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舞台裏

62.進み行く道④〈ブラッドリーside〉

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〈ブラッドリーside〉



 サミュエルと俺の違いは、俺が長男であいつは五男だってことだ。

 サミュエルは子爵家の五男だから爵位を継げない。

 俺の場合、騎士伯は一代限りだから爵位を継げない。



 だけど家や財産は長男の俺が引き継ぐ。



 そうなると、俺は無理に手柄を焦らなくても、地道に騎士団で仕事をしていれば、よほどのポカがない限り年功序列でそのうち騎士伯になれる。

 最終的に俺は真面目にやってたら、普通に両方手に入るのだ。

 でもホップ子爵家の五男ともなると、サミュエルが家から分け与えられるものは結婚資金が良いとこで、あとは無いに等しい。

 精々がこじんまりした一軒家を買えるくらいで、使用人を住み込みで雇える余裕は無いかもしれない。

 生まれた順番が遅いだけで、えらい違いが出る。

 騎士伯の息子の俺と、子爵家の息子のサミュエルに対する態度に、周囲から不自然な違いがあるのはそのためだった。

 要するに、サミュエルの家の方が格上なのに、実際には俺の方が優遇されてしまう。



 表向きはそんな事許されないから、だからこそさり気なく、それはもう些細ささいなところで……。



 例えば二つに割ったお菓子。

 わずかに大きいほうが俺に渡される。



 汚れた服を侍女が払ってくれる。

 二人のうち、大抵の場合俺が先に綺麗にしてもらえた。

 

 ハッキリ言われなくとも、俺たちはそれを肌で感じ取って生きてきたんだ。



「俺は……」



 頭では分かっている。

 冒険なんかしなくても普通に暮らせば良い。

 安全で安定した暮らしが約束されているのに、それを捨てるなんてのは馬鹿だ。

 でも、サミュエルみたいに好きに生きて、今後の選択次第では損も得も自分次第でどうとでも変わる、いや変えられるようになる。

 自分の才覚を試せるのが羨ましいと思う、そんな自分が確かに存在していると自覚していた。



 黙り込んでしまった俺に痺れを切らせたグイドが、わかり易く俺の顔を覗き込んできた。



「ステファニー嬢、紹介して欲しいんじゃ無かったのかよ?」



 うわー、でぇ。

 ここで名前出すんだ……。



 グイドの本気に俺は動揺した。



「俺は……」



 言い訳すれば、その時の俺は本当に、彼女と『ただ話してみたい』としか思ってなかった。

 と言うか、彼女に結婚予定のデニスがいる限り、そういう対象に見てはいけないって思ってたふしがある。

 なんせ相手は婚約者のいる辺境伯令嬢なのだ。

 身分の差を考えたら、学園の外では絶対逢えないくらいの人だった。

 だからグイドが肩にガシッと腕を回して来て耳元で一言こぼすまで、俺が彼女と親しくなれなくてもそれは仕方ない事だと思っていた。



「デニスの野郎ヤロー『婚約者居るのに、それ以外の女の子と遊び回ってる』って、噂になってるぞ」

「は?」



 思わずグイドの顔を見た。

 真顔で返され嘘じゃ無いって感じ取った。
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