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暴走
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一同が地下に辿り着くと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
サディアスが背後からシレネを組み伏せ、その喉元にナイフを突き付けていたのだ。
「さあ、早く言ってくれ。私を心から愛していると」
サディアスがシレネの耳元で甘く囁く。シレネが無言で首を横に振ると、彼女の両手を捩じ上げている腕に力を込めた。う、と低い呻き声が上がる。
「殿下を離せ!」
「貴様らは黙っていろ! 私を誰だと思っている!?」
この国の皇女に暴行を働く不届き者が、声を荒らげる。囚人用の粗末な衣服を着ていることもあり、王族の人間には到底見えない。
「私をこんなところに閉じ込めたのも、単なる照れ隠しだったんだろう? 私を檻から出した者は、君が私を処刑するつもりだと言っていたが、私は信じていないから安心してくれ。ああ、早く君と一つになりたい……」
サディアスが妄言を吐いている間にも、地下に続々と兵士たちが集まってくる。その手に握られているナイフを見て、一様に表情を強張らせる。
「シレネ! 何を躊躇っているのだ! 私を愛していると、早く皆の前で……!」
「そこまでになさってください、殿下」
サディアスの言葉を遮るように、アニュエラが口を挟む。興奮で血走った目が、元妻の姿を捉える。
「ア、アッ、アニュエラァ!?」
「お久しぶりですわね」
アニュエラはにこりと微笑んで、カーテシーをした。それから、一歩進み出る。するとサディアスの口から「ひっ」と悲鳴が漏れた。ほんの少し近付いただけなのに、失礼な反応だ。
「バカなことはやめて、手に持っている物を早く捨ててください」
「バ、バカなこととは何だ。側妃の分際で、私に口出しをするな!」
「あら、お忘れになりましたの? 私はもうあなたの側妃ではありませんわ」
「そんなの私は認めていないぞ! 君はまだ私の側妃だ! 私の所有物だ!」
サディアスが顔を真っ赤にして、反論してくる。拘束生活が続いた弊害なのか、記憶が混濁しているようだ。
(……いいえ。この人は、正気でもこんな感じだったわね)
この妄想癖が数多くの人間を困らせてきたのだ。
アニュエラはちらりとシレネへ目を向ける。王家にどんな恨みがあるかは知らないが、サディアスの悪癖を利用したのが間違いだったのだ。
「見苦しいですわよ、殿下。シレネ皇女殿下には、将来を誓ったお相手がいますの。あなたのことなど、眼中にありませんわ」
「それは親同士で決めた結婚ではないか! だが、私とシレネは違う! 真実の愛で結ばれているのだ!」
声高らかに宣言するサディアスの下で、シレネが大きくかぶりを振る。この男を選ぶくらいなら、ミジンコと結婚した方がマシだろう。
アニュエラは心からの侮蔑を込めて、嘲笑した。
「真実の愛? 随分と安っぽい言葉ですわね」
「な、何だと!?」
「懐かしいですわね、そのお言葉。私も初めて囁かれた時は、少し嬉しかったですけれど……今は耳障りなだけですわ」
サディアスの中に少しずつ蓄積されていった怒りが、その言葉でついに爆発した。
「貴様ぁぁぁぁっ!」
シレネの上から離れ、喚き散らしながら迫りくるサディアス。だが、アニュエラは露とも表情を変えず待ち構える。
そして、
「私の妻に触れるな」
アニュエラの背後に控えていたシェイルが、手にしていた剣でサディアスの利き腕を斬り飛ばす。ナイフを握ったままの右腕が、赤い孤を描きながら宙を舞った。
サディアスが背後からシレネを組み伏せ、その喉元にナイフを突き付けていたのだ。
「さあ、早く言ってくれ。私を心から愛していると」
サディアスがシレネの耳元で甘く囁く。シレネが無言で首を横に振ると、彼女の両手を捩じ上げている腕に力を込めた。う、と低い呻き声が上がる。
「殿下を離せ!」
「貴様らは黙っていろ! 私を誰だと思っている!?」
この国の皇女に暴行を働く不届き者が、声を荒らげる。囚人用の粗末な衣服を着ていることもあり、王族の人間には到底見えない。
「私をこんなところに閉じ込めたのも、単なる照れ隠しだったんだろう? 私を檻から出した者は、君が私を処刑するつもりだと言っていたが、私は信じていないから安心してくれ。ああ、早く君と一つになりたい……」
サディアスが妄言を吐いている間にも、地下に続々と兵士たちが集まってくる。その手に握られているナイフを見て、一様に表情を強張らせる。
「シレネ! 何を躊躇っているのだ! 私を愛していると、早く皆の前で……!」
「そこまでになさってください、殿下」
サディアスの言葉を遮るように、アニュエラが口を挟む。興奮で血走った目が、元妻の姿を捉える。
「ア、アッ、アニュエラァ!?」
「お久しぶりですわね」
アニュエラはにこりと微笑んで、カーテシーをした。それから、一歩進み出る。するとサディアスの口から「ひっ」と悲鳴が漏れた。ほんの少し近付いただけなのに、失礼な反応だ。
「バカなことはやめて、手に持っている物を早く捨ててください」
「バ、バカなこととは何だ。側妃の分際で、私に口出しをするな!」
「あら、お忘れになりましたの? 私はもうあなたの側妃ではありませんわ」
「そんなの私は認めていないぞ! 君はまだ私の側妃だ! 私の所有物だ!」
サディアスが顔を真っ赤にして、反論してくる。拘束生活が続いた弊害なのか、記憶が混濁しているようだ。
(……いいえ。この人は、正気でもこんな感じだったわね)
この妄想癖が数多くの人間を困らせてきたのだ。
アニュエラはちらりとシレネへ目を向ける。王家にどんな恨みがあるかは知らないが、サディアスの悪癖を利用したのが間違いだったのだ。
「見苦しいですわよ、殿下。シレネ皇女殿下には、将来を誓ったお相手がいますの。あなたのことなど、眼中にありませんわ」
「それは親同士で決めた結婚ではないか! だが、私とシレネは違う! 真実の愛で結ばれているのだ!」
声高らかに宣言するサディアスの下で、シレネが大きくかぶりを振る。この男を選ぶくらいなら、ミジンコと結婚した方がマシだろう。
アニュエラは心からの侮蔑を込めて、嘲笑した。
「真実の愛? 随分と安っぽい言葉ですわね」
「な、何だと!?」
「懐かしいですわね、そのお言葉。私も初めて囁かれた時は、少し嬉しかったですけれど……今は耳障りなだけですわ」
サディアスの中に少しずつ蓄積されていった怒りが、その言葉でついに爆発した。
「貴様ぁぁぁぁっ!」
シレネの上から離れ、喚き散らしながら迫りくるサディアス。だが、アニュエラは露とも表情を変えず待ち構える。
そして、
「私の妻に触れるな」
アニュエラの背後に控えていたシェイルが、手にしていた剣でサディアスの利き腕を斬り飛ばす。ナイフを握ったままの右腕が、赤い孤を描きながら宙を舞った。
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