上 下
57 / 69

投獄

しおりを挟む
 手紙には、サディアスの「やらかし」が事細かに綴られていた。
 シレネの寝室に忍び込み、暴行を働こうとしていたらしい。すぐに駆け付けた護衛兵に取り押さえられ、大事には至らなかったようだが、この件は翌日の帝都新聞で大々的に報じられた。他国の王子の愚行を、全帝国民の知るところとなった。

 当然、ミジューム王国にも怒りの書状が届けられた。王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっているだろう。

 捕縛されたサディアスは、現在貴族用の牢屋で取り調べを受けているという。
 しかしその内容は、聞けば誰もが頭が痛くなってくるような内容だった。

『何故私が罪人として囚われなければならない! 私を誰だと思っている!』
『シレネ殿下への暴行? 何を言っているんだ? 私はただ彼女と愛を確かめ合おうとしただけだ』
『殿下に聞いてみるといい。私とあの方は相思相愛なのだ。男女の仲になったら、やることは一つだろう?」

 この取り調べの様子も新聞に掲載され、帝国民は怒りに震えたそうだ。当然だろう。シレネ皇女には、れっきとした婚約者がいる。サディアスはそのことを知ってか知らずか、自分に都合のいい妄想を垂れ流しているに過ぎない。
 ただ思い込んでいるだけならよかった。しかし、超えてはならない一線を超えてしまったのだ。

 ソフィー王女の一件は、ミリアの暴走によって引き起こされたものであり、サディアスが直接関与したわけではない。だがしかし、今回は完全に加害者の立場にある。

 王太子が他国の皇女、しかも皇位継承権のある女性を辱めようとした。
 しかも、自分たちは愛し合っていると豪語している。前代未聞だ。世界中のどこを探しても、同じような事件はないだろう。あの男だからこそ、引き起こせた・・・・・・と言っても過言ではない。

(極刑……は免れたとしても、終身刑かしら)

 どちらにせよ、ミジューム王国の未来は暗い。サディアスを処刑して済む話ではないのだ。レディーナ王国だけでなく、アグニール帝国までをも激怒させたのである。

(知らん振りといきたいところだけど、そういうわけにもいきませんわね)

 アニュエラは小さく溜め息をつき、手紙の封筒に目を向ける。使用されているのは、ミジューム王家であることを示す封蝋だ。
 ミジューム国王直筆の手紙。その最後は、アニュエラに助けを求める文章で締め括られていた。

 当然、無視することも出来る。だが虫の知らせを感じて、アニュエラは母国へ帰ることにした。

 そしてそれは正しかったと、すぐに悟るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...