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春 三歌
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【水中を 優雅に泳ぐ魚たち】
「定家くん! ひましてるんだけど……ゴールデンウイークどっか、連れって行ってくれない? ひますぎて、わたし死にそうだよ」
ゴールデンウイークに入ってすぐ俺のスマホに忍からかかってきた。
(いつから君付けになった? 最近やけに馴れ馴れしいぞこいつ!)
「お前、なんか馴れ馴れしくない?」
「えっ! でも、『定家さん』じゃあ、付き合ってるみたいじゃん! それで良いの?」
なんか騙されてない俺?
「とにかくどこか! ひまで死にそうだよ! 」
「俺が連れて行くのは決定事項?」
「YES!」
「古典文学の奴が横文字かよ! 第一、ひまで死んだ奴はいない」
「じゃあ、わたしが最初だね! 人類初ってやつ、ギネス載るかな? その時は、それを知っていて救えなかった男として『定家くん』君の名前も載るんだよ」
「あほか! そしたら俺がお前の墓に書いてやるよ。『人類最初にひますぎて死んだアホ』って……スプレー缶でな!」
「それ、落書きじゃん!」
こんなバカバカしい会話も最近楽しいと感じている自分がいた。
結局、俺たちは都心の水族館に行くことにして最寄りの駅で待ち合わせる。
「で! 何でお前と二人なの?」
待ち合わせ場所に来たのは忍だけだった。
「高子はゴールデンウイーク実家の群馬で、業平くんはパスだって」
「お前、仕組んだな!」
「てへ!」
完全なる確信犯だった。
都心の水族館なんて、俺は初めてかもしれない。昔、子供の頃に行った水族館とは雲泥の差だった。
「本当にここは水族館?」
エントランスの映像と照明で彩られた空間を前に俺は立ち尽くした。
「定家くん。恥ずかしいから、さっさと入るよ」
「……おっ、おぅ……」
忍に手を引かれ中に入る。
「定家くん、情けない顔で口開けてたよ……」
そう言いながら、忍は横を向いて楽しそうに笑っている。
その後も、デジタルアートと融合したアトラクションや幻想的なクラゲの漂う空間、魚たちが泳ぐ水槽のトンネルなど驚くものばかりだった。
「へ、へっ。定家くん、大口開けてばっかりだね……」
隣で忍は嬉しそうに俺の顔を覗き込む。俺は忍以上に興奮していたかもしれない。
なんだかんだで、十分楽しめた水族館だったが、最後にイルカのショーを見たのが失敗だった……。
「バカヤロー! 聞いてないぞ!」
「あははは……」
近くで見ようと言われて、最前列に陣取った俺たちは、イルカとシャチの派手な水しぶきを受けて、びしょびしょになってしまった。
「お前、風邪引くぞ!」
シャツが透けそうだったので、慌ててジャケットを掛ける。
「ありがと!」
忍は素直に羽織ってベンチに座った。温かい飲み物を飲みながら今日の出来事を話す、何だろうこの感じ。
夕飯を一緒に食べて、下らない話で盛り上がって、今日一日が楽しいと感じる。
この感じ?
忍だから?
他の子でも同じ?
高子だったら?
そんな事をぐるぐる考えながら、俺は忍の乗った電車を見送った。
「定家くん今日は楽しかったよ、ありがとね! 今度はお泊りセット持ってくるね」
すぐに送って来たメールに、俺はどう返すか悩んでしまった。
【水中を優雅に泳ぐ魚たち 楽し思いは我も同じか】
「定家くん! ひましてるんだけど……ゴールデンウイークどっか、連れって行ってくれない? ひますぎて、わたし死にそうだよ」
ゴールデンウイークに入ってすぐ俺のスマホに忍からかかってきた。
(いつから君付けになった? 最近やけに馴れ馴れしいぞこいつ!)
「お前、なんか馴れ馴れしくない?」
「えっ! でも、『定家さん』じゃあ、付き合ってるみたいじゃん! それで良いの?」
なんか騙されてない俺?
「とにかくどこか! ひまで死にそうだよ! 」
「俺が連れて行くのは決定事項?」
「YES!」
「古典文学の奴が横文字かよ! 第一、ひまで死んだ奴はいない」
「じゃあ、わたしが最初だね! 人類初ってやつ、ギネス載るかな? その時は、それを知っていて救えなかった男として『定家くん』君の名前も載るんだよ」
「あほか! そしたら俺がお前の墓に書いてやるよ。『人類最初にひますぎて死んだアホ』って……スプレー缶でな!」
「それ、落書きじゃん!」
こんなバカバカしい会話も最近楽しいと感じている自分がいた。
結局、俺たちは都心の水族館に行くことにして最寄りの駅で待ち合わせる。
「で! 何でお前と二人なの?」
待ち合わせ場所に来たのは忍だけだった。
「高子はゴールデンウイーク実家の群馬で、業平くんはパスだって」
「お前、仕組んだな!」
「てへ!」
完全なる確信犯だった。
都心の水族館なんて、俺は初めてかもしれない。昔、子供の頃に行った水族館とは雲泥の差だった。
「本当にここは水族館?」
エントランスの映像と照明で彩られた空間を前に俺は立ち尽くした。
「定家くん。恥ずかしいから、さっさと入るよ」
「……おっ、おぅ……」
忍に手を引かれ中に入る。
「定家くん、情けない顔で口開けてたよ……」
そう言いながら、忍は横を向いて楽しそうに笑っている。
その後も、デジタルアートと融合したアトラクションや幻想的なクラゲの漂う空間、魚たちが泳ぐ水槽のトンネルなど驚くものばかりだった。
「へ、へっ。定家くん、大口開けてばっかりだね……」
隣で忍は嬉しそうに俺の顔を覗き込む。俺は忍以上に興奮していたかもしれない。
なんだかんだで、十分楽しめた水族館だったが、最後にイルカのショーを見たのが失敗だった……。
「バカヤロー! 聞いてないぞ!」
「あははは……」
近くで見ようと言われて、最前列に陣取った俺たちは、イルカとシャチの派手な水しぶきを受けて、びしょびしょになってしまった。
「お前、風邪引くぞ!」
シャツが透けそうだったので、慌ててジャケットを掛ける。
「ありがと!」
忍は素直に羽織ってベンチに座った。温かい飲み物を飲みながら今日の出来事を話す、何だろうこの感じ。
夕飯を一緒に食べて、下らない話で盛り上がって、今日一日が楽しいと感じる。
この感じ?
忍だから?
他の子でも同じ?
高子だったら?
そんな事をぐるぐる考えながら、俺は忍の乗った電車を見送った。
「定家くん今日は楽しかったよ、ありがとね! 今度はお泊りセット持ってくるね」
すぐに送って来たメールに、俺はどう返すか悩んでしまった。
【水中を優雅に泳ぐ魚たち 楽し思いは我も同じか】
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