上 下
71 / 79
舞台裏

71.上には上が……〈第三者side〉

しおりを挟む
〈第三者side〉



 今年も剣術大会の季節がやってきた。

 騎士科の生徒はもちろん、一般の騎士、近衛騎士と、王都近辺の騎士たちが集まる夏の一大イベントだった。

 学園生は校内で選抜大会を勝ち抜いて各校四名づつしか出られないから、この大会に出られるだけでも名誉な事で、出場者は何処かしらの騎士団からスカウトを受ける事も多い。

 しかもこの大会の騎士の部の優勝者、準優勝者は、それだけで騎士伯が与えられる。

 そして一般の部でも上位三名は騎士の部に、学生の部の上位三名は一般の部に参加資格がある。

 だから王都近辺の治安が良い地域の騎士や、戦いを生業なりわいとする者たちにとって、この大会はまたと無い叙爵じょしゃくの機会なのだ。

 もちろん学生が騎士の部まで上り詰め、騎士伯を賜るのは現実的では無いが、絶対に無いとはいえない。

 そしてそこまで目標を高くしなくても、学生の部で良い成績を残し強い騎士団に入ることができれば、それだけ叙爵じょしゃくの可能性は上がる。

 だからブラッドリーもなるべく上に行けるように頑張ったのだ。



 それなのに……。



 ブラッドリーは結局、学生の部で三位、一般の部でもベスト・エイトまでしかいけなかった。

 本来は素晴らしい成績ではあるが、騎士の部まで行きたいと思っていた事と、デニスより好成績があげられなかった。

 それがブラッドリーは悔しかった。

 今回の結果は、散々迷ってやっと絶対諦めたくないものを見付けた彼には苦い経験となったようだ。

 そして今や、ステファニーの婚約者の座を半分以上落っこち掛けているデニスを退しりぞけ、彼女に誘いかける男たちが後を絶たない。



「なぁ、もうそろそろ俺の友だちだって言って、正式に紹介するくらい良いんじゃないか?」

「そうだよ。一緒に昼メシ食うぐらいなら、グイドとメイシーが居るんだし、大丈夫だろ?」



 そう声を掛けるが、ブラッドリーは中々『うん』とは言わない。

 これはどうしたものかと様子を見るうちに時は経つ。



「グイド、ちょっと……」



 ある日珍しく、メイシーがグイドを呼び出した。



「ねぇグイド? デニス・アンバーのことで何か私に隠している事なぁい?」

「デニスの事? 俺たちはヤツとあんまり接点無いからなぁ」



 しれっととぼけたグイドだが、メイシーはそんな事では騙されない。

 その時は「ふーん」と流したが、その日の別れ際……。



「最近変な男子が話しかけてきて困るのよね」

「何!? メイシーに話しかけるのか!?」

「うーん、多分ステファニー狙いなんだけど、ついでみたいに声かけられる事もあるのよ?」

「へ~ぇ。身の程知らずがまだ居たんだ……」



 焦っていたのは何処へやら。

 不快そうに冷たく呟いた。

 そんなグイドに恐れる事もなく、メイシーはかわいらしく彼の顔を下から仰ぎ見る。



「それ、デニスとブリトニーとかいう子の事と関係あるの?」

「うっ……」

「ねぇ? 二人が親密だって噂、あれは本当なの?」

「……」

「返事して……グイド?」



 うるっとした琥珀アンバーの猫目で見詰められ、グイドは一瞬狼狽うろたえた。



「グイドは何でも知ってるでしょう?」

「いや、何でもは……」

「グイドの言う事なら信用できるわ」

「まぁ、そうかなぁ……」

「だからちゃんと教えてくれるって思ったんだけど……違った?」

「くっ……」



 ブラッドリー、ごめん……。



 彼が陥落するのにそれほど時間は掛からなかった。

 メイシーは見事作戦を遂行し思惑通りの戦果をあげ、意気揚々と女子寮へ帰還を果たしたのだった。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら

黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。 最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。 けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。 そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。 極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。 それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。 辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの? 戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる? ※曖昧設定。 ※別サイトにも掲載。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...