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第二章 アリスの楽園
01 トーキョー・ベイサイド・ホスピタル
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◇ Real world ◇
海に零れ落ちるように、その白い建物はそびえていた。赤羽涼は黒岩銀次郎と共にシルバーのセダンから降りた途端、海からの心地良い風に歓迎されたかのような気分になった。
「う~ん! 病院のくせに良いところに建っているもんだな。うちの部署も隣に建ててくれないかな?」
隣で銀次郎は背伸びをしながらそうぼやいた。
別に病院が暗くジメジメした場所に建てなければいけないなんて規則はないのだが……銀次郎のイメージではどうやらそうなっているようだった。
二人の今回の目的は政府の全面的なバックアップもあり、緑川の監修の元、三か月前に出来上がった病院と仮想空間の融合施設「トーキョー・ベイサイド・ホスピタル」の視察である。
六か月前の電脳テロ事件「グリーンクライシス」の後、バーチャルシステムの危険性と有用性の両方が議論され、結局、医療での試験的な実施試行期間を置くことになった。
日本の先行している技術のため、国も中止するわけにはいかないと言う、玉虫色の解決策が提示され、開発中のベイエリアにリアル+バーチャルの病院が建ったわけだ。
ここには地上10階、地下3階、研究棟5階ほかと、海に向かってバーチャルな空間が用意されている。
銀次郎にとっては表向き視察と言う名目で、旧知の緑川の様子を見に来た、ただそれだけであったが。涼はまだ緑川を完全には信用しておらず、自然と固い表情になってしまう。
「オイ! 涼。そんなに固くなるなよ! 緑川に挨拶するだけだからよ」
「銀さん! そう言う訳にはいかないでしょう? 何せ事件の実行犯なんですからね」
「一緒に解決もしたんだからプラマイゼロで良いのじゃないか?」
「そうはいきませんよ!」
賑やかにロビーに入ると、当の緑川が待っていた。
「ようこそお待ちしていました! 黒岩さん!」
「よう! 戦友、元気だったか?」
二人は固い握手を交わした。
◇ Real world ◇
一時間以上たっぷりと、施設の中を案内されてから、二人は研究棟の応接室に案内された。
そこで、共同研究をしていると言う女性医師を紹介される。
「初めまして、緑川さんと共同でメディギアを開発しています。紺野夏美です!」
30前後の知的な美人だ。
「こちらこそよろしくお願いします。警視庁電脳捜査課の黒岩と赤羽です」
コーヒーをいただき、少し雑談をした後。涼はここからだとばかり難しいシステムの話を始める。銀次郎は手持ち無沙汰で胸ポケットから煙草を出したのだが……紺野女史に睨まれてしまった。
「コホン! 失礼ですがここは禁煙です!」
やばいっと慌ててしまおうとしたが紺野女史に止められる。
「黒岩さん! 喫煙ルームがございますが……」
銀次郎はその提案に無条件で乗ったのだった。
「ここが本当に喫煙ルームか?」
案内されたのはヘブンズゲートと同様のリクライニングシートの並ぶ部屋だった。
銀次郎の疑問に女史は妖艶な笑顔でこう答えた。
「ええ! ここがわたしの秘密の喫煙ルームですよ」
☆ Virtual ☆
銀次郎の案内されたのは海を見渡せるガラス張りの喫煙ルームであった。
しかもここはリアルではないバーチャル、仮想空間の喫煙ルームだった。
隣で紺野女史はスリムなメンソールに火を着けている。隣の銀次郎の煙草に火も着けながら嬉しそうにこう言った。
「いかがですか? ここなら迷惑にはならないでしょう? でも、淋しいんですよね、お仲間がいなくて……」
喫煙率は日に日に下がっており、他に喫煙者がいないのだろう。秘密を共有して楽しいそうだ。
「わたしは禁煙して3カ月になります。もうリアルでは吸っていないんですよ」
確かに健康には良さそうだ。バーチャル喫煙は禁煙対策には有効化もかもしれない。
銀次郎たちは二人で海を見ながらゆっくりと煙草を味わった。
海に零れ落ちるように、その白い建物はそびえていた。赤羽涼は黒岩銀次郎と共にシルバーのセダンから降りた途端、海からの心地良い風に歓迎されたかのような気分になった。
「う~ん! 病院のくせに良いところに建っているもんだな。うちの部署も隣に建ててくれないかな?」
隣で銀次郎は背伸びをしながらそうぼやいた。
別に病院が暗くジメジメした場所に建てなければいけないなんて規則はないのだが……銀次郎のイメージではどうやらそうなっているようだった。
二人の今回の目的は政府の全面的なバックアップもあり、緑川の監修の元、三か月前に出来上がった病院と仮想空間の融合施設「トーキョー・ベイサイド・ホスピタル」の視察である。
六か月前の電脳テロ事件「グリーンクライシス」の後、バーチャルシステムの危険性と有用性の両方が議論され、結局、医療での試験的な実施試行期間を置くことになった。
日本の先行している技術のため、国も中止するわけにはいかないと言う、玉虫色の解決策が提示され、開発中のベイエリアにリアル+バーチャルの病院が建ったわけだ。
ここには地上10階、地下3階、研究棟5階ほかと、海に向かってバーチャルな空間が用意されている。
銀次郎にとっては表向き視察と言う名目で、旧知の緑川の様子を見に来た、ただそれだけであったが。涼はまだ緑川を完全には信用しておらず、自然と固い表情になってしまう。
「オイ! 涼。そんなに固くなるなよ! 緑川に挨拶するだけだからよ」
「銀さん! そう言う訳にはいかないでしょう? 何せ事件の実行犯なんですからね」
「一緒に解決もしたんだからプラマイゼロで良いのじゃないか?」
「そうはいきませんよ!」
賑やかにロビーに入ると、当の緑川が待っていた。
「ようこそお待ちしていました! 黒岩さん!」
「よう! 戦友、元気だったか?」
二人は固い握手を交わした。
◇ Real world ◇
一時間以上たっぷりと、施設の中を案内されてから、二人は研究棟の応接室に案内された。
そこで、共同研究をしていると言う女性医師を紹介される。
「初めまして、緑川さんと共同でメディギアを開発しています。紺野夏美です!」
30前後の知的な美人だ。
「こちらこそよろしくお願いします。警視庁電脳捜査課の黒岩と赤羽です」
コーヒーをいただき、少し雑談をした後。涼はここからだとばかり難しいシステムの話を始める。銀次郎は手持ち無沙汰で胸ポケットから煙草を出したのだが……紺野女史に睨まれてしまった。
「コホン! 失礼ですがここは禁煙です!」
やばいっと慌ててしまおうとしたが紺野女史に止められる。
「黒岩さん! 喫煙ルームがございますが……」
銀次郎はその提案に無条件で乗ったのだった。
「ここが本当に喫煙ルームか?」
案内されたのはヘブンズゲートと同様のリクライニングシートの並ぶ部屋だった。
銀次郎の疑問に女史は妖艶な笑顔でこう答えた。
「ええ! ここがわたしの秘密の喫煙ルームですよ」
☆ Virtual ☆
銀次郎の案内されたのは海を見渡せるガラス張りの喫煙ルームであった。
しかもここはリアルではないバーチャル、仮想空間の喫煙ルームだった。
隣で紺野女史はスリムなメンソールに火を着けている。隣の銀次郎の煙草に火も着けながら嬉しそうにこう言った。
「いかがですか? ここなら迷惑にはならないでしょう? でも、淋しいんですよね、お仲間がいなくて……」
喫煙率は日に日に下がっており、他に喫煙者がいないのだろう。秘密を共有して楽しいそうだ。
「わたしは禁煙して3カ月になります。もうリアルでは吸っていないんですよ」
確かに健康には良さそうだ。バーチャル喫煙は禁煙対策には有効化もかもしれない。
銀次郎たちは二人で海を見ながらゆっくりと煙草を味わった。
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