呪い歌

ふるは ゆう

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第二夜・帰り道

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 コツコツと闇夜に迫る足音が 近づくように少し早まる
     降羽 優:歌集「呪い歌」から


「ん? 気のせいかな」
 カオルは寮へ帰る道で何回か曲がった時に気が付いた。
 誰か付いて来ている?
 そう思ったカオルの足は自然と早くなった。
「!」
 後ろの足音も早まった気がした……。

 その日は、職場の飲み会があり、わたしはどうにか2次会の途中で席を立てた。
「大丈夫? 送ろうか?」
 そう言って、腰を浮かしたカツヤを座らせ、わたしは強く言った。
「全然、大丈夫。カツヤはまだ話したりないでしょ」
 ここは駅前の居酒屋、わたしの住む寮は駅の反対側だが十五分とかからない。同期のカツヤと一緒に帰れば、明日には職場中の噂だ。
 
「まあ、付きあっているのは確かなんだけどね……」
 甘酸っぱい気持ちを噛み締めながら、わたしは駅の高架をくぐった。

「コツ、コツ」

「ん? 気のせいかな」
 カオルは寮へ帰る道で何回か曲がった時に気が付いた。

「コツ、コツ」

 誰か付いて来ている? まさか……。
 そう思ったカオルの足は自然と早くなった。

「コツ、コツ」
「!」
 後ろの足音も早まった気がした。

 わたしは怖くて振り向くことも出来ず、走りだした。もう、無我夢中だった。自分のヒールの音で後ろの音など聞く余裕もない。
「あっ!」
 寮が見える手前のトンネルの入口でつまずいて転んでしまう。
 バッグから中身が散乱した。
 手が震え、スマホがつかめない……。

 わたしは顔も上げられず震えた。耳だけが鋭敏に音を拾う。

「コツ、コツ」「コツ、コツ」
 影がわたしの近くで止まった……。
 わたしは目をつぶる事しか出来なかった。

「バカ。送るっていただろう」
 カツヤの優しい声が耳に届いて、わたしは声を出して泣いてしまった。
「何度もスマホ鳴らしたんだけど……。てんぱっていたみたいだね」
 そう言って、カツヤはわたしのスマホを手に取る。点滅が繰り返されていた。
「……怖かったの! ホントに……凄く」
 メイクがどうなっているかなんて気にせずに、わたしはカツヤに抱きついた。
 もう、職場でもカミングアウトしてしまおう。構うことは無い、彼が、カツヤが好きなんだもの。

「コツ、コツ」「コツ、コツ」

 彼に抱きしめられた、わたしの耳に再び音が響いた。

「コツ、コツ」「コツ、コツ」

 靴音が聞こえる、段々と近づくように。
 わたしは音のする方に目をこらした。

 トンネルの入口には人の影があった……。

「でもまって、あれじゃ……」
 わたしはその人影の異常さにすぐに気付いて声を失った。
「あっ、あっ」
 わたしの驚きに気が付いたカツヤは、とっさにわたしをトンネルから押し出してその影と向き合う。

 そこでわたしの意識は飛び、気が付けばトンネルからはじき出されていた……。

「カツヤ……」

 トンネルの切れかかった蛍光灯が点滅していた。 
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