電脳捜査課 黒岩銀次郎の受難

第二章 アリスの楽園

05 幸運

　◇　Real world　◇

　警視庁交通部交通総務課・中山小雪は運が良い。

　大学卒業後、何気なしに受けた警視庁の採用試験に合格して。一番希望していた交通総務課に配属され、現在、窓口業務だけではなくミニパトにも乗っている。
　ペアを組むのは仁義弘と言う定年を過ぎた初老の男性、話は弾まないが優しく教えてくれる。陰湿ないじめとか厳しい上下関係もなく、小雪は今の環境に大変満足していた。

　ところが、上司に急に呼び出されて被害者親子の身辺警護を仁と共に言い渡された。
　道すがら、仁から詳しい仕事の内容を聞かされたが、さらに私を混乱させたのはもう一人協力者がいると言って、仁が車に乗せたのが制服を着た女子校生だったからである。

「いやー、ゴメン、ゴメン！ わたしは今まさに追試という強敵を打ち倒してきたんだよね！」うすい胸を張る恵に、
「恵ちゃん、その前に赤点をまずは無くさないとナ！」と仁さんに速攻で撃沈された恵であった。

　ハンドルを握りながら小雪は叫びたかった、何なのコレ？　小雪はいったいどこに向かうのか？

　そうこうしているうちにミニパトはトーキョーベイサイドホスピタルに到着する。小雪がさらに驚いたのはそこにあの赤羽涼が待っていたからだった。

　赤羽は本人は知らないが（自覚の無いやな奴である）警視庁では女性人気ナンバーワン！　憧れの的だったのだ。

　驚いてフリーズしている小雪の脇から、恵が顔を出していつもの調子で挨拶をする。
「涼さん！　手伝いに来たよ～♪」
　小雪も緊張しながら挨拶した。
「中山小雪です！　よろしくお願いします！」
「小雪ちゃんだね！　仁さんから聞いているよ、よろしく！　自分が赤羽涼です」
　小雪は思わず顔が火照ってしまった。

　赤羽涼さんに小雪ちゃんって呼ばれた！

　やっぱり、中山小雪は自分が運が良いのだと強く思った。