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第四章 窓辺のコッペリア

13 リアの帰還

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――― 運命とはただの確率の悪戯なのでしょうか? それとも赤い糸の様に繋がって切れないものなのでしょうか?

   ◇ Real world ◇

 その朝、今田信吾(フランツ)は少し寝坊をしてしまった。
 このごろ仮想空間(バーチャル)での早朝散歩もサボりがちになっている。原因は勿論、リアの一件である。

「お早よ!」隣の千鶴(スワニー)も起こしてしまった様だ。
「ああ、お早う!」

 寝ぼけた頭で、取りあえずスマホのメールチェックを済ませ、着替えをしようとして信吾(フランツ)は気が付いた。仮想空間(バーチャル)専用のメールに変なモノが来ていることに。
「これは?」
「なに?」
 二人でメールを開けた……。

「今日の昼、竹芝客船ターミナルに来てお願い。リア」

 二人が待ち望んでいたリアからの連絡だった!

 ☆☆ ☆☆

 俺たち二人は電脳捜査課に連絡を入れて、すぐに竹芝客船ターミナルに向かった。
 目的の竹芝客船ターミナルは、ゆりかもめ竹芝駅を降りるとすぐ目の前に現れる大きなビルと中央広場の真ん中を抜けた先にある。隣接して東京湾岸警察署があるため、警官が数名すでに待機していた。

「すいません! 連絡を入れた今田です」
 待機していた警官に、俺は簡単に事情を説明した。

「了解しました! 失踪中の人物と船舶の情報もこちらで受けています。安心してください」
「良かった!」俺たちはホット胸を撫で下ろした。

 昼近くなって、捜査一課の三人も到着する。
「お前たちか?通報したのは」
「はい!」
「そうか! 電脳から話は聞いている。船が着いてもすぐには近づくな! いいな!」
「えっ? どうして?」不満げな千鶴(スワニー)が口を尖らす。
「中の状況が分からないんだ! まず、俺たちが入って安全を確かめてからだ!」

 強い口調ではあるが、俺たちを心配しての配慮だと言うことは分かったので、素直に従うつもりだった……船を見るまでは……。

 時間を計ったように正午きっかりに、大久保教授のクルーザー船は姿を現した。警官たちに誘導されて南側の小型船専用ターミナルへ移り、着岸した。

 想像したよりも、ずっと綺麗で大きな船なので安心したが。移動、着岸に手間がかかり待たされていた俺たちは居ても立っても居られず、思わずフェンスを乗り越えて船着き場のすぐ近くまでいき、そこから大声で叫んでしまった。

「リア! 私よー! スワニーよ! 出て来てー! お願いー!」
「リアー! 迎えに来たぞー!」
 気が付いたであろう、リアが甲板に姿を見せた。

 それは仮想空間(バーチャル)と全く同じ姿、そして紫色(ヴィオレット)たちとも……クルール・シリーズ最高傑作である、金色(ドレ)の姿であった。

 甲板から船着き場へ静かに降り立った金色(ドレ)は俺たちを見て微笑んでから、刑事たちに向かい、両手を前に出してはっきりした口調でこう言った。

「わたしは、大久保教授を殺害しました。どうか逮捕して下さい」

「!」

 ☆☆ ☆☆

 大久保元教授のご遺体は、クルーザーの冷凍庫で大切に冷凍保存されていた。

「死後1カ月ってところかしら? 死因は目立った外傷はなし、CV(中心静脈)入れてるわね、ほら、ここポートがある!」
「数カ月はCV(中心静脈)で維持していた感じね……最後は、ドルミかフルニト? セデ―ションかけたのかしら……」

 急きょ呼び出された紺野夏美医師は文句も言わずに実況見分に立ち会っている。

「先生! 難しいことは良いですから。殺しですか? 自殺ですか?」横についている捜査一課の原田はヤキモキとして聞いた。
「死因? そうね……延命拒否。彼がそれを望まなかったんでしょね。きっと……薄れゆく記憶の中で……」
 そう言って夏美は淋し気に窓の外の海を見た。

 ☆☆ ☆☆

 変死のため、これから改めて遺体解剖をするようである。死因がはっきりするまでは、金色(ドレ)は容疑者のまま。容疑者と言って良いのか? その辺からして難しい……。

「で! それで電脳捜査課(うち)に回って来た訳……」白河課長の頭痛の種は減ることを知らなかった。
「男なら禿げているわよ! 全く」(女性ホルモンは最強であった)

「で! それら丸ごと全て一つに……」
「そうですね」
「これで、全て繋がったってことですか?」

「いや! まだだ。まだ、金城の線が……」黒岩銀次郎は最後のピースを求めて、『UNKNOWN』のクロウと連絡を取った。 

 銀次郎の掛けた電話はすぐに繋がった。
「銀さんか? 慌てないで欲しいんだが……まあ! ここまでで分かったことを教えるぞ」
「ああ! 感謝する」
 銀次郎は電話を涼に預け、部屋のスピーカーで全員で聞けるようにセットさせた。

「金城は大久保の助手として自動人形(オートマタ)の研究をしていた。それからすぐ研究の成果で揉めて首になっている」
「揉めた?」
「ああ! どうも、金城の研究成果を大久保が自分の事として発表したらしい」
「それで、仲たがい?」
「金城は今でも盗まれたと思っているんだろうな……」

「恨んでいる?」
「ああ! そう言うことだ」

「でも……それってもしかしたら……」小雪は悲しい顔でつぶやいた。
「そうだ! それがどうやら答えらしい……」
 銀次郎は立ち上がって課長にお願いした。

「課長! 金城に重要参考人として任意同行を求めますがよろしいですか?」
「ええ! 赤羽くんも小雪ちゃんも付いていって」
「はい!」

 銀次郎は最後のピースをハメに行く。想像したよりも悲しいピースになりそうだった。
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