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第四章 窓辺のコッペリア

12 星の無い夜

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――― 思い出とはそんなに大事なものなのでしょうか? 泡のように消えてしまうかもしれないのに……

 ◇ Real world ◇

 夜の中央公園、昼間は子供などで賑わう場所だが、今は通り過ぎる人もまばらだ。その人気の少ない公園のベンチに腰を下ろしている男がいた。スマホで誰かと話をしている様であった。
「証拠を残してしまいました! すいません」
「良いってことよ! あまり気にするな」
「こちっも、ダメだ! 教授の足取りは皆目、見当がつかん!」
「ダメですか……私の方も手を尽くしているんですけど……」
「ここは我慢だ! お前の最後のターゲットだからな。変な所で躓くなよ」
「分かりました。雌伏の時ですね」
「難しいことは良いから……やっとここまで来たんだ。俺もお前も……」
「はい! もう少しですね。待ちますよ! 大久保先生の悪事を全て暴くまでは」

 男の見上げた空には星が一つも見えなかった。

 ☆☆ ☆☆

 それよりも、少し早い時間。紺野夏美は夜景の見える高級レストランで壮年の男性と食事をしていた。
「君からお誘い頂けるとは、光栄だね」都内の大学病院で指導医をしている浅間は、教え子である夏美と久しぶりの再会を楽しんでいた。
「紺野くんの活躍は自分のことの様に嬉しいものさ」
「先生! 恥ずかしいです……他ではあまり話さないでくださいね」
「私の一番の自慢話なのにか?」
「ダメですよ! お願いしますね」
「善処しよう……」
 久しぶりの再会、恩師との話は尽きることを知らなかった。

「これなんだが……」浅間教授は依頼されていた書類を封筒から取り出した。
「有難うございます」受け取った夏美は書類を確認する。
「あくまでも、学会発表用のデータだ! 名前はイニシャルになっている。これをどう使うんだい?」
「実は、今、この教授が失踪されていまして……」
「捜査協力か?」
「はい!」
「君がかい?」
「ええ。実はわたし、お付き合いしている人がいまして……」
「警察関係者かね?」
「はい、それで成功報酬として、わたしの両親に会ってもらおうかと……」
 相変わらずの夏美の計算高い行動に浅間は愉快に笑った。
「全く持って、君らしい! 変わらないな」
「お褒めの言葉として受けさせていただきます」

 外は星一つないが、ここからの夜景は素晴らしいものだった。

 ☆☆ ☆☆

 翌日、捜査会議をリモートも交え行った。

「主犯は砂山鉄也、教授の席を取られたと逆恨みして、藤堂社長を三体の自動人形(オートマタ)を使い襲ったと言う事です。ただし、背後にこの犯行を指南した者がいるようです。ヘルプマンと名乗っている人物!」
「前の二件の事件と同じね」
「今回は使用されたスマホが押収済みで、現在解析中です」
「これが、カギとなるの?」
「まだ、何とも言えません」
 慎重に涼は話を結んだ。

「どうせ、飛ばしケータイだろ! 犯人を断定することは出来ないな」
「それよりも俺は、あの金城が大久保教授の件で出張って来た事の方が引っかかるな。
 大久保教授・金城・砂山・ヘルプマンで繋がっていく気がして仕方ないんだ」
 大胆に黒岩銀次郎は自分の勘を話した。

「確かに、あの場面で金城がわざわざ出て来るのが不自然ですね……何かの目的がなければ、怪しまれるだけですから……大久保教授と金城と砂山の関係をもっと詳しく調べた方が良いでしょうか?」じっくり考えながら中山小雪は話した。

「そこは大丈夫! 『UNKNOWN』にお願いしてあるから、じきに報告が来ると思うよ」涼の言葉で小雪は安心した。

 白河課長はもう一つの事件の方に話を移し、モニターに画像を映し出す。
「仮想空間(バーチャル)へのログイン記録を解析して分かったこと。大久保教授と金色(ドレ)さんはこの場所からログインしていたの」
 日本地図が映し出され、それに無数のポイントが付けられる。
「え! こんなにたくさん!」
 無数のポイントが日本地図を取り巻くように付けられていた。

 全員が黙ってしまった。

 誰も答えに辿り着けない……糸口にも、たどり着けないのかと、みんなが思っていたその時、リモートで参加していた、佐久間さんがぼそっと呟いた。
「何で、地図の中心にはポイントが無いんだろう?」
「確かに! 全部周辺ばっかりだな」
「周辺って……どこだ?」

「海?」みんなの声が揃った!

「オイ! 涼。海ってアクセスポイントなんてあるのか?」
「沿岸ならありますよ! 漁師さんも使うくらいですから」

「船?」

「誰か! 大久保教授の所有する船舶を調べて!」課長が叫んだ。

 すぐに、所有する船舶は判明した。大型のクルーザー船、5年前から所有、現在行方不明。所有者と同じく行方不明であった。

「また、振り出しか?」
「いいえ! 確実に進んでいるわ。海上保安庁に連絡して捜索してもらいます」
「時間かかりそうですね」
「ええ、こればっかりはどうにもならないわね……」

 ☆☆ ☆☆

「課長! もう一つ、夏美先生から大久保教授の病気のことで話があるそうですが、繋いでかまわないですか?」次の議題を銀次郎が話し出す。

「分かったわ。みんなで聞きましょう」

 モニター越しに夏美先生は電脳捜査課のメンバーに昨夜入手した、大久保教授のカルテの説明を始めた。
「昨日、担当医師からカルテを預かりました。名前は伏せてありますが大久保新、大久保教授のカルテで間違いありません。ただ、学会発表用にお預かりしたもので証拠能力はございませんので……」

「分かったわ! 続けて」

「この患者さんは、通院歴はかれこれ二十年になります。かなり早くから発症していたものと思われます」
「病名は?」
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