10 / 10
大吉? 大凶?
Ⅴ
しおりを挟む
騒ぎになって、わたし達も居られなくなり。とりあえず、当初の目的であった参拝のために境内へと足を運ぶことになりました。
まだ日の出前にもかかわらず、参拝の長い行列は続いています。仕方なく、わたし達もその列に加わりました。
「まあ、これに懲りて、当分、近付いてこないんじゃないのか?」ノリの良い方の男の人は、冗談交じりに笑って言ってくれます。気を使わせている感じで、申し訳なかったです。
もう一人の大きいは方は何も言わず横を歩いています。こちらをチラチラと見て、彼なりに気遣ってくれているようでした。
「さっきは、ありがとう」
わたしはもう一度、感謝の言葉を口にしました。
彼はまじめな顔で噛みしめるように言いました。
「……俺のやったことは、その場しのぎでしかないからな……根本的な問題は何の解決もしていない……」
「うん、わかってる。落ち着いたら、ちゃんとやるから」
「そうか……でも、俺がいた方が良かったら言ってくれ。まあ、いるだけだけどな」
彼の言葉が素直にわたしの心にしみ込んでくる気がしました。
「ありがとう」
「それは、さっき聞いた。迷子になるなよ」そう言った彼はこの人ごみの中でも、頭一つ抜け出していて、目立つことこの上もありません。これなら見失うことなんて、絶対にないでしょう。
「わかった」そう言って、わたしは混雑の中彼の後ろを追いかけていきました。
無事、初詣を終え、みんなでおみくじを引きました。わたしは大吉でした。
「やったね、願いは叶う。恋愛運も最高じゃない?」
友人がわたしのおみくじを覗き込んで騒ぎます。わたしはとなりの彼が気になって尋ねました。
「どうだった?」
聞いたわたしに背を向けて、おみくじを隠すように彼は言い淀むのです。
「べ、別に……」そう言って、すぐに近くの枝に結ぼうとします。それも、わたしの届かないくらいの高い枝にです。
「見せてくれても、良いんじゃない?」
「ダメだ」
そんなじゃれ合いを友人たちは少し離れて見ていた。
「あいつ絶対、大凶だな」
「なんで?」
「あんな、めんどくさいのと出会っちまったんだからな」
「どっちも、どっち。じゃあない?」
「ふっ、そうかもな」
日の出まではまだ少しある。
とある神社の境内は、これから初詣のピークを迎えるところだった。
了
まだ日の出前にもかかわらず、参拝の長い行列は続いています。仕方なく、わたし達もその列に加わりました。
「まあ、これに懲りて、当分、近付いてこないんじゃないのか?」ノリの良い方の男の人は、冗談交じりに笑って言ってくれます。気を使わせている感じで、申し訳なかったです。
もう一人の大きいは方は何も言わず横を歩いています。こちらをチラチラと見て、彼なりに気遣ってくれているようでした。
「さっきは、ありがとう」
わたしはもう一度、感謝の言葉を口にしました。
彼はまじめな顔で噛みしめるように言いました。
「……俺のやったことは、その場しのぎでしかないからな……根本的な問題は何の解決もしていない……」
「うん、わかってる。落ち着いたら、ちゃんとやるから」
「そうか……でも、俺がいた方が良かったら言ってくれ。まあ、いるだけだけどな」
彼の言葉が素直にわたしの心にしみ込んでくる気がしました。
「ありがとう」
「それは、さっき聞いた。迷子になるなよ」そう言った彼はこの人ごみの中でも、頭一つ抜け出していて、目立つことこの上もありません。これなら見失うことなんて、絶対にないでしょう。
「わかった」そう言って、わたしは混雑の中彼の後ろを追いかけていきました。
無事、初詣を終え、みんなでおみくじを引きました。わたしは大吉でした。
「やったね、願いは叶う。恋愛運も最高じゃない?」
友人がわたしのおみくじを覗き込んで騒ぎます。わたしはとなりの彼が気になって尋ねました。
「どうだった?」
聞いたわたしに背を向けて、おみくじを隠すように彼は言い淀むのです。
「べ、別に……」そう言って、すぐに近くの枝に結ぼうとします。それも、わたしの届かないくらいの高い枝にです。
「見せてくれても、良いんじゃない?」
「ダメだ」
そんなじゃれ合いを友人たちは少し離れて見ていた。
「あいつ絶対、大凶だな」
「なんで?」
「あんな、めんどくさいのと出会っちまったんだからな」
「どっちも、どっち。じゃあない?」
「ふっ、そうかもな」
日の出まではまだ少しある。
とある神社の境内は、これから初詣のピークを迎えるところだった。
了
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。


雨、晴れる時
サトウ・レン
青春
春に長く降る、こういう雨を、春霖、って呼ぶんだよ。雨、って普通は……、すこし哀しい感じがするものだけど、春の、特に小雨が長く続くような雨は、どこか明るい感じがして、好きなんだ。まぁ哀しい感じ、って、私が勝手にそう思ってるだけ、なんだけどね。
※作品内の一部エピソードは、過去に書いた「夏夜の幻」という短編を下敷きにしています。
【完結】その夏は、愛しくて残酷で
Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
青春
ーーわがままでごめんね。貴方の心の片隅に住まわせて欲しいの。
一章 告知
二章 思い出作り
三章 束の間
四章 大好き
最後に、柊真視点が入ります。
_________________
ファンタジーしか書いて来なかったので、このジャンルは中々書くのが難しかったですが、なんとか頑張って書いてみました!
※完結まで執筆済み(予約投稿)
※10万文字以上を長編と思っているので、この作品は短編扱いにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる