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第一章 ヘブンズ・ゲート

02 グリーンホライズン計画

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 ◇ Real world ◇

 警視庁電脳捜査課・課長の白河千秋しらかわちあきは、この事態に頭を抱えていた。
「この計画は十年以上前に原発事故の影響から核廃絶、国境の撤廃、等々、一部の有識者から出た理想論的計画だったはずよ、それをどうして今頃持ち出してくるの?」

 日本全国で合計千人、他の国でも同様のはず、政府の緊急事態宣言等々、こちらで対応することは山積みだ。上層部の重たい尻を叩いて早々に対応しなければ事態は人命に関わる。
「現場は待機! 後続と合流して!」
「ドリームキャッスルの技術者を拘束、ギアの解除を最優先に!」
「医療関係もこっちに寄越して!」
 白河はテキパキと部下に指示を出しつつ頭をフル回転させていた。

 ☆ Virtual ☆

 涼と合流出来ない、緑川も見つけ出せない、銀次郎はバーチャルの世界で途方に暮れていた。
「まあ、涼のヤツは心配いらねえだろう……とにかく緑川だ! あいつを確保すればゲームオーバーで良いんだよな?」
 現状をいまいち把握し切れていない銀次郎であった。

「ヘブンズキャッスル」の手前に広がる「ヘブンズガーデン」と言われる広場に千人近くの人数が集まっている。そこに緑川ではなくAIの「エンジェル」が登場した。
「皆さーん! ヘブンズゲートへようこそ~♪ ここは皆さんが自由に遊べる空間でーす。ヘブンズキャッスルを攻略するもよし、ヘブンズガーデンを散策するもよし、皆さんの想像力次第でーす。でもでも、犯罪はダメだからね~。そこんとこヨ・ロ・シ・ク!」
 みんなの歓声が一斉に湧き上がった。

 ◇ Real world ◇

 涼が東京スカイドームのロビーで警備員と押し問答をしていると意外な人物が現れた。
「涼さーん! いたいた! 仁さん、こっちに涼さんいたよー」
「おいこら! そんなに急いで先に行くんじゃない。こっちは膝にガタが来てるんだからな! 年寄りはちゃんと敬(うやま)え!」
 気の抜けた黄色い声とダミ声がこちらに向かってきた。黒岩の娘、めぐみと定年して警察の嘱託になった、仁義弘じんよしひろだった。
 赤羽を追い越し警備員と向かい合った仁は、ダミ声を響かせた。
「オイ! 警察に喧嘩売ってんのか。お前ら道を開けろ!」
 警備員がひるんだ所を強引に中に入っていく。止めようとする警備員が仁の肩を掴もうとしたその時、あいだに入った恵が一人二人となぎ倒す。
「だめだよ~♪ 年寄りは敬えって言われてるでしょう?」 
 この凸凹コンビの後を追って涼は再びホールに入った。ダメだ! 今は銀さんのぶんまで自分が頑張らないと……涼はそう言って自分に発破をかけなおした。

 ☆ Virtual ☆

 再び言う、黒岩銀次郎は途方に暮れていた。
「俺は現場一筋の人間だ、だがここは仮想空間だよな……、現場と言えるのか?」
 銀次郎はぶつぶつと大きな声で独り言を言った。
 とにかく聞き込みだ! 現場百回! 感が命だ! と自分に言い聞かせて、黒岩はヘブンズガーデンに残る数人に話しを聞く。
 何か変なところはないか? おかしいことはないか? 聞いてはみたが、皆一様にテンションが高く夢中になってしまっている。
 仕方なくNPCにも声をかけてみた。
「すまないプレスなのだが、CEOの緑川さんにアポイントメントは取れないか?」
「お答えします。現在通信障害が発生しております。もうしばらくお待ちください」
 通信障害、これじゃあ向こうとの連絡が全く取れない。緑川がこっちに来たと思わせたのはフェイクか?
「仕方ねえ、ここは一旦引き上げて体制を整えるか……」
 銀次郎はそう言ってコントロール画面を出してログアウトのボタンを探した。
「無い……」

 コントロール画面には、あるはずのログアウトのボタンが存在しなかった。

 ◇ Real world ◇

 後から来た警官に警備員を任せて、涼はステージにいる緑川の所に向かった。恵は銀次郎を探してホールの後方に行き、涼と仁で緑川の前に立つ。
「生きてるのか? 死んでるのか? こいつは……」
 初めて見るヘブンズギアを装着した緑川に仁は戸惑った。
「大丈夫です! 生きてはいます。しかし、ギアを外して良いのかどうか……詳しく調べないと分かりません。最悪、生命維持に関わるロックがかかってる可能性もあります」
「それって、最悪、強引に取ったり切ったりしたら死んじまうってことかい?」
 涼の説明に仁は焦った。
「オイ、恵。親父さんのヘルメット取っちゃダメだぞ!」
 仁の大声に今まさに取ろうとしていた恵は固まった。
「なあ、なんでこいつは逃げなかったんだ? これじゃあ捕まっちまうだろ。何が目的だったんだ? それとも逃げられなかった……」 
 仁のどの疑問にも涼は答えられなかった。

「うわキモ! このおっちゃん、キャラクターのキーホルダー持ってるよ」
 恵は目ざとく緑川の握っていたキャラクターのキーホルダーを指差す。
「それがどうした? 」
 何がおかしいのか、涼には理解できなかった。
「だって、これ、小学校低学年に人気のキャラクターだよ。おかしくない?」
「子供がいれば当然だろう。お揃いとかな……」
 当たり前だという、仁の答えに涼は違和感を覚える。

 確か緑川は数年前に離婚しているはずだ。
涼のつぶやきに仁が反応した。
「おかしいと思ったことはとことん突き止めてやるんだよ! 何が正解なんて誰も分かりはしねえ」
 仁の言葉に背中を押され涼は決断する。

「仁さん、恵ちゃん。ちょっと俺に付き合ってもらえるかい?」

 そう言って涼は動き出した。自分のカンを信じて。
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