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第五章 慟哭のヘルプマン

08 言葉

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 この日、金城は取り調べに素直に応じて話し出した。
「すみませんでした、黒岩さん。山神の出所までは話せませんでした」金城にも譲れない所があるようだった。
「それでお前は、昨日、事情聴取をされたくなかった」
「ええ、刑事さん特にあなたに何か気が付かれるんじゃないかと思いまして、仮病を使わせて頂きました」
 頭をガシガシと掻き毟って銀次郎はため息をついた。仮病と時間稼ぎを疑った時点で何か手を打てなかったのか。その足ですぐ後藤課長に話を聞きに行っていれば……。
「いかん、いかん。切り替えろ」 
 すぐにパンパンと両頬を叩いて気持ちを切り替え。金城に向かってこう切り出した。
「仁さんは俺にとって先輩であり恩人なんだ。そんな人を殺人犯になんてしたくない。それに、死ぬ気じゃないか? 家族の後を追って行きそうだ、あの人の性格ならな……」
 そして改まって、銀次郎は金城の目を見て強く訴えた。
「仁義弘がどこに行ったか。お前なら分かるだろう。お願いだ教えてくれ、俺はあの人を死なせたくないんだ! 頼む」そう言って深々と頭を下げた。
 驚きながらも金城は、これが黒岩銀次郎なんだと思った。テクニックとか話術なんかじゃない、本当の気持ちが伝わってくる感覚、嘘偽りの存在しない言葉に動かされる。 
「あなたは、カリスマ経営者にでも成れそうですよ。じゃあ無ければ、新興宗教の教祖でしょうか……」少し照れくさく苦笑いを浮かべた金城は話を続けた。
「私も仁さんには恩があります。出来れば自殺なんかして欲しくないです。はっきりした場所は特定できませんが、協力させて下さい」それは強い意志のある金城の言葉だった。

 庭のある古い一軒家が仁義弘の家であった。
薫と佳子は手分けをして一通り家の中を見回った。
「報告。仁さんの家の中はきちんと整理整頓してあった綺麗。ゴミ一つ無いって感じ」薫の報告に相づちを打った佳子がぼそりとつぶやいた。
「これ、あれだね! まるで、もう帰って来ないつもりで綺麗にして行った感じ?」
 
「死ぬ気なのね、きっと……」
 白河課長も同じ様に感じた。
「だからこそ、止めなきゃね。事故現場付近、思い出の場所、何処? 何処で殺そうと考える……」必死に考えるが確実な答えに辿り着けない。
「課長。とりあえず家族の事故にあった現場に行ってみましょうか?」涼が提案してくる。消極的だが動かないよりはましか? ちゅうちょしていると今度は『unknown』から連絡が入った。
「課長さん。金城所有の倉庫等の監視カメラを同時に見れる様にしましたから、後はそちらでよろしく!」
 モニター画面が一瞬で切り替わる。
「うそ、全部だよ。セキュリティとか全く無視?」桃色(ローズ)が驚きの声をあげた。
「ありがとう。この際細かいことは言わないわ。感謝します」白河課長ももう大概の事では驚かなくなって来た。
「桃色(ローズ)、紫色(ヴィオレット)監視カメラのチェックよろしくね」
「了解! どこかに引っかかれ」願いを込めて桃色(ローズ)たちはチェックしていった。

「ちょっと、ここで整理させて」
 小雪は、金色(ドレ)から仁義弘のこれまでの言動の記録を教えてもらっていた。
「まず最初に言い出した事」
「共犯の金城の所有する倉庫などを調べることを提案したわ」
「その次は」
「自分たちだけでやるから大丈夫と言って。薫と佳子を海側に自分は陸側に指示した」
「そこよね。何で海と陸に分けたのか?」
「その後に、暗くなると危ないから先に遠くから調べろと指示した」
「海側、遠くを先にと指示……」
「何かおかしい?」
 真剣に考えながら話す小雪に、金色(ドレ)は控えめに問いかけた。
「うん。分かった気がする。ちなみに、薫と佳子が一番先に行った倉庫は何処?」

「京浜島の倉庫よ!」そう、金色(ドレ)から答えが返って来た。

 ☆☆ ☆☆

 手首が痛い、体勢も窮屈な状態で山神は目を覚ました。そこは、小さな窓から日は差すが薄暗い倉庫の中であった。前の椅子に座っていた男が近付いて来て話し出す。
「山神正義、出所ご苦労さん。5年間、俺はこの時を待っていたんだぜ。首を長くしてな」逆光でよく見えない男に対して山神は聞いた。
「お前は誰だ。なぜこんな事をする」
 
 自分の事が分からない山神に少し興ざめして、仁義弘は椅子に座り直してから、また話を始めた。
「5年前、お前は薬をやりながら車で事故を起こしたよな。その時に死んだ家族は俺の娘夫婦と孫なんだよ」
「待て! 俺は遺族への補償も手紙もきちんと出しているぞ。こうやって刑期もちゃんと終えて……」
 続けようとする言葉を止めさせ、仁はこう返した。
「やれることは、ちゃんとやったと?」

「時間はたっぷりあったんでな、お前の事は詳しく調べさせてもらった」
「金は親からのもらい物、反省の手紙も弁護士の文章のそのままだったな。まあ、そこまでは仕方ないとしても、薬だ、あれは女が持っていたモノをたまたま吸ったんじゃあなくて……」
「お前が女にわざわざ用意させて吸ったんだろう?」
 この言葉に山神は青ざめた。
「ど、どうして。その事を……」

 再び仁は、山神の蒼白になった顔を楽しむように近付いてからこう言った。
「女を締め上げたらすぐに口を割ったよ。お前は自分から吸ったんだよな積極的に、それじゃあ刑期が倍になっちまう。そこで金を握らせて偽証させたんだろう」

「お、俺は……」
 言葉に詰まる山神に、「言い訳はもういいぜ。どうせこれから死ぬんだからな。一緒に地獄へ行こう」そう言って。何故か、仁義弘の顔はいつにも無く晴れ晴れとしていた。
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