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新たな側妃を迎え入れるしかない。
王宮が下した苦渋の判断に、真っ向から反論したのはサディアスだった。
「アニュエラを連れ戻せばいいだけの話だ。アレは一時でも王家の人間だったのだから、その務めはしっかり果たさせるべきだろう」
「殿下……アニュエラ妃の廃妃は、議会で承認されたことなのです。それを覆すことなど出来ません」
宰相が力なく首を横に振ると、サディアスはあの言葉を口にした。
「王命で……」
「なりません。それはもはや王族としてではなく、人間として恥ずべき行為です」
諫める言葉にも、いよいよ遠慮がなくなってきた。「あなたは人間として恥ずかしい」と暗に指摘されていると気付き、サディアスの顔が赤く染まる。
「不敬だぞ! このことは父上に報告するからな!」
「気分を害されたのなら謝罪いたします。ですが私も、王命を受けております故」
「は?」
「殿下が暴走しようとした時は、必ず止めるように。そのためなら、多少の暴言も許すと言いつかりました」
「…………」
サディアスが何も言い出せぬ間に、宰相はあるモノを机の上に広げた。
それを見たサディアスは、大きく目を見開く。
「な、何故……何故、こんなものがここにある!?」
他国の王族や高位貴族の子供たちに宛てた書状だ。それらを見下ろす宰相の目は冷たい。
「ご自分の侍従たちに装飾品を与え、それと引き換えに書状を送付させようとした。間違いありませんね?」
「あいつら……私を裏切ったのか」
「違います。殿下を思ってのことです」
唖然とするサディアスに、宰相は溜め息をつく。
「殿下は現在、他国との接触を厳しく禁じられております。お忘れではありませんよね? なのに、我々に何の相談もなく書状を送るとは……親睦を図るのが目的のようですが、このようなものを突然送り付けたら各国から苦情が来てしまいます!」
「だ、だがアニュエラも要人の娘たちと文通をしているではないか。女だから許されるとでも言うのか?」
「恐らくルマンズ侯爵令嬢は、しっかりと段階を踏まれていたかと思われます」
「それはどのようなことだ? 私も実践してみようと思う」
「アニュエラ様にお聞きしなければ、それは何とも」
使えない。サディアスは眉を顰めながら、机に置かれたままの書状の束を抱えた。
(ん?)
『あの国』宛ての書状だけがないことに気付く。
あれを任せたのは、騎士団長の息子だったか。
初めは渋っていたが、大粒のルビーの首飾りを見せると目の色を変えていた。宝石店に売り渡すのか、婚約者に贈るのかは知らないが、上手くやってくれたようだ。
国王や宰相からは「余計なことをするな」という雰囲気が伝わってくるが、そういうわけにもいかない。
レディーナ王国との国交が断絶された以上、この国には新たな友好国が必要となる。
その最有力候補がアグニール帝国。レディーナ王国と同等の国力を誇り、覇権国家の座を争っている。
流石のアニュエラも、あの国にまでは食指を動かしていないだろう。
帝国への書状だけは送ることが出来た。天はまだ自分を見放していないということだ。
心の高揚を隠しながら廊下を歩いていると、どこからか甲高い声が聞こえてきた。
あれは……ミリアの声だ。
「何かあったのか?」
近くにいた者に聞く。
「ミリア妃が自分のアクセサリーが盗まれたと騒いでおりまして……」
「ああ……」
そういえば、侍従たちに渡した装飾品は元々ミリアに買い与えたものだった。
どうせ素直に頼んでも譲ってくれないだろうから、勝手に持ち出したのだが……
「……勝手に騒がせておけ」
王宮の誰かが盗んだことにすればいい。ミリアを疎ましく思っている人間は、大勢いる。犯人を特定出来ず、そのうち有耶無耶のまま忘れ去られるだろう。
王宮が下した苦渋の判断に、真っ向から反論したのはサディアスだった。
「アニュエラを連れ戻せばいいだけの話だ。アレは一時でも王家の人間だったのだから、その務めはしっかり果たさせるべきだろう」
「殿下……アニュエラ妃の廃妃は、議会で承認されたことなのです。それを覆すことなど出来ません」
宰相が力なく首を横に振ると、サディアスはあの言葉を口にした。
「王命で……」
「なりません。それはもはや王族としてではなく、人間として恥ずべき行為です」
諫める言葉にも、いよいよ遠慮がなくなってきた。「あなたは人間として恥ずかしい」と暗に指摘されていると気付き、サディアスの顔が赤く染まる。
「不敬だぞ! このことは父上に報告するからな!」
「気分を害されたのなら謝罪いたします。ですが私も、王命を受けております故」
「は?」
「殿下が暴走しようとした時は、必ず止めるように。そのためなら、多少の暴言も許すと言いつかりました」
「…………」
サディアスが何も言い出せぬ間に、宰相はあるモノを机の上に広げた。
それを見たサディアスは、大きく目を見開く。
「な、何故……何故、こんなものがここにある!?」
他国の王族や高位貴族の子供たちに宛てた書状だ。それらを見下ろす宰相の目は冷たい。
「ご自分の侍従たちに装飾品を与え、それと引き換えに書状を送付させようとした。間違いありませんね?」
「あいつら……私を裏切ったのか」
「違います。殿下を思ってのことです」
唖然とするサディアスに、宰相は溜め息をつく。
「殿下は現在、他国との接触を厳しく禁じられております。お忘れではありませんよね? なのに、我々に何の相談もなく書状を送るとは……親睦を図るのが目的のようですが、このようなものを突然送り付けたら各国から苦情が来てしまいます!」
「だ、だがアニュエラも要人の娘たちと文通をしているではないか。女だから許されるとでも言うのか?」
「恐らくルマンズ侯爵令嬢は、しっかりと段階を踏まれていたかと思われます」
「それはどのようなことだ? 私も実践してみようと思う」
「アニュエラ様にお聞きしなければ、それは何とも」
使えない。サディアスは眉を顰めながら、机に置かれたままの書状の束を抱えた。
(ん?)
『あの国』宛ての書状だけがないことに気付く。
あれを任せたのは、騎士団長の息子だったか。
初めは渋っていたが、大粒のルビーの首飾りを見せると目の色を変えていた。宝石店に売り渡すのか、婚約者に贈るのかは知らないが、上手くやってくれたようだ。
国王や宰相からは「余計なことをするな」という雰囲気が伝わってくるが、そういうわけにもいかない。
レディーナ王国との国交が断絶された以上、この国には新たな友好国が必要となる。
その最有力候補がアグニール帝国。レディーナ王国と同等の国力を誇り、覇権国家の座を争っている。
流石のアニュエラも、あの国にまでは食指を動かしていないだろう。
帝国への書状だけは送ることが出来た。天はまだ自分を見放していないということだ。
心の高揚を隠しながら廊下を歩いていると、どこからか甲高い声が聞こえてきた。
あれは……ミリアの声だ。
「何かあったのか?」
近くにいた者に聞く。
「ミリア妃が自分のアクセサリーが盗まれたと騒いでおりまして……」
「ああ……」
そういえば、侍従たちに渡した装飾品は元々ミリアに買い与えたものだった。
どうせ素直に頼んでも譲ってくれないだろうから、勝手に持ち出したのだが……
「……勝手に騒がせておけ」
王宮の誰かが盗んだことにすればいい。ミリアを疎ましく思っている人間は、大勢いる。犯人を特定出来ず、そのうち有耶無耶のまま忘れ去られるだろう。
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