上 下
24 / 25
おまけ

最果ての修道院①

しおりを挟む
 パナピーアが『最果ての修道院』に送られて一年。
 規律も環境も厳しいこの地で彼女もようやく生活に慣れ始めていた。

 ゲームの記憶はあってもそれ以外の前世を覚えていない彼女だが、この世界ではずっと一般市民として生きてきたおかげで、ここの生活はそれほど苦ではない。

 ただ、この修道院に来て、とんでもない事実を知る。
 それは……。

「パナピーアはまだマシだったのよ。わたくしなんて散々色んな事やって、もう取り返しが付かなくなった後に覚醒って……最悪よ?」

 黒髪の妖艶な美女、元公爵令嬢のアクアが言えば。

「それも災難だったけど、私みたいに子供の時に思い出したのに、何の世界かまったく分からなかったってのも困りものだったわ。おかげで誰を攻略すれば良いのかすら分からなかったんだから……」

 ラベンダー色の髪にワインレッドの瞳をしたスレンダー美少女、元男爵令嬢のメロディーがしかめっ面で肩をすくめた。

「でも入学式の一日だけでここまで送られてきた子は、あなたが初めてだけどね。ふふふ」

 そう言って笑うのは、煌めく金髪に金の瞳で妖精のような美少女フィリンティア。
 彼女は元聖女なんだそうだ。

 もう分かると思うが、この世界は多くの乙女ゲームに出てくる国が一つの大陸にひしめき合う世界らしい。
 そこでさまざまなゲームの内容に沿った歴史が繰り広げられていく。

「でも、パナピーアはまだ大した事やってなくて、しかも未遂でしょう? なぜこんな所に入れられたのかしらね?」

 好奇心旺盛なメロディーが嬉々として尋ねてきた。
 そんなのはそれこそパナピーアのほうが知りたい話だ。
 そこへ呆れ顔のフィリンティアが口を出す。

「だってあなた『パナピーア』なんでしょう? なら仕方無いんじゃない?」
「どういう事? あたしの事何か知ってるの?」
「え? あなた本当に『パナピーア』の事知らないの? わたしてっきり知っていると思ってた……」

 パナピーアとメロディーがきょとんとする中、フィリンティアは驚き、アクアは目を見張って話に混ざって来た。

「えーと、あなたがお亡くなりになった時、もしかして『パナピーアの学園編』しかリリースされて無かったのではなくて?」
「ままま、まさか⁉︎ 続編があるとか?」
「あれは結構人気出た作品だったから、一年後にはパートIIが出たのよ?」

 当たり前のようにフィリンティアが言う。

「そんなのあたし知らないわよ⁉︎」
「あぁ~。そうでしたのね。わたくしあなたはその続編のために、ここで品行方正に暮らしているのだと、ずーっとそう思っていましたの」
「わたしもそう思ってた」

 アクアとフィリンティアにそう言われ、パナピーアは金魚のように口をパクパクしている。
 それを見てメロディーは我慢できずに自分で質問する事にした。

「ねぇ、パナピーアの続編て? 今度は何なの? またヒロイン? どこの国? 攻略対象者は?」
「待ってくださいな。そんなに慌てなくてもお話いたしますわよ?」

 そう言って彼女が話したのは、隣国の第二王子が魔物に襲われ深傷ふかでを負い、国境付近まで山菜取りに行ったパナピーアが聖魔法で彼を助ける物語だった。
 しかも乙女ゲームモノに在りがちな恋愛を楽しむだけではなく、戦闘して怪我したり、事故や暗殺などトラブルてんこ盛り。
 波瀾万丈なストーリーを経てやっとエンティングを迎えるらしい。

「パナピーア、良かったじゃない! 私、断然あなたを応援するわ!」

 メロディーは瞳にハートのハイライトを乗せてはしゃいでいる。

「え? あたし、そんなのやるの⁉︎ えー。あたし悪役令嬢がアデリアーナで、これはゲームの世界間違いないって思って、調子に乗って色々やってここに来たじゃない? で、なんか馬鹿なことしちゃったなぁ~って思ってたから……。ぜんぜん嬉しくないんだけど……」

 パナピーアはこの修道院に来て初めて自分の素直な気持ちを打ち明けた。
 するとほかの三人も思うところがあったらしい。

 何となく罰が悪そうにお互いを見合って、やがてアクアがまた口を開く。

「そうでしたのね……。でもあなたがここに送られてくる原因となったゲーム、あれも学園編のあとの四作目でしたのよ? 気が付いていなかったとは思いませんでしたわ」
「え? 四作目⁉︎ そんなの知らないわ。だからぜんぜんゲームの通りにいかなかったのね⁉︎」

 パナピーアは思わず立ち上がって愕然とする。
 そしてまぁまぁと宥められる。

「四作目は異例のゲームで、攻略対象者がバットエンド回避するのがウリだったのよ」
「そうでしたわね。ゲームのスタートも一年早く始まって、最速で入学式。バッドエンドなら三年間でしたかしら?」
「そうそう! 何とかして攻略されないように逃げ回ったり、罠を仕掛けたり、他の攻略対象者に誘導したりするのよね? わたし、あれが一番楽しかったからすっごい覚えてるわ」

 アクアは気を使って話しているらしいが、フィリンティアは当時を思い出したのか、瞳が輝いている。

「一作目と違う事が多かったと思うのですが……本当に気が付きませんでしたの?」
「そそそ、そんなぁ~。じゃあ、あたしがやった事って……」

 だからバッドエンドなのに、行き先が最果ての修道院ここなのだと教えられ、ガックリと肩を落としたパナピーア。
 すると三人が、もう一度チャンスが有るのだから大丈夫と慰めてくれる。
 現金なもので、パナピーアはちょっぴり元気が出た。

「そうよね。あたし今度こそ頑張って、ゲームが始まる前に回避しちゃおうかな?」
「「…………」」

 妙ないた。
 気まずい空気の中、パナピーアとメロディーが置いてけぼりとなるのだった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢と聖女の王子争いを横目に見ていたクズ令嬢ですが、王子殿下がなぜか私を婚約者にご指名になりました。

柴野
恋愛
私は見目麗しくもなければ成績もよろしくないクズ令嬢、ダスティー。 家は没落寸前で、もうすぐ爵位を返上して平民になるはずでした。 それでも教養をつけておこうと思い、通っていた学園では今、公爵令嬢と聖女の元平民の少女が『王子争い』をしていました。 それを「馬鹿だな」と思いつつ横目で見ていた私。だって私には無縁ですもんね。 なのに王子は公爵令嬢と婚約破棄し、しかも聖女のこともガン無視して、なぜかクズ令嬢の私をご指名に!? でも私は正直殿下には興味ないし、嫉妬とかがめちゃくちゃ酷いので諦めてほしいのですけれども、なんだか溺愛されてます! どうしたらいいんですかー! ※全二十話。 ※小説家になろう、ハーメルンにて投稿しております。

王子、侍女となって妃を選ぶ

夏笆(なつは)
恋愛
ジャンル変更しました。 ラングゥエ王国唯一の王子であるシリルは、働くことが大嫌いで、王子として課される仕事は側近任せ、やがて迎える妃も働けと言わない女がいいと思っている体たらくぶり。 そんなシリルに、ある日母である王妃は、候補のなかから自分自身で妃を選んでいい、という信じられない提案をしてくる。 一生怠けていたい王子は、自分と同じ意識を持つ伯爵令嬢アリス ハッカーを選ぼうとするも、母王妃に条件を出される。 それは、母王妃の魔法によって侍女と化し、それぞれの妃候補の元へ行き、彼女らの本質を見極める、というものだった。 問答無用で美少女化させられる王子シリル。 更に、母王妃は、彼女らがシリルを騙している、と言うのだが、その真相とは一体。 本編完結済。 小説家になろうにも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。 社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。 対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。 それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。 けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。 …ある大事件が起きるまで。 姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。 両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。 姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。 しかしその少女は噂のような悪女ではなく… *** タイトルを変更しました。 指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...