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ミリアの帰還
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ミリアが王宮に戻ったのは、一ヶ月後のことだった。
本当は戻りたくなかったが、父に「何も心配しなくていい」と言われて送り出されたのだ。
きっと自分をバカにした連中を処分してくれたのだろう。
宮内中の使用人が、ミリアを出迎える。
「お帰りなさいませ、ミリア様」
「……?」
「如何なさいました?」
「あなたたち……誰ですの?」
見知らぬ顔ばかりが並んでいる。疑問に思っていると、侍女の一人がにこやかに言った。
「以前の使用人たちでしたら、全員解雇されました」
「あら……そうでしたのね」
父に追い出されたのだろう。もしかしたら自分は全員に嫌われていたのかもしれない。
そう考えると無性に腹が立ってくるが、どうせ二度と会うこともないのだ。彼らのことは忘れることにした。
「それより、サディアス様はどこにいらっしゃるの? せっかく私が帰ってきてあげたのに、お出迎えもなしですの?」
「王太子殿下なら間もなくいらっしゃるかと……ああ、あちらでございます」
侍女が視線を向けた方向から、サディアスがこちらへ歩いてくる。
心なしか前に会った時よりも痩せて顔色も悪いが、その美貌は健在だ。
「お帰り、ミリア。君が帰って来るのを待っていたよ」
「サディアス様っ!」
以前のように優しく声をかけられ、それだけでミリアの気持ちは舞い上がった。
(暫く離れていて、私の大切さに気付いたのね。分かってくれたならいいのよ)
熱烈な抱擁を受け、うっとりと目を細める。
この時ミリアは気付いていなかった。自分を抱き締めるサディアスの顔が、ひどく強張っていたことに。
「くれぐれも、ミリア妃を大事になさってくださいね」
「……分かった」
二人の再会を物陰から窺っていた宰相からの忠告に、サディアスは力なく頷いた。
宰相と言っても、ノーフォース公爵が用意した新任者だ。
サディアスがよく知る宰相だった男は、既にこの世にいない。
公爵が王宮にやって来た日の夜、毒杯を煽って死んだ。
宰相の部屋には遺書が残されていたが、国王はそれに目を通すとすぐに燃やしてしまった。
そのため、何が書かれていたのかは国王以外誰も知らない。
サディアスが宰相の死を知ったのは、その数日後のことだった。それと同時に、後任者を紹介された。
(いや、宰相だけではない)
文官や侍従、使用人も解雇されて、新しい者たちがやって来た。使用人に至っては、総入れ替えだ。
ミリアは解雇されたと説明を受けたようだが、実際は多くの者が辞職の道を選んだ。さらにノーフォース公爵家から退職金が支払われ、再就職先も用意されるという破格の待遇を受けている。
皆が笑顔で王宮から去って行った。だが、例外もある。
一部の文官、侍従は罪人として捕らえられた。いずれも、汚職に手を染めていた者たちだ。
サディアスの取り巻きたちも、その中に含まれている。
(何故そんなバカなことを……)
多少の不正なら、サディアスも把握していたし目を瞑っていた。
自分の侍従たちと酒を飲んでいる時、酔いが回った彼らがそれらしいことを仄めかしていた。だが、そんなもの要職に就く者なら誰もがやっていることだ。
たかが汚職程度で人を減らしていては、そのうち人材不足に陥る。
国家予算に影響が出るようであれば、民たちに違和感を持たれない程度に税を引き上げればいい。
ノーフォース公爵も、それくらいのことは理解しているはずなのだが……
(……くそっ! あの男、ミジュームを自らの思うがままにするつもりか……!)
自分たちは公爵に嵌められたのだ。
本当は戻りたくなかったが、父に「何も心配しなくていい」と言われて送り出されたのだ。
きっと自分をバカにした連中を処分してくれたのだろう。
宮内中の使用人が、ミリアを出迎える。
「お帰りなさいませ、ミリア様」
「……?」
「如何なさいました?」
「あなたたち……誰ですの?」
見知らぬ顔ばかりが並んでいる。疑問に思っていると、侍女の一人がにこやかに言った。
「以前の使用人たちでしたら、全員解雇されました」
「あら……そうでしたのね」
父に追い出されたのだろう。もしかしたら自分は全員に嫌われていたのかもしれない。
そう考えると無性に腹が立ってくるが、どうせ二度と会うこともないのだ。彼らのことは忘れることにした。
「それより、サディアス様はどこにいらっしゃるの? せっかく私が帰ってきてあげたのに、お出迎えもなしですの?」
「王太子殿下なら間もなくいらっしゃるかと……ああ、あちらでございます」
侍女が視線を向けた方向から、サディアスがこちらへ歩いてくる。
心なしか前に会った時よりも痩せて顔色も悪いが、その美貌は健在だ。
「お帰り、ミリア。君が帰って来るのを待っていたよ」
「サディアス様っ!」
以前のように優しく声をかけられ、それだけでミリアの気持ちは舞い上がった。
(暫く離れていて、私の大切さに気付いたのね。分かってくれたならいいのよ)
熱烈な抱擁を受け、うっとりと目を細める。
この時ミリアは気付いていなかった。自分を抱き締めるサディアスの顔が、ひどく強張っていたことに。
「くれぐれも、ミリア妃を大事になさってくださいね」
「……分かった」
二人の再会を物陰から窺っていた宰相からの忠告に、サディアスは力なく頷いた。
宰相と言っても、ノーフォース公爵が用意した新任者だ。
サディアスがよく知る宰相だった男は、既にこの世にいない。
公爵が王宮にやって来た日の夜、毒杯を煽って死んだ。
宰相の部屋には遺書が残されていたが、国王はそれに目を通すとすぐに燃やしてしまった。
そのため、何が書かれていたのかは国王以外誰も知らない。
サディアスが宰相の死を知ったのは、その数日後のことだった。それと同時に、後任者を紹介された。
(いや、宰相だけではない)
文官や侍従、使用人も解雇されて、新しい者たちがやって来た。使用人に至っては、総入れ替えだ。
ミリアは解雇されたと説明を受けたようだが、実際は多くの者が辞職の道を選んだ。さらにノーフォース公爵家から退職金が支払われ、再就職先も用意されるという破格の待遇を受けている。
皆が笑顔で王宮から去って行った。だが、例外もある。
一部の文官、侍従は罪人として捕らえられた。いずれも、汚職に手を染めていた者たちだ。
サディアスの取り巻きたちも、その中に含まれている。
(何故そんなバカなことを……)
多少の不正なら、サディアスも把握していたし目を瞑っていた。
自分の侍従たちと酒を飲んでいる時、酔いが回った彼らがそれらしいことを仄めかしていた。だが、そんなもの要職に就く者なら誰もがやっていることだ。
たかが汚職程度で人を減らしていては、そのうち人材不足に陥る。
国家予算に影響が出るようであれば、民たちに違和感を持たれない程度に税を引き上げればいい。
ノーフォース公爵も、それくらいのことは理解しているはずなのだが……
(……くそっ! あの男、ミジュームを自らの思うがままにするつもりか……!)
自分たちは公爵に嵌められたのだ。
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