グリムの輪舞曲(ロンド)

ふるは ゆう

文字の大きさ
6 / 52
第一話 狼と七匹の子ヤギ

5

しおりを挟む
「そして最後の子ヤギは、柱時計の中」

「おや? いない?」
 どうしてここに居ないのか不思議だとばかり首をひねっている黒フードであったのでしょう。わたしは別の場所で息を殺し聞き耳を立てながら隠れていたんです。
「どこ? 何処に隠れた?」
 そう言いながら辺りを探す黒フードの足音と、どこかの扉を開ける音、それにブツブツとつぶやく独り言だけが部屋に響きました。
 どれだけの時間がたったのでしょう? わたしはいつしか息を殺して隠れながら、眠り込んでしまいました。

 しばらくして懐かしい声で目を覚ましたのです。

 ☆ ☆ ☆

「……だれか? ……」
「……これは、なんてひどい……」
「ゴロくん? ケンイチくん? みんな…… そんな……」
 泣き叫びたい気持ちを抑えて美里先生は子供たちを呼び続けました。

「先生? 本当に先生なの……」
 わたしはまだ信じられず、恐る恐る顔をのぞかせました。
 そこには確かにいつもの美里先生が居たんです。

「先生!」
 わたしは本棚の本の中から飛び出して、思いっきり先生に飛びつきました。

「ユミちゃん! あなたは無事なのね? 怪我はない、何処か痛いところは?」
 心配する美里先生にわたしはただ泣きじゃくる事しか出来ませんでした。
「とにかく、ここから逃げましょう!」
 先生は、わたしの手を強く握って外へと向かいました。
「ダメ! 周りを見ちゃあいけない」
 そう言われて、わたしはなるべく見ないようにして外へ出ました。そして先生の乗ってきた車の助手席にすぐに座ったんです。
 運転席に座った先生は警察に連絡をしようとしたのですが、
「ダメね! ここじゃあ、スマホも通じない……。麓まで行くしかないわね」
 そう言って、車をバックさせようと車を動かしたその時、ちょうど月明かりで二人の姿がはっきりと映しだされたんです。
 わたしは本棚に隠れていたせいで埃だらけ。美里先生は、みんなを介抱しようとして、手や膝が血で汚れていました。
「ごめんなさい、みんなを抱きかかえたから、こんなになっちゃった……」
 寂しそうに美里先生は血で汚れた手や服を示しました。
 その時、初めて、わたしは正面から先生を見て気がついた事がありました。
「先生、何で血が付いているの? それじゃあまるで……」その後の言葉をわたしは飲み込みました。
 ほんの少しの沈黙の後、美里先生が言ったんです。

「そう! ユミちゃんは頭が良いのね。大正解よ!」

 シートベルトを付けていて、すぐには動けないわたしの首を馬乗りになりながら締めて、美里先生は嬉しそうに声色を変えました。

「これはね、他の子を殺した時に付いただよ!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...