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第五章 慟哭のヘルプマン

07 小雪乱入

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 後藤課長はすぐに釈放された山神の安否確認に。銀次郎と涼は電脳捜査課に戻って、仁の捜索にそれぞれ向かった。
 電脳捜査課に着いた銀次郎たちは事情を説明して、急ぎ、仁義弘の行方を探し始めるのと同時に、他部署にも伝え広域捜査網を引いた。
 しかし、悪い話が立て続けに入って来た。
「ダメだ! 今日、釈放された男だが行方不明だ。刑務所を出てすぐに拉致された様だ」後藤課長からの連絡と、
「仁さんの家に着いたんだけど、誰も居ない。ケータイは充電器に置きっぱなしだったよ」
 薫と佳子からも連絡が同時にあった。

 時すでに遅しと言う事か……。
「もう、どこかに連れ去って、これから始末するって所か?」悔しそうに銀次郎がつぶやく。
「拉致現場周辺には防犯カメラが無いわ。これじゃあ探しようが無いから!」紫色(ヴィオレット)も悔しそうに唇を噛む。
「何か、何か手立てがあるはずだ……」
「何か見落としている事が……」
 涼のつぶやきも空しく響いたそんな時、電脳の本部のスピーカーを壊すような大音量でよく分からない喧嘩のような声が突然響いてきた。

「人のお腹を引き裂いてどうしようと言うのですか? 猟奇殺人ですよ。絶対」
「あんた、そもそも人じゃ無いでしょう。黙っていなさい! 動くなコラ」
「私のはらわたを引っ張り出して何てひどいことを……」
「どこに、はらわたがあるのよ。ちょっと接続を借りるだけだから。大人しくしていなさい!」
「殺されるー。人殺しー」
「いい加減に観念しなさい、男でしょう。あなたは」
「違いますよ。ロボットですから性別はありませんから!」
「止めて下さい。ピッパー君殺しー」
 何なんだこの非常事態に、まるで緊張感の無い会話は?

「小雪?」
「小雪ちゃん?」
 声を聞いてみんなが驚いた。

 確かにそれは中山小雪の声だった。

 ☆☆ ☆☆

 死霊島3日目の早朝、夜明けとともに小雪は死霊の館と言われている洋館に忍び込んだ。決して夜中は怖くて行けなかった訳では決してない……。たぶん。
 そこで、ピッパー君の充電場所を見つけた。
「思った通り、データの同期も同時に行うんだ」そう言って周りを探す。
「これだ、あった!」少し明るくなって来た部屋の壁から繋がる2本の太いコードを見つけた。
「やっぱり、外部からの情報を受けていたんだね。だから、昨日と一昨日(おととい)のわたしへの対応が違ったんだ。一昨日(おととい)の時点では、まだ、わたしの名前が分からなくて『お嬢様』で、昨日は『小雪お嬢様』になったんだ」
 小雪は太いコードを確認すると、持って来たひもでピッパー君を縛り上げ、動けなくなった所で胸のタッチパネルを分解し始めた。
 起動したピッパー君と格闘すること数時間、やっと外部との接続を確保し、電脳捜査課に繋ぐことが出来たのだった。

「小雪。仁さんだ。仁義弘がヘルプマンだ」
 興奮する銀次郎に、少し冷静になった小雪は話し出した。
「銀さん、涼さん。聞こえてますね、わたしは三日前の夜、警視庁の地下駐車場でミニパトのドライブレコーダーを確認している所を拉致されました。レコーダーには車内で作業服に着替える仁義弘の姿が写っていました」
「なるほどな。それで拉致されたって訳か」
「仁さんは、そこで着替えて梯子の偽装をしに行ったんですね。そして、また着替えて何食わぬ顔で自分たちと行動を共にしたのか」
「そうなりますね。でも、わたしの拉致は必要だったのでしょうか?」疑問で首を傾げているであろう小雪に的確な情報を白河課長が出した。
「中山さん、仁義弘の家族の命を奪った犯人が今日出所したの、早速行方不明になっているわ。だから、今日までは犯行がばれて欲しくなかったんだと思う。その人への復讐が目的よ。どこかに拉致してから殺すつもりね」
「そんな、仁さんの行方は分からないのですか?」小雪の悲痛な声が震えている。
「今、全力で探しているけどダメね。このままだと彼を復讐犯にしてしまう……」課長も悔しそうに言葉を濁した。

「くそ!」悔しそうに壁を叩いて銀次郎は白河課長に言った。
「課長、俺は金城に話を聞いて来ます。涼は自動人形(オートマタ)三体とワゴンで待機し『unknown』に連絡して潜伏先を。あと、佐久間に恵たちを連れて待機させておいて下さい」
「分かったわ、みんな通信は繋げておいて。交通総務課の二人も、仁さんの自宅に何か監禁場所のヒントが無いか探してもらうわね。みんな情報共有が大事よ!」
 白河課長の合図で全員が一斉に動き出した。ただ、目的の場所が判明しない。みんな悔しい思いでの行動開始だ。

「課長。あのわたしなんですが……」申し訳なさそうに小雪が聞いて来た。
「あ! ごめんなさいね。すぐに救出班を……」
「いえ、違います! 情報を下さい。この三日間の仁義弘の行動記録と言動の記録を…… 何かがあるはずです、きっとその中に」
「分かったわ、金色(ドレ)データを出してあげて。ごめんなさいね、あなたも電脳のメンバーですものね。お願いするわ。一緒に頑張りましょう」
「応援要員なんですけどね……」そう言いながら、小雪はデータと向きあう。

 小雪の戦いはこれから始まるのだ。
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