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本編

12.辺境伯領③

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 私は最終日の夜会を待たずに、もう彼を紹介してしまうことにした。



「ブラッド……。こちら分家のデニス・アンバー殿。それからデニスのお付き合いしているブリトニー・フォールン嬢よ」

「はじめまして、ブラットリー・ローマンです。この度ステファニー・グランデ嬢と婚約致しました。今後ともよろしくお願いします」

「え? 婚約? そうなんだ。おめでとう」



 デニスはちょっと驚いていたけれど、ここに彼がいる理由が分かったからか、変な目で見ることはなくなった。

 二人があいさつを返さない無作法は予想できたので、もうこの際無視しよう。

 それよりブリトニーの様子がおかしい事のほうが問題だ。



「ローマン様……」



 彼女はブラッドがこの部屋に入ってきた時から、ボーッと彼を見つめていて何だか嫌な感じがする。



「ご婚約って?」

「最終日の夜会で発表するんだけど、デニスは幼なじみだし、社交界デビューのパートナーのこと、もしかして気にしてるかなって思って、先に紹介したのよ」



 私の都合を考えず、恋人のことをこっちから聞くまで黙っていたデニスに、ちょっとだけ嫌味をこめて言ってしまったんだけど、それくらい良いわよね?



「あぁ、そうなんだ」



 だけどデニスに嫌味は通じなかったみたいだ。



「そうなんですか……」



 デニスの代わりにブリトニーが不服そうに呟いた。

 学園の噂の時も思ったが、この子は見目良い男性すべてから自分が称賛されると思っているような気がする。

 デニスは本当にブリトニーと結婚して大丈夫かしら?

 彼女がちゃんとデニスを支えてくれると良いのだけど……。

 幼なじみで元婚約者としては、どうしても心配してしまう。

 だけどそれは大きなお世話だろうと思い直した。

 

「デニス。彼女は俺がエスコートするから、安心してくれていいよ」

「あ、あぁ。相手が決まって良かったな」



 ブラッドの若干イラついた声にハッとした。

 もしかしたら、エスコートの約束があったのに恋人を作って報告もしなかったことをブラッドは怒ってくれているのかも……。

 以前の私なら、婚約者としての気遣いと思ったかもしれないが、彼の気持ちを聞いた今、これは純粋に好意から来るものだと分かって、ちょっと照れてしまう。

 そんな浮かれ気味の私に突き刺さるのは、ブリトニーの鋭い視線。

 彼女の態度は私の神経を逆撫さかなでする。

 デニスがいるのにブラッドにまで色目を使わないで欲しい。
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