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終幕

78.ゴールディー準男爵邸②〈ブリトニーside〉

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〈ブリトニーside〉



 そして翌朝目が覚めて……。



 見慣れぬ天蓋てんがい、見覚えのない家具。

 あぁ、そうだった。

 ここはゴールディー準男爵のお屋敷だったっけ。

 そう思って起き上がり呼び鈴を探した。

 でもどこにも見つからない。


 おかしいわね。



 仕方なくベッドから降りて部屋の扉を開けようとドアノブを回す。



「ん?」



 回らない?

 そんなバカな……。



 ガチャガチャ、ガチャガチャ……。



 何度やっても押しても引いても開かない。

 試しに横に引っぱってもダメだった。



 チッ、やられたわ……。



「ちょっと、誰か!」

「少々お待ちください」



 ドアの向こうから冷静な声で即答され、さすがに驚き固まった。



「そこに居るの? ねぇ、ドアが開かないんだけど? どうなってるの?」

「すぐに若旦那様がお見えになりますから、そのままお待ちください」

「え? 若旦那様? ケビンさんの事?」



 もう必要な事は言ったとばかり、一切の返事が無くなった。

 ドンドンと叩いても、声をかけてもダメ。

 こうなったら体当たりかしらと、勢いを付けて走り出そうとしたら……。



「やぁ、もう起きたんだ」



 ドアの隣りの壁に掛けられた絵が消え、ケビンが額の中から顔を出した。



「あなた、こんなところに私を閉じ込めて、どういうつもり!?」

「こんな所とは心外な……。世界中から色々集めさせて、公爵家にも負けない部屋を用意したつもりだったんですけど。お気に召しませんでしたか?」

「そういう事じゃないでしょう? なぜ閉じ込めたの? 私、暴れたり逃げたりしなかったじゃない」



 せっかく大人しくしていたっていうのに、失礼にもほどがあるわ。

 不愉快さを全面に押し出して文句を言ったのだけど、ケビンにはちっとも響いてない。

 彼はニヤニヤしながら話を続けてきた。



「そうでしたね。ですから実に助かりました。暴れると使用人が怪我しますし、何よりあなたに最初から傷があると、父が嫌がりますからね」

「えっ……」

「お父上からお聞きになりませんでしたか? 父のこだわりにも困ったものでね。若い娘さんなら何でもという訳ではないのですよ」



 さげすみを含んだ言い方にカチンとくるが、同時に得体の知れない怖さから背筋を震えが走る。



「年齢の幅も、容姿も、趣味がうるさくて……。幸いあなたは父の好みド真ん中です。貴族の娘というのもポイントが高い」

「ひ、人を物みたいに言わないで!」

「おや? あなたは高い代償と引き換えに嫁に来たのですから、大して変わりはないと思いますよ? だからこそ、逃げられると困ります」

「に、逃げる? 私そんな事しないわ。本当よ」



 頭の隅で考えていた事を言い当てられ、思わず焦る。

 声が震えないようにするだけでも必死だった。



「そうですか。まぁ、どっちでも構いません」

「どういう事?」

「今夜には父もこちらに来ますから」

「ゴールディー準男爵が? 来るの?」



 そんなに早くなくても良かったのに……。



「はい。ですから今夜まで大人しくここにいて下さい」

「え?」

「今夜、その部屋で父と過ごしてもらいます」

「は?」

「運が良ければ、明日には出られるかもしれませんよ?」

「どういう……?」

「ですから。今夜が『初夜』だと言ってるんですが、分かります?」

「えぇ~!」



 嫌よ!

 なんで私が、ハゲ親父と結婚しなけりゃならないのよ~!

 

「何をそんなに驚いているんですか?」

「だって私たち、夫婦じゃないのよ?」

「もう我が家に来られたのですから、時間の問題です」

「で、でも……初夜って結婚式してから迎えるものでしょう?」

「あぁ、お貴族様はそうらしいですね」

「そうなのよ!」



 あぁ、やっと分かってくれたのね。

 安心したわ。

 このまま結婚式をする前に油断させて、何とか自力で逃げなくちゃ……。



「ですが、平民は違います」

「はい!?」

「本人たちが結婚の誓約さえすれば、普通にその日の夜が初夜ですよ?」

「えぇっ! そんな……嘘でしょ?」

「嘘なんて言いませんよ。事実です」



 あまりの事に目眩がする。

 準男爵とは言っても一代限り。

 肩書きだけで中身は平民なんだ!

 あぁ、こんな事でショックを受けるなんて、私もやっぱり貴族の令嬢だったんだわ。

 こんな事で確認できても嬉しくないけど……。



「あ! そうよ。結婚誓約書!」

「誓約書がどうかしましたか?」

「書いてないわ! サインなんかしてないもの!」



 希望の光が見えた!

 私は勝ち誇ったように叫んだ。

 すると、ケビンがスルスルと一枚の丸めた紙を広げた。

 何だろう?

 よく見ようと近寄ってみる。



「コレですよね? 貴女あなたと同時に届きました」

「はぁ!?」

「未成年は親が書くんです。お父上にサインもらってますから、大丈夫ですよ」

「え、え、えぇー!」



 私はその場にヘナヘナと座り込んだ。

 もう顔を上げる気力も無い。



「お分かり頂けたようですね。では食事などはこの窓から差し入れ致します。父が来るまでは本当にドアは開けませんから、よろしくお願いします」



 その日、本当に夜まで部屋の扉が開くことは無かった。

 そして次の朝、私はゴールディー準男爵夫人として新たな生活を始めることになったのだった。



 * * * * *



 次はいよいよ最終話。

 79話 エピローグ〈ケビンside〉 です。

 この話の半年後、舞台は引き続きゴールディー準男爵邸です。

 よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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