上 下
67 / 69

帰国

しおりを挟む
 数日ぶりに帰ってきたレディーナ王国は、国全体がざわついているように思えた。街を往来する人々の表情も、陰りを帯びている。
 まさか、国を揺るがすほどの事態が発生しているのでは。アニュエラとシェイルは王宮へと急いだ。
 宮内にはどういうわけか、近隣諸国の要人たちの姿があった。その中には二人と旧知の間柄の者もいるが、共通しているのは、皆深刻そうな顔付きをしているということだ。

「何があったのかしら……」

 まるで蜂の巣をつついたような喧噪の中で、立ち尽くす二人。そんな彼らへ一人の男が歩み寄る。

「ああ、帰ってきたかお前たち」
「お兄様!」

 見知った人物との再会に、アニュエラは安堵で表情を緩ませた。

「無事に帰って来てくれてよかったよ。帝国の奴らのことだ。お前たちを人質にして、理不尽な要求をふっかけてくる可能性もあったからな」

 ドミニクも安心したような笑みを浮かべて、シェイルへと視線を移す。

「よくぞ妹を守ってくれた。感謝するぞ」
「いえ、私は何もしておりません。それより、この騒ぎはいったい何ですか? まさか、陛下の身に何か……」
「いや、陛下はご健在だ。だが、これから心労で倒れる予感がするが」

 ドミニクは苦笑して、含みのある物言いをする。目下の不安は解消されたものの、新たな疑問が生まれた。一向に事態が呑み込めずにいる妹夫婦に、ドミニクは深い溜め息をついて語り出す。

「お前たちが帝国に行っている間に、ミジュームがえらいことになってな」
「ミジュームが?」
「ノーフォース公爵の殺害した犯人が捕まった」
「本当ですの?」

 アニュエラの顔がさっと強張る。シレネ曰く、彼の死にアグニ―ル帝国は無関係だという。

『私はノーフォース公爵宛てに書状を送りました。ミジューム国王夫妻の謝罪を要求する旨をしたためたものです。あの方なら了承して、あの二人を差し出してくれると思っていたのですが……』

 要求を呑めば、慰謝料と引き換えにサディアスを釈放するつもりだったという。だが、返ってきたのは、嘆願書とは名ばかりの抗議文。
 激怒した皇帝はそれを破り捨て、ミジューム王国に宣戦布告を出したという。そのため、シレネは嘆願書の中身を確認していなかった。だが皇帝によると、サディアスの非礼を詫びながらも、シレネが息子を誘惑したのではないかと疑うような文面だったそうだ。

『ですから、私たちもノーフォース公爵が殺されたという情報を掴んだ時は、驚きました』
 アグニール帝国による犯行ではないのなら、いったい誰が。帰りの場所で、アニュエラたちは議論を続けたものの、結論は出なかったのだ。 

「公爵を殺したのは、王妃だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

あなたの子ではありません。

沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。 セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。 「子は要らない」 そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。 それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。 そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。 離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。 しかし翌日、離縁は成立された。 アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。 セドリックと過ごした、あの夜の子だった。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

処理中です...