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秋 一歌
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【新学期 休みがちなる友人へ】
グランピングからの帰り道、俺は忍と高子の様子が少し気になっていたが、その後、研究室での実験データの不備などが発覚し、慌ただしい夏休み後半になってしまって。俺はその件について何も聞けないでいた。
九月に入って講義も始まり、普段の生活に戻っていく。しかし、以前とは少し違った事があった。
「ん? 今日は忍は?」
学食で高子を見つけた俺は前に座って疑問を口にする。
「今日は自主休講ですって……」
高子は不満げに言ってからうどんをすすった。
「単位とか、大丈夫なの?」
「本人曰く、ご利用は計画的にですって」
「どこのサラ金だ!」
最近、やけにつれない忍に高子も心配しているのだが……。
「でもね、忍、今までは、わたしが一人で寂しくしてるから、忙しくても一緒にいてくれたのかなって……」
高子はつぶやくように俺に話す。
(俺が居ればもう安心だって思った?)
あいつがそんな難しくなんて考えてはいないと俺は思ったが、黙って高子の話を聞いた。
「隣、座って良いか?」
聞きなれた声が珍しい事を言う。
「どうした、業、他人行儀な」
驚いて聞き返したが、その理由はヤツの隣にあった。
「ゴメン、京極くん。わたしも一緒だけどかまわない?」
業の隣から顔をのぞかせたのは、同じクラスの女子だったのだ。
席に着くと、業は俺たちにその子の紹介を始める。
「定は知っているよな。同じクラスの清原渚だ」
「清原渚です。京極くんとは、実験で同じ班だったから知ってるよね」
そう言って渚は俺の向かいの高子に笑いかける。
「でも、彼女さんとは初めてかな?」
「……彼女?」
「そう、違うの?」
何が違うのかと渚は不思議がる。一瞬、俺は出かけた言葉を飲み込んだ。
「定家くんの友人Aの北家高子です」
向かいの高子はそう言って引きつった笑顔で答え、俺から視線を外す。
「定、ダメ、ダメだな!」
隣に座った業は大きくため息をつく。
「君も苦労するね……」
高子の隣に座って、渚も困った顔をした。
忍がいない隙間が、時間と共に少しずつ埋まっていく。高子との時間を楽しいと感じながらも、同時に忍のいない今に焦燥感を覚えずにはいられなかった。
「良かったじゃん。高子とラブラブでしょ。何が不満なの?」
不機嫌そうに忍は俺のかけた電話に出て言う。
「わたしは、今、結構忙しいの。ハッキリ決まったら教えるから、それまで待ってて」
取り付く島もなく切られた。まったく、アイツときたら……まあ、声だけは元気そうだったから良しとするか。
それから俺は、週に一、二回、忍に連絡を取ることが習慣になっていった。
【新学期 休みがちなる友人へ かける言葉に残りし不安】
グランピングからの帰り道、俺は忍と高子の様子が少し気になっていたが、その後、研究室での実験データの不備などが発覚し、慌ただしい夏休み後半になってしまって。俺はその件について何も聞けないでいた。
九月に入って講義も始まり、普段の生活に戻っていく。しかし、以前とは少し違った事があった。
「ん? 今日は忍は?」
学食で高子を見つけた俺は前に座って疑問を口にする。
「今日は自主休講ですって……」
高子は不満げに言ってからうどんをすすった。
「単位とか、大丈夫なの?」
「本人曰く、ご利用は計画的にですって」
「どこのサラ金だ!」
最近、やけにつれない忍に高子も心配しているのだが……。
「でもね、忍、今までは、わたしが一人で寂しくしてるから、忙しくても一緒にいてくれたのかなって……」
高子はつぶやくように俺に話す。
(俺が居ればもう安心だって思った?)
あいつがそんな難しくなんて考えてはいないと俺は思ったが、黙って高子の話を聞いた。
「隣、座って良いか?」
聞きなれた声が珍しい事を言う。
「どうした、業、他人行儀な」
驚いて聞き返したが、その理由はヤツの隣にあった。
「ゴメン、京極くん。わたしも一緒だけどかまわない?」
業の隣から顔をのぞかせたのは、同じクラスの女子だったのだ。
席に着くと、業は俺たちにその子の紹介を始める。
「定は知っているよな。同じクラスの清原渚だ」
「清原渚です。京極くんとは、実験で同じ班だったから知ってるよね」
そう言って渚は俺の向かいの高子に笑いかける。
「でも、彼女さんとは初めてかな?」
「……彼女?」
「そう、違うの?」
何が違うのかと渚は不思議がる。一瞬、俺は出かけた言葉を飲み込んだ。
「定家くんの友人Aの北家高子です」
向かいの高子はそう言って引きつった笑顔で答え、俺から視線を外す。
「定、ダメ、ダメだな!」
隣に座った業は大きくため息をつく。
「君も苦労するね……」
高子の隣に座って、渚も困った顔をした。
忍がいない隙間が、時間と共に少しずつ埋まっていく。高子との時間を楽しいと感じながらも、同時に忍のいない今に焦燥感を覚えずにはいられなかった。
「良かったじゃん。高子とラブラブでしょ。何が不満なの?」
不機嫌そうに忍は俺のかけた電話に出て言う。
「わたしは、今、結構忙しいの。ハッキリ決まったら教えるから、それまで待ってて」
取り付く島もなく切られた。まったく、アイツときたら……まあ、声だけは元気そうだったから良しとするか。
それから俺は、週に一、二回、忍に連絡を取ることが習慣になっていった。
【新学期 休みがちなる友人へ かける言葉に残りし不安】
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