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第二章 アリスの楽園

04 1番目の死神

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 ◇ Real world ◇

 数日後、夜十時過ぎ頃に緑川は研究棟を出て宿舎に一人急いでいた。
 最近は家族と一緒の時間を大切にと考えて少しは早く帰っているのだが、今日は気が付いたらこの時間だった。
 きっと、ヒナはもう寝ているだろう。そんな事を考えながら研究棟の裏を抜けようとしたその時、目の前に植木鉢が落ちてきた!

「ガシャン!」 
 驚き、上を見上げるとベランダに人影が!
 その人影が植木鉢を落としている!
 それもその姿は……まるで……。
「ガシャン!」
「ガシャン!」
 続けざまに植木鉢を落とされ、緑川はただ必死に逃げることしか出来なかった。

「大丈夫か? 緑川」
 銀次郎たちは夜中に搬送先の病院に駆けつけた。
「黒岩さんご迷惑をお掛けして本当にすいません。」
 足に包帯を巻いた緑川がベットの上でしきりと謝る。
 どうやら、逃げる時に花壇に足を取られて転んで骨折したと言う、あまりカッコの良いケガではないようだった。
 ただ、事件であることは確かで、現在、所轄が現場検証中らしい。
 
「犯人は見たんだろう? どんな奴だった?」
 銀次郎が聞くと、緑川は真面目な顔で信じてもらえないかもしれませんけどと前置きしてからこう言った。
「死神の恰好をして大きな鎌を持った白い仮面の男でした」

「涼、どう思う? 緑川の言ったことを」
 現場に向かう道すがら銀次郎は涼に聞く。

「緑川本人があれだけハッキリ見てるって言うんですからね……」
 涼も半分半分って気持ちらしい。

 ただ、現場についた俺たちは九割方信じた。なぜって? それは四階のベランダに白い仮面が落ちていたからだった。

 さらに、緑川のデスクにはタロットカードが置いてあった。もちろん死神のカードだ!

 次の日、銀次郎たちは地元警察と共に現場検証に立ち会った。
 確かに歩道には植木鉢が一、二、三、四個割れて中の花が散乱している。
 見上げると研究棟の壁、ベランダは二階と四階にある。1階と三階には小さな窓しか無かった。
「涼、試しに四階のベランダに立ってくれないか?」
「了解です」
 銀次郎の現場検証は念入りだ! 納得するまでは決して終わらない。
 そこに急に呼んではいない人物が現れた。
「ご苦労様です、黒岩さん。でも、こんな感じで再会するのはあまり嬉しいとは言えないわね……」
 困った顔の紺野女史だが、少し嬉しいのが本音のようであった。

「この花は屋上で子供たちが育てていたものなの。酷いことをするわ……」
「屋上?」
 銀次郎は聞き返した。
「ええ、屋上よ。北側なんだからあそこのベランダでは花は育たないわ」
 何がおかしいのかと言いたげな女史をそのままに、俺は涼に屋上へ行くように指示した。
「どうだ? 見えるか?」
「ダメです、フェンスがあって屋上からでは見えません!」
「フェンスを越えたらどうだ?」
「フェンスを越えればどうにか見えますが……」

 今度は銀次郎が四階のベランダに立って代わりに紺野女史に見てもらう。
「どうですか? 見えますか紺野先生!」
 紺野女史はこちらを見ているが返事が無い? 再度問いかけると意外な答えが返ってきた。
「紺野先生じゃなくて、紺野夏美! 私は紺野夏美よ!」
 どうやらこだわりがあるようで結局、銀次郎は夏美先生と呼ぶことで妥協点を見出したのだった、疲れる人だ……。

「屋上の人の顔なんて無理無理! 四階ならギリギリどうにかかな? わたし視力良くないから……」
 屋上へ上がって来た紺野女史、改め夏美先生は銀次郎たちと合流し話す。
「でも、せっかく昨日も子供たちと水やりしたのにね」
「え、昨日の何時ごろですか?」
 俺は思わず聞き返した。

 夏美先生は昨日午前中にアリスと言う子供と二人で花に水をやったそうだ。その時は確かに植木鉢はあったらしい。その後に誰かが四階へ運んで落とした……。

「涼、もう一度見るぞ! 何か見落としている気がする」
 銀次郎たちは夏美先生と別れ四階のベランダに向かう。
 そこで強烈な違和感を覚えた。

「涼、植木鉢4つお前ならどう持つ? 土をこぼさずどう落とす? 死神って奴は土もこぼさず落としたのか?」
 銀次郎の言っていることが涼にもわかった! 四階のベランダには一切土がこぼれていなかったのである。

 他の階も見て回ったところ、4階のベランダの真下の3階倉庫の窓枠と中の脚立に土が付着しており、鑑識が調べているがどうやら植木鉢と同一のようだ。

 四階でなく三階、なぜわざわざそんな小細工をしたのか? 三階ではまずかった……。

「そもそも、植木鉢を落とさなくても後ろから植木鉢で殴っちゃった方が確実でしょう! それをわざわざ階を偽装してまで……犯行予告とか計画性ありすぎでしょう!」
 涼は頭を抱えながら訴える。

「脅かすだけだったとか、これから連続してする前座とかな、とにかくこれで終わりはないわな」
 二人はうなずきあった。

「涼、課長に連絡して、応援要請だ。まずは可能性大は緑川親子だな」
 涼は早速報告し、緑川本人と妻子への警護を要請した。
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