姿を現す気配はなかった。軟禁するつもりなのか、それともいずれやって来るつもりなのかはわからない。
その間、部屋に怪しいものが隠されていたりしないか調べたが、特に何も見つからなかった。窓はあるが、採光のためのもののようで、開閉できない造りになっていた。
どうしたものかとアーネストが思案していると、エディリーンはドアノブに手を添えて軽く目を閉じていた。
「……何をしているんだ?」
気配を探っているようにも見えるが。
「……この鍵、開けようと思えば開けられる。外に見張りがいる。二人。……どうする?」
「魔術で吹き飛ばすつもりか?」
そんなことをすれば、この城の戦力全てを相手にすることになるだろう。流石にそれは勝ち目がない。
「まさか。そこまでしなくても、これくらい簡単に開けられる」
さらりと恐ろしいことを言う。それでは、盗みなどやりたい放題ではないか。しかも痕跡が残らないなら、厄介だ。
「安心しろ。どんな魔術も、習得するにはそれなりの才能と修行がいるし、術を犯罪に使うような奴は、師匠に破門されて終わりだ」
魔術師は、基本的に徒弟制である。掟に触れて破門されれば、魔術師として食べていくことは不可能になる。
もっとも、そうやって身を持ち崩す魔術師がいないわけではない。そのような犯罪者に手を焼くこともあるのだが、それはまた別の話である。
「ここに、あの魔術書と王子の剣に掛けられた術と同じ魔力を感じると言っただろう」
「ああ。……やはり、ルーサー卿が君とベアトリクス殿から魔術書を奪い、ユリウス殿下に呪いをかけた張本人ということか……?」
「さあな。あの男が今回の黒幕か、それとも他に裏で糸を引いている人間がいるのか……。まあ、わたしには関係のないことだ。わたしは自分の目的と、ついでにあんたの目的が達成できるならそれでいい」
ついでに師匠の仇も取れるし、とエディリーンは呟く。
ここで二つの魔術書を揃えることができれば、処分なり封印なりすることができる。そうすれば、ユリウス王子にかけられた呪いも解ける。アーネストをエディリーンと引き合わせるきっかけになったのは、宮廷魔術師ベルンハルト卿の、「青い髪の魔術師を連れてくるように」という言葉だったが、アーネストにとって大切なのは王子を守ることだ。真意の読めないベルンハルト卿の言うことに従う必要はない。
「そうだな。俺もそれで構わない」
しかし、どうしたものか。
強行突破するわけにもいかないし、こっそり抜け出すのも不可能だ。
「わたしが鍵を開ける。そうしたら、外の見張りを倒せ」
結局、強行突破のようである。仕方がない。
「わかった」
その兵士二人は、第二王子の近衛騎士と、その連れの少女――男のようななりをしているが、女らしい――を軟禁した部屋を見張るよう、主に命じられた。
その女が何者かは知らされていない。しかし、何故第二王子の近衛騎士を閉じ込めなければならないのか。疑問には思ったが、それは自分たちの考えることではない。一介の兵士である自分たちは、主の命に従うのみだ。
すると、部屋の両開きの扉から、かちゃかちゃと音がする。中の二人が、閉じ込められたことに気付いたのだろうか。しかし、無駄だ。多少動かしたところで、その鍵は開いたりしない。
そう思って、退屈な任務に飽きてあくびなど漏らすところだったのだが。
かちゃり。
軽い音がして、微かに動いた。
そんな馬鹿なと思う間に、扉が完全に開かれ、二つの人影が飛び出した。兵士たちは槍を構えようとしたが、それよりも早く、首筋に手刀を打ち込まれ、意識を手放していた。
アーネストとエディリーンは、気絶させた兵士を部屋の中に引っ張り込む。部屋のカーテンを適当に裂いたもので二人の兵士を縛り、さるぐつわを噛ませる。
そして、扉を細く開けて、外の様子を伺う。誰も来ないことを確認すると、素早く外に滑り出た。
エディリーンはドアノブに手をかざした。その指先が微かに光る。魔術による封印を施したのだ。これでそう簡単に開けることはできない。
「何でもできるのか、君は……」
アーネストは感心したような、呆れたような呟きを漏らす。
「いいから、行くぞ」
二人は足音を殺しつつ、移動を開始した。
その間、部屋に怪しいものが隠されていたりしないか調べたが、特に何も見つからなかった。窓はあるが、採光のためのもののようで、開閉できない造りになっていた。
どうしたものかとアーネストが思案していると、エディリーンはドアノブに手を添えて軽く目を閉じていた。
「……何をしているんだ?」
気配を探っているようにも見えるが。
「……この鍵、開けようと思えば開けられる。外に見張りがいる。二人。……どうする?」
「魔術で吹き飛ばすつもりか?」
そんなことをすれば、この城の戦力全てを相手にすることになるだろう。流石にそれは勝ち目がない。
「まさか。そこまでしなくても、これくらい簡単に開けられる」
さらりと恐ろしいことを言う。それでは、盗みなどやりたい放題ではないか。しかも痕跡が残らないなら、厄介だ。
「安心しろ。どんな魔術も、習得するにはそれなりの才能と修行がいるし、術を犯罪に使うような奴は、師匠に破門されて終わりだ」
魔術師は、基本的に徒弟制である。掟に触れて破門されれば、魔術師として食べていくことは不可能になる。
もっとも、そうやって身を持ち崩す魔術師がいないわけではない。そのような犯罪者に手を焼くこともあるのだが、それはまた別の話である。
「ここに、あの魔術書と王子の剣に掛けられた術と同じ魔力を感じると言っただろう」
「ああ。……やはり、ルーサー卿が君とベアトリクス殿から魔術書を奪い、ユリウス殿下に呪いをかけた張本人ということか……?」
「さあな。あの男が今回の黒幕か、それとも他に裏で糸を引いている人間がいるのか……。まあ、わたしには関係のないことだ。わたしは自分の目的と、ついでにあんたの目的が達成できるならそれでいい」
ついでに師匠の仇も取れるし、とエディリーンは呟く。
ここで二つの魔術書を揃えることができれば、処分なり封印なりすることができる。そうすれば、ユリウス王子にかけられた呪いも解ける。アーネストをエディリーンと引き合わせるきっかけになったのは、宮廷魔術師ベルンハルト卿の、「青い髪の魔術師を連れてくるように」という言葉だったが、アーネストにとって大切なのは王子を守ることだ。真意の読めないベルンハルト卿の言うことに従う必要はない。
「そうだな。俺もそれで構わない」
しかし、どうしたものか。
強行突破するわけにもいかないし、こっそり抜け出すのも不可能だ。
「わたしが鍵を開ける。そうしたら、外の見張りを倒せ」
結局、強行突破のようである。仕方がない。
「わかった」
その兵士二人は、第二王子の近衛騎士と、その連れの少女――男のようななりをしているが、女らしい――を軟禁した部屋を見張るよう、主に命じられた。
その女が何者かは知らされていない。しかし、何故第二王子の近衛騎士を閉じ込めなければならないのか。疑問には思ったが、それは自分たちの考えることではない。一介の兵士である自分たちは、主の命に従うのみだ。
すると、部屋の両開きの扉から、かちゃかちゃと音がする。中の二人が、閉じ込められたことに気付いたのだろうか。しかし、無駄だ。多少動かしたところで、その鍵は開いたりしない。
そう思って、退屈な任務に飽きてあくびなど漏らすところだったのだが。
かちゃり。
軽い音がして、微かに動いた。
そんな馬鹿なと思う間に、扉が完全に開かれ、二つの人影が飛び出した。兵士たちは槍を構えようとしたが、それよりも早く、首筋に手刀を打ち込まれ、意識を手放していた。
アーネストとエディリーンは、気絶させた兵士を部屋の中に引っ張り込む。部屋のカーテンを適当に裂いたもので二人の兵士を縛り、さるぐつわを噛ませる。
そして、扉を細く開けて、外の様子を伺う。誰も来ないことを確認すると、素早く外に滑り出た。
エディリーンはドアノブに手をかざした。その指先が微かに光る。魔術による封印を施したのだ。これでそう簡単に開けることはできない。
「何でもできるのか、君は……」
アーネストは感心したような、呆れたような呟きを漏らす。
「いいから、行くぞ」
二人は足音を殺しつつ、移動を開始した。
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