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舞台裏
71.上には上が……〈第三者side〉
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〈第三者side〉
今年も剣術大会の季節がやってきた。
騎士科の生徒はもちろん、一般の騎士、近衛騎士と、王都近辺の騎士たちが集まる夏の一大イベントだった。
学園生は校内で選抜大会を勝ち抜いて各校四名づつしか出られないから、この大会に出られるだけでも名誉な事で、出場者は何処かしらの騎士団からスカウトを受ける事も多い。
しかもこの大会の騎士の部の優勝者、準優勝者は、それだけで騎士伯が与えられる。
そして一般の部でも上位三名は騎士の部に、学生の部の上位三名は一般の部に参加資格がある。
だから王都近辺の治安が良い地域の騎士や、戦いを生業とする者たちにとって、この大会はまたと無い叙爵の機会なのだ。
もちろん学生が騎士の部まで上り詰め、騎士伯を賜るのは現実的では無いが、絶対に無いとはいえない。
そしてそこまで目標を高くしなくても、学生の部で良い成績を残し強い騎士団に入ることができれば、それだけ叙爵の可能性は上がる。
だからブラッドリーもなるべく上に行けるように頑張ったのだ。
それなのに……。
ブラッドリーは結局、学生の部で三位、一般の部でもベスト・エイトまでしかいけなかった。
本来は素晴らしい成績ではあるが、騎士の部まで行きたいと思っていた事と、デニスより好成績があげられなかった。
それがブラッドリーは悔しかった。
今回の結果は、散々迷ってやっと絶対諦めたくないものを見付けた彼には苦い経験となったようだ。
そして今や、ステファニーの婚約者の座を半分以上落っこち掛けているデニスを退け、彼女に誘いかける男たちが後を絶たない。
「なぁ、もうそろそろ俺の友だちだって言って、正式に紹介するくらい良いんじゃないか?」
「そうだよ。一緒に昼メシ食うぐらいなら、グイドとメイシーが居るんだし、大丈夫だろ?」
そう声を掛けるが、ブラッドリーは中々『うん』とは言わない。
これはどうしたものかと様子を見るうちに時は経つ。
「グイド、ちょっと……」
ある日珍しく、メイシーがグイドを呼び出した。
「ねぇグイド? デニス・アンバーのことで何か私に隠している事なぁい?」
「デニスの事? 俺たちはヤツとあんまり接点無いからなぁ」
しれっととぼけたグイドだが、メイシーはそんな事では騙されない。
その時は「ふーん」と流したが、その日の別れ際……。
「最近変な男子が話しかけてきて困るのよね」
「何!? メイシーに話しかけるのか!?」
「うーん、多分ステファニー狙いなんだけど、ついでみたいに声かけられる事もあるのよ?」
「へ~ぇ。身の程知らずがまだ居たんだ……」
焦っていたのは何処へやら。
不快そうに冷たく呟いた。
そんなグイドに恐れる事もなく、メイシーはかわいらしく彼の顔を下から仰ぎ見る。
「それ、デニスとブリトニーとかいう子の事と関係あるの?」
「うっ……」
「ねぇ? 二人が親密だって噂、あれは本当なの?」
「……」
「返事して……グイド?」
うるっとした琥珀の猫目で見詰められ、グイドは一瞬狼狽えた。
「グイドは何でも知ってるでしょう?」
「いや、何でもは……」
「グイドの言う事なら信用できるわ」
「まぁ、そうかなぁ……」
「だからちゃんと教えてくれるって思ったんだけど……違った?」
「くっ……」
ブラッドリー、ごめん……。
彼が陥落するのにそれほど時間は掛からなかった。
メイシーは見事作戦を遂行し思惑通りの戦果をあげ、意気揚々と女子寮へ帰還を果たしたのだった。
今年も剣術大会の季節がやってきた。
騎士科の生徒はもちろん、一般の騎士、近衛騎士と、王都近辺の騎士たちが集まる夏の一大イベントだった。
学園生は校内で選抜大会を勝ち抜いて各校四名づつしか出られないから、この大会に出られるだけでも名誉な事で、出場者は何処かしらの騎士団からスカウトを受ける事も多い。
しかもこの大会の騎士の部の優勝者、準優勝者は、それだけで騎士伯が与えられる。
そして一般の部でも上位三名は騎士の部に、学生の部の上位三名は一般の部に参加資格がある。
だから王都近辺の治安が良い地域の騎士や、戦いを生業とする者たちにとって、この大会はまたと無い叙爵の機会なのだ。
もちろん学生が騎士の部まで上り詰め、騎士伯を賜るのは現実的では無いが、絶対に無いとはいえない。
そしてそこまで目標を高くしなくても、学生の部で良い成績を残し強い騎士団に入ることができれば、それだけ叙爵の可能性は上がる。
だからブラッドリーもなるべく上に行けるように頑張ったのだ。
それなのに……。
ブラッドリーは結局、学生の部で三位、一般の部でもベスト・エイトまでしかいけなかった。
本来は素晴らしい成績ではあるが、騎士の部まで行きたいと思っていた事と、デニスより好成績があげられなかった。
それがブラッドリーは悔しかった。
今回の結果は、散々迷ってやっと絶対諦めたくないものを見付けた彼には苦い経験となったようだ。
そして今や、ステファニーの婚約者の座を半分以上落っこち掛けているデニスを退け、彼女に誘いかける男たちが後を絶たない。
「なぁ、もうそろそろ俺の友だちだって言って、正式に紹介するくらい良いんじゃないか?」
「そうだよ。一緒に昼メシ食うぐらいなら、グイドとメイシーが居るんだし、大丈夫だろ?」
そう声を掛けるが、ブラッドリーは中々『うん』とは言わない。
これはどうしたものかと様子を見るうちに時は経つ。
「グイド、ちょっと……」
ある日珍しく、メイシーがグイドを呼び出した。
「ねぇグイド? デニス・アンバーのことで何か私に隠している事なぁい?」
「デニスの事? 俺たちはヤツとあんまり接点無いからなぁ」
しれっととぼけたグイドだが、メイシーはそんな事では騙されない。
その時は「ふーん」と流したが、その日の別れ際……。
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「何!? メイシーに話しかけるのか!?」
「うーん、多分ステファニー狙いなんだけど、ついでみたいに声かけられる事もあるのよ?」
「へ~ぇ。身の程知らずがまだ居たんだ……」
焦っていたのは何処へやら。
不快そうに冷たく呟いた。
そんなグイドに恐れる事もなく、メイシーはかわいらしく彼の顔を下から仰ぎ見る。
「それ、デニスとブリトニーとかいう子の事と関係あるの?」
「うっ……」
「ねぇ? 二人が親密だって噂、あれは本当なの?」
「……」
「返事して……グイド?」
うるっとした琥珀の猫目で見詰められ、グイドは一瞬狼狽えた。
「グイドは何でも知ってるでしょう?」
「いや、何でもは……」
「グイドの言う事なら信用できるわ」
「まぁ、そうかなぁ……」
「だからちゃんと教えてくれるって思ったんだけど……違った?」
「くっ……」
ブラッドリー、ごめん……。
彼が陥落するのにそれほど時間は掛からなかった。
メイシーは見事作戦を遂行し思惑通りの戦果をあげ、意気揚々と女子寮へ帰還を果たしたのだった。
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