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本編
29.おじい様参上③
しおりを挟む「お前に継がせるものなど有りはせん! そのひん曲がった性根をワシが直々に叩き直してやるから覚悟しておけ!」
再びおじい様が吠える。
「ひぇぇ! ステファニー助けて!」
小さな子どものころ、毎回そうして助けを求めていたように、デニスは一目散で私の後ろに走ってきた。
もう青年に育ち切ってしまった今、彼が私に隠れられるはずはないが、もうおじい様に叱られた時の条件反射になっているらしい。
私のスカートを握り締め身を小さく屈めている姿は、領館で飼っている猟犬のようで……。
思わず笑ってしまったのは許して欲しい。
しかしその様子がブラッドの逆鱗に触れていたようだ。
「おい。何やってる」
「へ?」
「勝手にステフィーに触るな」
「いや、その、わー! やめてくれ!」
自分と同じくらいの大きさのデニスを、どこにそんな力があるのだろうと思うほど軽々と担ぎ上げ、ブラッドリーはデニスをおじい様の前に下ろした。
ただ、丁寧ではなかった……。
目の前にデニスを置かれて、おじい様は複雑な心境だろうと思うが、それでもブラッドと私に、温かい言葉をかけるのは忘れない。
「ブラッドリー。今後はステファニーの伴侶として、この子を大切に頼むよ」
「はい、必ず大切にします」
「ブラッド……」
不意打ちで嬉しい言葉をもらって心が震えた。
優しく見詰めてくる彼の蒼玉の瞳に吸い込まれそう。
私はこの時、ブラッドに恋をしたと認めない訳にいかなくなった。
しかし、そんな甘やかな時間は長く続かない。
「そこのご令嬢」
「え? 私でしょうか?」
「そう、デニスの恋人だとか?」
「あ……お初にお目にかかります。フォールン男爵が長女ブリトニーと申します」
あらブリトニー。
あなた、まともな挨拶もできたのね。
ちょっと失礼かもしれないけど、多分学園の女生徒の大半がそう思っているだろうから許して欲しい。
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