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第四章 窓辺のコッペリア

14 最高の答え

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――― 私たちの欲しかった答えとは、ちょっと違うけど、それが貴方の答えなのね……

 ◇ Real world ◇

 警視庁の取調室の椅子に金城は座っていた。
 拒否すれば出来た。あくまでも任意同行だ! ただ、黒岩銀次郎の一言に金城は同行を受諾した。
「教授の件で、お前にだけ話したい。どうしても聞いてほしいんだ。お前にだけはな!」

 ☆☆ ☆☆

 取調室には、銀次郎と涼の二人が居た。調書を執る事務官はいない。小雪はミラーの外だ。
「悪いな……忙しいのに付き合わせてしまって」
「いいえ。話を聞かせて下さい」
「分かった」
 銀次郎は金城の前に夏美から預かったカルテを置く。
「これは大久保教授の診察記録だ、二十年ぐらい前から続いている。丁度、お前さんと仲たがいした辺りからだ」驚いて、金城はそのカルテをむさぼる様にめくった。
「診断名は若年性アルツハイマー病! 実際に十九歳から罹患するケースもあるそうです。 初期は物忘れが主な症状で、焦燥感とか怒りっぽくなったりもします。
 症状がまだらに表れるようで、良くなったり、悪くなったり……」涼が丁寧に説明する。

 金城の手が震えていた……。

「現在、薬も開発されていますが……進行を遅らすもので、根本的な治癒は難しいそうです」

 金城の肩が震えていた……。

「あと、すまんな……話が逆だったか? まだ、公表されていないんだが、大久保教授の遺体が発見された」その言葉に、金城の震えが止まった。顔を上げて銀次郎にその先の話を求めている。
 分かったと言うように銀次郎が話し出す。
「1カ月ぐらい前に、延命を拒否しての尊厳死、点滴での生命維持を拒んだらしい。三か月くらい、クルーザー船で日本周辺を巡回していたそうだ。どうりで、血眼になって探しても見つからない訳だな……」

「お前も探していたんだろう? だから、捜査にも協力した……」
「私は……とんでもない思い違いをしていたんですか……」
「分からん! 今となってはもう何も分からない。想像するしかないな……」
「……」

 ゆっくりと立ち上がった銀次郎は、項垂れる金城にこう告げた。
「俺の話はこれで終わりだ! もう帰って良いぞ」

「え?」
「私は……」
「聞こえなかったか? もう話は済んだ。帰れ!」

「……」呆然とする金城に銀次郎は言い放った。
「お前はヘルプマンじゃ無い!」

「!」

「少なくとも俺の追っている、冷酷なヘルプマンではな!」
「お前はヘルプマンにはなれない。これからの事はよく考えてから自分で決めろ」
「黒岩さん! あんたって人は……」

「甘いか? お前はまだやり直せる。ここで地獄へ落ちることは無い!」

 長い沈黙の後に、金城は細い声で言った。
「……分かりました……少し考えさせて下さい……」
 金城は丁重に挨拶をして帰って行った。
 
 それを見送った涼と小雪は何も言わなかった。
 自分たちならどうしたか? 
 どう出来たか? 
 それが正解だったのか?
 二人は何も言わずに考えていた。最良の質問に最良の解答、そして導き出される最良の結果……。
 本当にそうなのか?
 それが最良の答えなのか?
 他にもっと……もっと……最高の答えがあるんじゃないか?
 自分たちは自己満足で勝手な答えを最高と決めつけていないか?

「銀さんは、凄いね……」
「うん……」

「俺たち追い着けるのかな?……」
「うん……」

「でも、俺の目標だよ!」
「違う! 私たちの目標だから!」
 二人は銀次郎の後を追いかけて行った。

 ☆☆ ☆☆

 その夜、スマートジャパンCEOの金城優作は警視庁に出頭した。
 
 傷害のほう助もしくは教唆をしたと言う罪でだ! 主犯ではなく従犯ではあるが犯罪は犯罪である。実刑になるのか? 執行猶予が付くのか? その辺は、実際に裁判にならないと分からない事だった。

 翌日の新聞各社は大々的にこの事件を報道をした。しかし、その中には同情的な報道が多く見受けられた。

「これで良かったんですかね?」新聞の記事を読んでいた、捜査一課の原田は不満げにつぶやいた。
「ん? これが黒岩の出した最適解なら、俺たちがつべこべ言うことは無い」捜査一課の後藤課長はネットニュースに目を通しながら、そう答えた。
「ただ……」

 同じ頃、電脳捜査課でも同じことをつぶやく人間が居た。
「ただ……まだ半分、解決されていません! TV局の事件は少なくとも金城ではありません!」小雪は強く主張した。
「もう一人、ヘルプマンは居ます! 金城は言わないでしょうが……」

「その人が本当のヘルプマンです!」 

 ☆☆ ☆☆

 銀次郎は、電脳捜査課の奥の倉庫のような部屋に来ていた。
「どうだ? 赤、首は付いたか?」
「最初っから付いてるよ! おじさん口悪い」
「お前には言われたくないぞ! 赤色(ルージュ)」赤色(ルージュ)はべーっと舌を出して怒った振りをした。

 そこには七体の自動人形(オートマタ)が揃っていた。代表して金色(ドレ)が話す。
「本当にありがとうございました。銀次郎さん、わたしまでお世話になってしまって……」
「気にするな! お前たちをどこかに出すわけにもいかないだろう? 電脳捜査課(うち)で預かるのが一番だ! その代り出来ることは協力してもらうぞ」

「はい! 喜んで」七体の笑顔が揃った。

 後日、大久保教授の葬儀は親族だけでささやかに行われ。遺骨は奥さんと娘さんが眠る墓地に一緒に埋葬された。

 少し落ち着いてから、金色(ドレ)たちの希望で花を手向けに墓地へ向かう、今田夫妻も誘って大勢での墓参りになった。

「リア! じゃなくて金色(ドレ)だっけ?」
「良いよ! どっちでも」
 千鶴(スワニー)と金色(ドレ)は笑い合う。
 花を供え、みんなが思い思いに手を合わせた。

「舞さんは、ハーフだったんだね! 奥さんがフランス人だから同じ金髪で金色(ドレ)と分からくなっちゃったんだね」
「そうかな? 舞さんに似せてわたしを作ったのかも知れない……」
「……結局は教授に聞かないと分からない事だな……」

「良いんじゃないか? どっちだって。俺たちが勝手にそう思ったら、それがきっと正解なんじゃないか? 正しい答えなんて何処にも無いさ……それが答えだ!」そう言って、銀次郎もみんなと同じ様に手を合わせた。

「教授よ! お前さんの作った自動人形(オートマタ)たちは、ほら! 見ろよ。こんなにも生き生きと笑っているぞ! まるで、普通の人間のようだ……」

 銀次郎の隣に並んで、金色(ドレ)が話しかけて来る。
「銀次郎さん、わたし達はあなたに次のマスターになって欲しいと思っていますが……」

「バカか? お前たちは!」

「お前たちにマスターは要らない。家族が居れば十分だ!」
 銀次郎は金色(ドレ)の頭をポンと叩いて立ち去った。

 三人が仲良く眠るこの墓地は穏やかな日差しとやさしい静寂に包まれていた。

  第四章 窓辺のコッペリア 完
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