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第四章 窓辺のコッペリア

01 ヘブンズ・フォレスト

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――― 私のこの想いは本物なのでしょうか? それとも作り物なのでしょうか?

 ☆ Virtual ☆ 

 霧の立ち込めた静寂の中に、俺達は今立っていた。二人手を繋いでしばらく歩くと湖が見えてくる。
 そこはまるで絵のような世界、二人だけの理想郷がそこにはあった。

「凄いね……」
「ああ、言葉に出来ないよ……」
 こんな時の俺は語彙力の無さを痛感する。
 それでも良い、繋いだスワニーの手から感動は伝わって来るのだから……。

「いかがですか? 気に入っていただけましたか?」
 静けさを少し壊すような機械音とともにチャット画面が開いた。
「今ならすぐご契約できますよ!」
「!!」
 二人顔を見合わせ、うなずき合って画面にタッチする。

「YES or NO」の選択画面が現れて、俺たちは迷わず「YES」を押した。

 フルダイブ式VRシステム、ヘブンズ・ゲートが始まって一年がたつ、俺、フランツはこのゲームにのめり込んでかなりの時間を使っているヘビーユーザーだ。
 チームを作り、仲間とダンジョン攻略などを楽しみ、満喫したゲーム生活を送っている。
 今では、バーチャルで知り合ったスワニーと言う彼女も出来た。
 結婚も考えて同棲を始めて、余った一部屋分の資金でここヘブンズ・ゲートの中の別荘地、ヘブンズ・フォレストに俺たちだけの隠れ家を探しに来ていたのだった。
「フランツ、ここならチーム全員が来て騒いでも大丈夫だね!」
「俺たちだけの秘密の隠れ家じゃあなかったの?」
「あんまり綺麗すぎて隠しておくのが勿体ない感じ?」
「確かに! 自慢したいな。どうだって」
「今度、サプライズでみんなを呼ぼうよ!」
「賛成!」
 現実では狭いアパートでの二人暮らしだが、ここでは隣の家も見えないぐらいの豪邸。二人のテンションは否が応でも上がっていくのだった。

 バーチャルなので、近隣の住居とは干渉しない作りになっていて。遮蔽モードにすれば、隣は全く見えない。しなければ道を挟んで広い庭の建物がポツン・ポツンと距離を置いて建っているのがわかる。
 引っ越して来た俺たちは、一応、お隣さんの赤い屋根のヨーロッパ調のレンガの家に挨拶をしに行く。
「お隣さんだからね! 一応、顔だけでも見せておかなくちゃね」
 スワニーにせっつかれて、俺たちは赤い屋根の家に挨拶に行った。
「トン! トン!」
 ドアのノッカーのようなものを叩いてみたが返事が無い。
「留守みたいだね?」
「常にここに居るわけではないから、また居る時に来ようか……」と諦めかけていた時、急にドアが開いた。

「誰だ! 君たちは?」
 白髪の年配の男が怪訝そうにドアから顔を出した。
「私たちは今日、隣に引っ越して来た。フランツとスワニーです!」
「隣のログハウスか?」
「はい!」
「そうか、私はコッペル、娘のリアと二人で住んでいる」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
 簡単な挨拶を済ませて俺たちは戻った。

 帰り際に、ふと、視線を感じてコッペルさんの家を振り返ると二階の窓辺に綺麗な女性が立っていた。金髪・碧眼、バーチャルなのでありなのだが……俺はその瞳が妙に寂し気で立ち止まってしまう。
「どうしたの?」
 スワニーに言われて慌てて歩き出した。

 これが俺とリアの出会いだった。

 「チーム・アックス」これが俺の率いるチームの名前だ!
 前衛多めでグリグリ押していく攻撃型チーム、ランクでもかなり上位に入っている。
 総勢20名、今日は12名が参加して、攻略終了後に打ち上げで俺たちの隠れ家のお披露目を計画している。そのためスワニーはあらかじめ先に行って準備をしてくれていた。
「フランツさん! サプライズって何ですか? 俺たち楽しみにしているんですから」
「それを先に言ったらサプライズじゃあなくなるだろ!」
「分かってますけどね」
「もう少しまてよな!」楽しいダンジョン攻略になっていた。
 攻略終了後、俺は仲間を誘いダンジョンからヘブンズフォレストへ転送した。

「うぉー! 凄いな!」
「感激だね!」
「素敵!」
 チームのメンバーはみんな俺たちの隠れ家を見て驚いていた。

 隠れ家のお披露目は上手くいき、広い庭での賑やかなパーティーは夜遅くまで続く。
「また、何かの時はここでやって良いですか?」
「是非お願いします!」
 仲間の喜ぶ顔を見て俺も断りづらいし、攻略後の楽しみがまた一つ増えたと思えばそれも良いのかなと思う。
「分かった! ちょくちょくじゃあ困るからな!」
「了解! フロアーボス攻略の時ですかね?」
「そうだな」
「よおーし! みんな、頑張るぞ!」
「おー!」
 みんなのテンションがドンドン上がっていった。
 ここの遮蔽モードはホントに大丈夫なのかと心配になったくらいであった。

 翌日、休日でもあったため。俺はスワニーより少し早く起きてログインして、早朝の散歩を満喫した。
 小鳥のさえずり、小川のせせらぎを聞きながら小道を一人歩く。誰にも邪魔されない俺だけの時間だ。彼女との時間も大切だが、こう言う時間も俺は欲しかったんだ。
 ふと、隣の家の庭を見ると金髪の女性が花壇の手入れをしているところだった。
「おはようございます」俺は思い切って声をかけてみた。
「あ! おはようございます、お隣の方ですね」リアは少しは覚えてくれていたようだった。
「はい! フランツです」
「私は、リアです! よろしくお願いします」丁寧に自己紹介をしてくれる。
「奥様は今日はご一緒ではないんですか?」
「ええ! 俺だけ早起きして散歩しているんです。リアさんは?」
「私ですか? 私も早起きして部屋に飾るお花を選んでいるんです。ここでは色々な花が咲いてくれますから……」と嬉しそうに微笑むリアだった。

 こんな会話が週末の早朝の俺の楽しみの一つに加わったことはスワニーには内緒だ。
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