20 / 94
第二章 アリスの楽園
09 2番目の死神
しおりを挟む
◇ Real world ◇
紺野夏美は、この日特に多忙であった。入院中の緑川を見舞い、午前の外来診察、午後の入院診察を終えて。やっと一息ついたのは、午後の三時過ぎであった。まだこれから、事務仕事が残っている。
「もうこんな時間、また、お昼を食べ損ねたわ」
夏美は、仕方なく喫煙室に向かった。
☆ Virtual ☆
窓の外には、お城とお花畑を一望できる喫煙室。ここはリアルではなく、バーチャルな喫煙室。夏美のお気に入りの場所であった。
お花畑には、アリスとヒナがいるのが見えた。
「アリスちゃんにも、やっと友達が出来たんだものね……」
心を閉ざしていたアリスに、最近やっと友だちが出来たことで夏美の心配事が一つ消えたのだった。
「バン!」
急に部屋の電気が消えた。
体を硬くした、夏美の背後から……。
「ギィー、ギィー」
と何かを引きずる音が、ゆっくりしたした足音とともに近づいてくる。
その音は、喫煙室の前で止まりドアがゆっくりと開いた……。
◇ Real world ◇
俺はこの日、小雪と三階の更衣室のロッカーを調べるため研究棟にいた。
午後三時半、研究棟に女の悲鳴が響く。悲鳴を聞いて辺りを見回す。
それぞれが、研究室から顔を出した。
豊田は居た! 後は、夏美か? 俺は急いで喫煙室に向かった。
「夏美先生! 大丈夫か?」
部屋の隅で震えていた、夏美に俺が駆け寄ると、
「銀次郎さん……」
弱々しい声で、夏美は縋り付いてくる。
この後、泣きじゃくる夏美が落ち着くまで、一時間以上を要した。
この日の件に関して、涼は、白河課長に報告した。
「午後三時十五分から三十分の間、被害者、紺野夏美は、研究棟二階奥の喫煙室においてメディギアを使用して、バーチャル空間で喫煙をしてました」
「何それ、ややこしいことするのね」
課長のツッコミが入る。
「健康のためだそうです」
涼はさらっと話を進める。
「その後すぐに、照明が消えて男が入ってきたそうです」
そう言って、バーチャルでの録画映像をモニターに映し出した。
「スプラッタね……」
課長は途中から目を背けてしまった。
そこには、死神の衣装をまとった白い仮面の男が、紺野に馬乗りになって、延々とナイフを突き刺す映像が映し出されていた。
「喫煙所には、白い仮面が。紺野のデスクには、緑川の時と同じ死神のタロットカードが置いてありました」
「同一犯、ね!」
「そう思われます」
モニタールームは重苦しい空気に包まれた。
「ところで、黒岩さんはどうしたの?」
課長の疑問に、涼は引きつった笑みを返し、こう答えた。
「被害者を自宅に送り届けるそうです。精神状態が不安定なのでしばらく様子を見ると言っていました」
「若い女性よね、大丈夫なの?」
課長は心配していたが、自分は再度、引きつった笑みで答えた。
「大丈夫でしょう『俺は弱ってる女を抱く趣味はねぇ』と言っていましたから」と補足した。
「弱ってなかったら、抱くのね……」
課長は心の中で頭を抱えていた。
「黒岩さん、本当に信じて良いのよね……」
白河課長の言葉に誰も答えるものはいなかった。
紺野夏美は、この日特に多忙であった。入院中の緑川を見舞い、午前の外来診察、午後の入院診察を終えて。やっと一息ついたのは、午後の三時過ぎであった。まだこれから、事務仕事が残っている。
「もうこんな時間、また、お昼を食べ損ねたわ」
夏美は、仕方なく喫煙室に向かった。
☆ Virtual ☆
窓の外には、お城とお花畑を一望できる喫煙室。ここはリアルではなく、バーチャルな喫煙室。夏美のお気に入りの場所であった。
お花畑には、アリスとヒナがいるのが見えた。
「アリスちゃんにも、やっと友達が出来たんだものね……」
心を閉ざしていたアリスに、最近やっと友だちが出来たことで夏美の心配事が一つ消えたのだった。
「バン!」
急に部屋の電気が消えた。
体を硬くした、夏美の背後から……。
「ギィー、ギィー」
と何かを引きずる音が、ゆっくりしたした足音とともに近づいてくる。
その音は、喫煙室の前で止まりドアがゆっくりと開いた……。
◇ Real world ◇
俺はこの日、小雪と三階の更衣室のロッカーを調べるため研究棟にいた。
午後三時半、研究棟に女の悲鳴が響く。悲鳴を聞いて辺りを見回す。
それぞれが、研究室から顔を出した。
豊田は居た! 後は、夏美か? 俺は急いで喫煙室に向かった。
「夏美先生! 大丈夫か?」
部屋の隅で震えていた、夏美に俺が駆け寄ると、
「銀次郎さん……」
弱々しい声で、夏美は縋り付いてくる。
この後、泣きじゃくる夏美が落ち着くまで、一時間以上を要した。
この日の件に関して、涼は、白河課長に報告した。
「午後三時十五分から三十分の間、被害者、紺野夏美は、研究棟二階奥の喫煙室においてメディギアを使用して、バーチャル空間で喫煙をしてました」
「何それ、ややこしいことするのね」
課長のツッコミが入る。
「健康のためだそうです」
涼はさらっと話を進める。
「その後すぐに、照明が消えて男が入ってきたそうです」
そう言って、バーチャルでの録画映像をモニターに映し出した。
「スプラッタね……」
課長は途中から目を背けてしまった。
そこには、死神の衣装をまとった白い仮面の男が、紺野に馬乗りになって、延々とナイフを突き刺す映像が映し出されていた。
「喫煙所には、白い仮面が。紺野のデスクには、緑川の時と同じ死神のタロットカードが置いてありました」
「同一犯、ね!」
「そう思われます」
モニタールームは重苦しい空気に包まれた。
「ところで、黒岩さんはどうしたの?」
課長の疑問に、涼は引きつった笑みを返し、こう答えた。
「被害者を自宅に送り届けるそうです。精神状態が不安定なのでしばらく様子を見ると言っていました」
「若い女性よね、大丈夫なの?」
課長は心配していたが、自分は再度、引きつった笑みで答えた。
「大丈夫でしょう『俺は弱ってる女を抱く趣味はねぇ』と言っていましたから」と補足した。
「弱ってなかったら、抱くのね……」
課長は心の中で頭を抱えていた。
「黒岩さん、本当に信じて良いのよね……」
白河課長の言葉に誰も答えるものはいなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
彩霞堂
綾瀬 りょう
ミステリー
無くした記憶がたどり着く喫茶店「彩霞堂」。
記憶を無くした一人の少女がたどりつき、店主との会話で消し去りたかった記憶を思い出す。
以前ネットにも出していたことがある作品です。
高校時代に描いて、とても思い入れがあります!!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
三部作予定なので、そこまで書ききれるよう、頑張りたいです!!!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
瞳に潜む村
山口テトラ
ミステリー
人口千五百人以下の三角村。
過去に様々な事故、事件が起きた村にはやはり何かしらの祟りという名の呪いは存在するのかも知れない。
この村で起きた奇妙な事件を記憶喪失の青年、桜は遭遇して自分の記憶と対峙するのだった。
同窓会にいこう
jaga
ミステリー
大学4年生、就職活動に勤しむ江上のもとへ小学生時代のクラスの同窓会の案内が届く
差出人はかつて小学生時代に過ごした九州の田舎で淡い恋心を抱いた「竹久瞳(たけひさ ひとみ)」からだった
胸を高鳴らせ10年ぶり訪れた田舎での同窓会の場で竹久瞳から衝撃の事実を聞かされる
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる