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いつから
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ノーフォース公爵がどれほどの苦しみを味わったのか、その仄暗い声と表情が物語っていた。
一方国王は羞恥からか、怒りからか顔を真っ赤にして俯いている。一国の主とは思えない、情けない姿にサディアスは視線を逸らした。見ていられない。
そして新たな疑問を、公爵への配慮など一切考えることなく口にした。
「どうしてそのことを公表しなかったのだ? 妻を許し、ミリアにも愛着が湧いていたのか?」
「はい?」
お前は何を言っているんだ、とでも言うようにノーフォース公爵は首を傾げた。
しかしサディアスはお構いなしに、自らの考えを述べる。
「だって、そういうことだろう。たとえ血が繋がっていなくとも、家族は家族と割り切って愛していたのでは……」
「でしたら殿下。逆にお伺いしますが、もしミリアが無事出産した後に父親が殿下以外の誰かだと判明したら、そのことを公にされましたか?」
「バカなことを言うな! 出来るわけないだろう!」
「それと同じですよ。貴族にとって、醜聞は一番の敵ですからね」
怒りより当主としての体裁を守る道を選んだのだろう。
だが国王への憎悪は、決して消えることがなかった。
いや、復讐の対象は国王だけではない。
「真実を問い詰めても、妻は『自分は悪くない』と開き直り、私へ心ない言葉を繰り返しました。そして『子供を産んでやったのだから感謝しろ』と傲慢な振る舞いをするようになったのです。私に抱かれる意味はないからと、他の貴族や高級娼館へ通うようになってました。それを見ていたミリアも同様に」
「……ミリアも?」
「おや、ミリアは元から男遊びの激しい娘でしたよ? そうでなければ、種を求めて娼館に足繁く通ったりしないでしょう」
王太子の無知ぶりを、ノーフォース公爵は愉しそうに笑った。
すると暫く押し黙っていた国王が、重い口を開く。
「王家に援助金を出したことも、ミリアを差し出したことも全て復讐のためか……」
「もちろん。あの時の水害で支援をしたのは、王都や高位貴族が治めている領地だけだったにも拘わらず、何故か国庫が底を尽きかけていることも存じておりました」
「…………」
「殿下の体質も把握していました。何せ検査に携わった医師は、私とは古くからの友人でしたからね。彼から
話を聞いた時、今回の計画を思い付きました」
「く、狂ってる……」
掠れた声でぽつりと言ったのはサディアスだ。
その顔に浮かんでいるのは、同情ではなく困惑と侮蔑だった。
「個人的な復讐で王家を、国内外を滅茶苦茶にするなんて何を考えているのだ……!」
「確かにレディーナ王国の件は、流石の私も想定外でした。ですから、そのケジメとして行ったのが領地の譲渡です。ルマンズ侯爵もそれを望んでいました」
「ルマンズ侯爵とはやはり繋がっていたのか!?」
「半分当たりで半分外れです。当初の私は、ミリアを利用して王宮内を乱すことしか考えていませんでした。復讐のことしか頭になかった。ですが交流会の後、私の計画に気付いたある女性が書状を送ってきました。『どうせなら、復讐の方向性を変えてみてはいかがですか?』と」
ノーフォース公爵の顔付きが穏やかになる。
だが、それとは対照的にサディアスの顔は引き攣っていた。
ある女性。一人だけ心当たりがある。
「アニュエラ……?」
彼女の名を零すと、公爵は「流石は殿下。よくお分かりになりましたね」と白々しい口調で賞賛した。
一方国王は羞恥からか、怒りからか顔を真っ赤にして俯いている。一国の主とは思えない、情けない姿にサディアスは視線を逸らした。見ていられない。
そして新たな疑問を、公爵への配慮など一切考えることなく口にした。
「どうしてそのことを公表しなかったのだ? 妻を許し、ミリアにも愛着が湧いていたのか?」
「はい?」
お前は何を言っているんだ、とでも言うようにノーフォース公爵は首を傾げた。
しかしサディアスはお構いなしに、自らの考えを述べる。
「だって、そういうことだろう。たとえ血が繋がっていなくとも、家族は家族と割り切って愛していたのでは……」
「でしたら殿下。逆にお伺いしますが、もしミリアが無事出産した後に父親が殿下以外の誰かだと判明したら、そのことを公にされましたか?」
「バカなことを言うな! 出来るわけないだろう!」
「それと同じですよ。貴族にとって、醜聞は一番の敵ですからね」
怒りより当主としての体裁を守る道を選んだのだろう。
だが国王への憎悪は、決して消えることがなかった。
いや、復讐の対象は国王だけではない。
「真実を問い詰めても、妻は『自分は悪くない』と開き直り、私へ心ない言葉を繰り返しました。そして『子供を産んでやったのだから感謝しろ』と傲慢な振る舞いをするようになったのです。私に抱かれる意味はないからと、他の貴族や高級娼館へ通うようになってました。それを見ていたミリアも同様に」
「……ミリアも?」
「おや、ミリアは元から男遊びの激しい娘でしたよ? そうでなければ、種を求めて娼館に足繁く通ったりしないでしょう」
王太子の無知ぶりを、ノーフォース公爵は愉しそうに笑った。
すると暫く押し黙っていた国王が、重い口を開く。
「王家に援助金を出したことも、ミリアを差し出したことも全て復讐のためか……」
「もちろん。あの時の水害で支援をしたのは、王都や高位貴族が治めている領地だけだったにも拘わらず、何故か国庫が底を尽きかけていることも存じておりました」
「…………」
「殿下の体質も把握していました。何せ検査に携わった医師は、私とは古くからの友人でしたからね。彼から
話を聞いた時、今回の計画を思い付きました」
「く、狂ってる……」
掠れた声でぽつりと言ったのはサディアスだ。
その顔に浮かんでいるのは、同情ではなく困惑と侮蔑だった。
「個人的な復讐で王家を、国内外を滅茶苦茶にするなんて何を考えているのだ……!」
「確かにレディーナ王国の件は、流石の私も想定外でした。ですから、そのケジメとして行ったのが領地の譲渡です。ルマンズ侯爵もそれを望んでいました」
「ルマンズ侯爵とはやはり繋がっていたのか!?」
「半分当たりで半分外れです。当初の私は、ミリアを利用して王宮内を乱すことしか考えていませんでした。復讐のことしか頭になかった。ですが交流会の後、私の計画に気付いたある女性が書状を送ってきました。『どうせなら、復讐の方向性を変えてみてはいかがですか?』と」
ノーフォース公爵の顔付きが穏やかになる。
だが、それとは対照的にサディアスの顔は引き攣っていた。
ある女性。一人だけ心当たりがある。
「アニュエラ……?」
彼女の名を零すと、公爵は「流石は殿下。よくお分かりになりましたね」と白々しい口調で賞賛した。
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