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疑惑

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「お久しぶりでございます、陛下。こうしてお会いするのは何年ぶりでしょうか」

 ミリアの件を書状で知らせたはずなのに、登城したノーフォース公爵は余裕の笑みを保っていた。
 自分の娘が、とんだ色情狂だと判明したのだ。親として絶望するのが普通ではないだろうか。常と変わらぬ様子の公爵に、サディアスは薄気味悪さを感じた。
 それは国王も同じだったのか、呼び出したのはこちらだというのに、怯えの表情を僅かに見せる。

「……公爵よ、用件は分かっているな」
「ミリアのことでしょうな。この度は娘がとんでもない愚行を仕出かし、大変申し訳ございませんでした」

 ノーフォース公爵は一切弁解することなく、頭を下げた。この所作も、どこか演技じみているように見えるのは気のせいだろうか。国王の傍らで、サディアスは静かに二人のやり取りを見守る。

「あの娘は、私の妻とよく似て・・おります故。このようなことに大して抵抗もなかったのでしょうね。しかも、こう言い張っておりませんか? 『私はただ、母様の真似をしていただけ』と」
「……そうなのですか?」

 現在、ミリアは王宮の北側に位置する地下牢に幽閉されている。
 罪人となった王族を収容するための場所だ。ミリアには、托卵の容疑がかけられている。
 確定したわけではない。あくまで容疑だ。だが、多くの男娼と体を重ねてきたことは確かった。

 王太子妃による姦通かんつう罪。立派な重罪である。

 煌びやかな王宮内に存在する、掃き溜め。ミリアは既にそこで何日間も過ごしている。
 侍従に面会に行かないかと促されたが、サディアスが首を縦に振ることはなかった。
 ミリアは救いようのない愚かな娘だった。王宮の人々を振り回し、レディーナ王国には悪名を残した。
 だが自分への愛情だけは、本物だと信じていたのだ。
 それを最悪の形で裏切られた。自尊心を土足で踏みにじられ、引き裂かれたような気分だ。
 どのような顔で会いに行けばいいのか、分からなかった。

 しかし国王は一度、ミリアに会いに行ったと聞いていた。
 その時二人がどのような会話をしたのか、サディアスは知らずにいた。

「……その通りだ。ミリアは、今も自分の罪を認めようとしていない。自分の母親のせいだと言い張っている」
「母親の……?」

 ノーフォース公爵夫人は、病で亡くなっている。何故死んだ母親に責任を押し付けようとしているのだろう。幽閉生活で、本格的に精神をやられてしまったのかもしれない。

「……ミリアは中々子を宿さなかった」
「は、はい。ですが、それは私たちにはどうすることも出来ませんでした」
「その通りだ。だから、他の男と関係を持ち、子を宿そうとしたのだ。そして恐らく成功した」
「……仰っている意味がよく分かりません。それではまるで、私との間には子を成せないと言っているようなものですよ」

 冗談めいた口調で笑う飛ばす。
 だが国王は何も言い返そうとしない。強張った表情で視線を逸らすだけだ。
 
 サディアスの表情が凍り付いた。

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