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第二章 アリスの楽園
09 2番目の死神
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◇ Real world ◇
紺野夏美は、この日特に多忙であった。入院中の緑川を見舞い、午前の外来診察、午後の入院診察を終えて。やっと一息ついたのは、午後の三時過ぎであった。まだこれから、事務仕事が残っている。
「もうこんな時間、また、お昼を食べ損ねたわ」
夏美は、仕方なく喫煙室に向かった。
☆ Virtual ☆
窓の外には、お城とお花畑を一望できる喫煙室。ここはリアルではなく、バーチャルな喫煙室。夏美のお気に入りの場所であった。
お花畑には、アリスとヒナがいるのが見えた。
「アリスちゃんにも、やっと友達が出来たんだものね……」
心を閉ざしていたアリスに、最近やっと友だちが出来たことで夏美の心配事が一つ消えたのだった。
「バン!」
急に部屋の電気が消えた。
体を硬くした、夏美の背後から……。
「ギィー、ギィー」
と何かを引きずる音が、ゆっくりしたした足音とともに近づいてくる。
その音は、喫煙室の前で止まりドアがゆっくりと開いた……。
◇ Real world ◇
俺はこの日、小雪と三階の更衣室のロッカーを調べるため研究棟にいた。
午後三時半、研究棟に女の悲鳴が響く。悲鳴を聞いて辺りを見回す。
それぞれが、研究室から顔を出した。
豊田は居た! 後は、夏美か? 俺は急いで喫煙室に向かった。
「夏美先生! 大丈夫か?」
部屋の隅で震えていた、夏美に俺が駆け寄ると、
「銀次郎さん……」
弱々しい声で、夏美は縋り付いてくる。
この後、泣きじゃくる夏美が落ち着くまで、一時間以上を要した。
この日の件に関して、涼は、白河課長に報告した。
「午後三時十五分から三十分の間、被害者、紺野夏美は、研究棟二階奥の喫煙室においてメディギアを使用して、バーチャル空間で喫煙をしてました」
「何それ、ややこしいことするのね」
課長のツッコミが入る。
「健康のためだそうです」
涼はさらっと話を進める。
「その後すぐに、照明が消えて男が入ってきたそうです」
そう言って、バーチャルでの録画映像をモニターに映し出した。
「スプラッタね……」
課長は途中から目を背けてしまった。
そこには、死神の衣装をまとった白い仮面の男が、紺野に馬乗りになって、延々とナイフを突き刺す映像が映し出されていた。
「喫煙所には、白い仮面が。紺野のデスクには、緑川の時と同じ死神のタロットカードが置いてありました」
「同一犯、ね!」
「そう思われます」
モニタールームは重苦しい空気に包まれた。
「ところで、黒岩さんはどうしたの?」
課長の疑問に、涼は引きつった笑みを返し、こう答えた。
「被害者を自宅に送り届けるそうです。精神状態が不安定なのでしばらく様子を見ると言っていました」
「若い女性よね、大丈夫なの?」
課長は心配していたが、自分は再度、引きつった笑みで答えた。
「大丈夫でしょう『俺は弱ってる女を抱く趣味はねぇ』と言っていましたから」と補足した。
「弱ってなかったら、抱くのね……」
課長は心の中で頭を抱えていた。
「黒岩さん、本当に信じて良いのよね……」
白河課長の言葉に誰も答えるものはいなかった。
紺野夏美は、この日特に多忙であった。入院中の緑川を見舞い、午前の外来診察、午後の入院診察を終えて。やっと一息ついたのは、午後の三時過ぎであった。まだこれから、事務仕事が残っている。
「もうこんな時間、また、お昼を食べ損ねたわ」
夏美は、仕方なく喫煙室に向かった。
☆ Virtual ☆
窓の外には、お城とお花畑を一望できる喫煙室。ここはリアルではなく、バーチャルな喫煙室。夏美のお気に入りの場所であった。
お花畑には、アリスとヒナがいるのが見えた。
「アリスちゃんにも、やっと友達が出来たんだものね……」
心を閉ざしていたアリスに、最近やっと友だちが出来たことで夏美の心配事が一つ消えたのだった。
「バン!」
急に部屋の電気が消えた。
体を硬くした、夏美の背後から……。
「ギィー、ギィー」
と何かを引きずる音が、ゆっくりしたした足音とともに近づいてくる。
その音は、喫煙室の前で止まりドアがゆっくりと開いた……。
◇ Real world ◇
俺はこの日、小雪と三階の更衣室のロッカーを調べるため研究棟にいた。
午後三時半、研究棟に女の悲鳴が響く。悲鳴を聞いて辺りを見回す。
それぞれが、研究室から顔を出した。
豊田は居た! 後は、夏美か? 俺は急いで喫煙室に向かった。
「夏美先生! 大丈夫か?」
部屋の隅で震えていた、夏美に俺が駆け寄ると、
「銀次郎さん……」
弱々しい声で、夏美は縋り付いてくる。
この後、泣きじゃくる夏美が落ち着くまで、一時間以上を要した。
この日の件に関して、涼は、白河課長に報告した。
「午後三時十五分から三十分の間、被害者、紺野夏美は、研究棟二階奥の喫煙室においてメディギアを使用して、バーチャル空間で喫煙をしてました」
「何それ、ややこしいことするのね」
課長のツッコミが入る。
「健康のためだそうです」
涼はさらっと話を進める。
「その後すぐに、照明が消えて男が入ってきたそうです」
そう言って、バーチャルでの録画映像をモニターに映し出した。
「スプラッタね……」
課長は途中から目を背けてしまった。
そこには、死神の衣装をまとった白い仮面の男が、紺野に馬乗りになって、延々とナイフを突き刺す映像が映し出されていた。
「喫煙所には、白い仮面が。紺野のデスクには、緑川の時と同じ死神のタロットカードが置いてありました」
「同一犯、ね!」
「そう思われます」
モニタールームは重苦しい空気に包まれた。
「ところで、黒岩さんはどうしたの?」
課長の疑問に、涼は引きつった笑みを返し、こう答えた。
「被害者を自宅に送り届けるそうです。精神状態が不安定なのでしばらく様子を見ると言っていました」
「若い女性よね、大丈夫なの?」
課長は心配していたが、自分は再度、引きつった笑みで答えた。
「大丈夫でしょう『俺は弱ってる女を抱く趣味はねぇ』と言っていましたから」と補足した。
「弱ってなかったら、抱くのね……」
課長は心の中で頭を抱えていた。
「黒岩さん、本当に信じて良いのよね……」
白河課長の言葉に誰も答えるものはいなかった。
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