グリムの輪舞曲(ロンド)

ふるは ゆう

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第二話 赤ずきん

エピローグ

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 深夜の拘置所、長崎は簡単な事情聴取を受けてからここに入れられた。
「おい! 説明しろ。どうして俺が逮捕されるんだ。あの刑事を呼べ! 俺に納得のいく説明をしてみろ」
 長崎は鉄格子を揺らしながら訴えた。
 当直の看守が面倒臭そうに来て言う。
「お前は公務執行妨害罪。騒いで暴れたので今日はここで一泊する。分かった?」
 そう言って面倒臭そうに戻っていった。

「ちっ! 話にもならないな」
 長崎は諦めて備え付けの硬いベッドに横になった。
「覚えてやがれ、あの刑事……」
 腹が立ってなかなか寝付けない長崎の耳に、しばらくして聞こえる声があった。
「ふっ、ふっ、ふ……」
「へっ、へっ、へぇ……」
 かすかな声がやがて少しずつ大きくなる。
「おい! 看守。うるさいぞ! これじゃあ寝られないだろう」
 頭にきた長崎は当直の看守に文句を言った。
「隣がブツブツ言ってて寝れないじゃあないか! どうにかしろ」
 長崎の大声に看守は面倒臭そうに答えた。
「バカ言ってないで早く寝ろ! 騒がしいのはお前だろ。ここにはお前しか入っていないんだぞ!」
 そう言って戻っていってしまった。そして、二度と戻っては来なかった。

「ふっ、ふっ、ふ……殺したのはお前」
 暗闇の中から、かつて明日香だったモノがメガネを鈍く光らせてそう囁く。

「へっ、へっ、へぇ……そう、お前」
 かつて美咲だったモノも嬉しそうに長い髪を撫でながらそう囁いた。

「お前らは誰だ!」
 長崎は苦しそうに喘ぎながら聞いた。

「グ・リ・ム……」
 辺りから笑い声がこだました。

 翌朝、長崎は遺体として発見される。首を何か細いもので絞められたようだった。
 警察は自殺と断定し処理されることになった。

 ☆ ☆ ☆ 

 陣内と石川は病室の前で話していた。
「石川さん、俺が行くんですか?」
 不安げに陣内はもう一度確認する。
「当たり前だ。何事も経験だ! 行ってこい」
「わかりました」
 渋々と陣内は病室のドアをノックして入っていった。
「お邪魔します!」
 静かに入っていった陣内をヒナタの両親が迎えた。
「刑事さん、本当にありがとうございました。すぐに見つけて下さって……でなければ今頃あの子は……」
 母親は深夜に駆けつけてから一睡も出来ていないようだった。父親に抱きかかえられてまた泣きだしてしまった。
 たまらず、後ろに控えていた石川が言う。
「お母さんも疲れているでしょうから、ゆっくり休んで下さい。もう何も心配は要りませんから」
 石川は母親をソファーに座らせて二人と話を始めたので、陣内はカーテン越しにヒナタに話しかけた。
「ヒナタ、大丈夫か?」
 カーテンの向こうで動く音がして、すぐに慌てたように騒がしくなった。
「ちょっと。ダメよ開けないで! わー、どうしよう……」
 しばらくしてカーテンを少し開けてヒナタが顔を少し出した。
「お見舞い、来てくれたんだね……」
 顔を半分ぐらい隠しながら言った。
「ああ、俺達はこれから東京に帰るんだ。それで様子を見に来た」
「え! もう帰っちゃうの?」
 ヒナタは驚いて顔を全部出した。どうやら寝ぐせがひどく、気にして顔が出せなかったようだ。のぞかせた頭にはところどころ髪の毛が元気に跳ねていた。
「仕事だからな! 俺達の役目は終わったんだ。明日からはまた東京での仕事が待っている」
 あえて、髪の毛のことは触れずに、少しおどけて陣内は言った。
「猫をかぶった狼には騙されるなよ! お嬢ちゃん」
「んー!」
 不満気にヒナタは頬を膨らまして言った。
「分かってます。反省してるんだから!」
「……」
 少し無言になってから。ヒナタは不安げな顔で陣内に聞いた。
「わたしが元気になったら、また会ってくれますか?」

 陣内はにこやかに答える。
「ああ、早く元気になって顔を見せろよ」

 今日は、昨夜の吹雪が嘘のような冬の晴れ間であった。

 ☆ ☆ ☆
 
 帰りの列車の中で、駅弁を食べながら石川は言った。
「結局、陣内お前が一番悪い狼なんじゃあないのか?」
 お茶をすすりながら石川が言う。
「え? 何ですか」
「ガキを手懐けて、大きくなってから食っちまうんだろう。確か、そんな話どこかにあったよな?」
 陣内は駅弁を詰まらせそうになりながら反論した。
「そんなんじゃあないですから! 石川さん、変な事言わないで下さいよ」

「それに、その話は狼じゃあなくて魔女ですよ! 確か……」
 陣内はくだらいない石川の冗談に真剣に付き合って必死に思い出そうとした。
「そう、『ヘンゼルとグレーテル』です!」
 陣内がようやく童話の題名を思い出した頃には、石川の興味はもう違う所に移ってしまっていた。
「まあ、童話なんてどうでも良いか……」
 そう言って石川は美味そうにタバコをくゆらせた。
  
  視線の先には白い山並みが続いていた。
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