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定家と白い花
Ⅲ
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ひと通り散策をし、わたし達は先生のお勧めのお蕎麦屋さんでお昼をいただいております。「調べておいて正解だったね。となりの玉乃屋でも良かったけど……」先生は満足げに十割そばを堪能しております。わたしは無言でおそばをすする有馬さんが少し心配になりました。
「有馬さん、どうだった?」
「う~ん、そうですね」彼女の眉間の皺はなかなか取れません。
「そもそも、能の定家は金春禅竹が伝承をもとに室町時代に書いたものなんだ。時代が百年以上違っているんだよ。定家が死後、内親王のお墓にまとわり続けたって話だよね。そもそも、定家は内親王の死後四十年も生きたんだよ。その後にまとわりつくなんておかしくないかい?」そう微笑みます。有馬さんは考えながらうなずいていました。
「せっかくだから。深大寺にも寄って帰ろうか」そば湯を飲み干した先生は席を立ちました。
深大寺にはやや大回りをして正面の山門から入りました。そのまま北門へ抜ける算段です。深大寺自体くまなく見るには一日かかりそうです。わたし達はナンジャモンジャの木、本堂などを通り抜けて北門を目指します。最後の開山堂からは深大寺とそれを囲む木々が一望出来ました。先生とわたしがその景色に見入っていると、有馬さんが急に声をあげました。
「先生。あれ、テイカカズラですよね!」指さした先には開山堂の陰に隠れるようにして石碑があり、その石碑に絡まるようにテイカカズラが白く小さな花を咲かせていたのでありました。
「有馬くん。君にはあの花がどう見えるのかな?」先生が問いかけます、わたしは心配で有馬さんを覗き込みました。
「先生、わたしわかったような気がします。きっとお互いに大切な人だったんだと、決して結ばれなくても幸せな二人の関係だったと思います。だって、テイカカズラはあんなに優しく今でも寄り添っているんだから」そう言った彼女の顔に笑顔が戻っていました。
わたし達の横を風が優しく花の香りを連れて通り抜けていったように感じました。きっと内親王のお墓には今でもテイカカズラが優しく寄り添って、白い可憐な花を咲かせているのでしょう。
それが二人の残した愛のカタチなのかもしれません。
了
「有馬さん、どうだった?」
「う~ん、そうですね」彼女の眉間の皺はなかなか取れません。
「そもそも、能の定家は金春禅竹が伝承をもとに室町時代に書いたものなんだ。時代が百年以上違っているんだよ。定家が死後、内親王のお墓にまとわり続けたって話だよね。そもそも、定家は内親王の死後四十年も生きたんだよ。その後にまとわりつくなんておかしくないかい?」そう微笑みます。有馬さんは考えながらうなずいていました。
「せっかくだから。深大寺にも寄って帰ろうか」そば湯を飲み干した先生は席を立ちました。
深大寺にはやや大回りをして正面の山門から入りました。そのまま北門へ抜ける算段です。深大寺自体くまなく見るには一日かかりそうです。わたし達はナンジャモンジャの木、本堂などを通り抜けて北門を目指します。最後の開山堂からは深大寺とそれを囲む木々が一望出来ました。先生とわたしがその景色に見入っていると、有馬さんが急に声をあげました。
「先生。あれ、テイカカズラですよね!」指さした先には開山堂の陰に隠れるようにして石碑があり、その石碑に絡まるようにテイカカズラが白く小さな花を咲かせていたのでありました。
「有馬くん。君にはあの花がどう見えるのかな?」先生が問いかけます、わたしは心配で有馬さんを覗き込みました。
「先生、わたしわかったような気がします。きっとお互いに大切な人だったんだと、決して結ばれなくても幸せな二人の関係だったと思います。だって、テイカカズラはあんなに優しく今でも寄り添っているんだから」そう言った彼女の顔に笑顔が戻っていました。
わたし達の横を風が優しく花の香りを連れて通り抜けていったように感じました。きっと内親王のお墓には今でもテイカカズラが優しく寄り添って、白い可憐な花を咲かせているのでしょう。
それが二人の残した愛のカタチなのかもしれません。
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